12月31日(木曜日)大晦日のお参り(前編)
大晦日の日。俺は結衣花を迎えにいくため、彼女の自宅に向かった。
インターホンを鳴らすと、ダッフルコート姿の結衣花が現れる。
「こんばんは。お兄さん」
「よぉ、結衣花」
辺りを見渡した結衣花は訊ねてきた。
「楓坂さんは?」
「ああ、すぐにくるって言ってたぜ」
なんでもブイチューバーにとって大晦日は書き入れ時らしい。
楓坂はすでに自分のチャンネルを閉じていたが、知り合いのブイチューバーのために動画編集を手伝っているそうだ。
「そういえば、うちの会社に
先日、受付のあおいさんが結衣花の身内だと初めて知ったので訊ねてみた。
だが、彼女はきょとんとした反応を見せる。
「そうなの?」
「……知らなかったのか」
「広告代理店で働いていることは知っていたけど、どこの会社かまでは知らないんだよね。でも紺野お兄ちゃんがいるなら、たぶんそうかな」
「曖昧だな……」
「だってお姉ちゃんは一人暮らしをしていて、こっちに帰ってくるのはお正月だけなんだよ」
「あぁ、大学の時から一人暮らしなわけか」
「うん、それ」
てっきり兄弟だから知っているものとばかり思っていたが、そうでもないんだな。
だが、勤め先の社名まで知っていることはあまりないのかもしれない。
実際、うちの妹も俺の勤務先のことは知らないだろう。
「しかし、まさかすぐ近くに結衣花の身内が二人もいるとはな……」
偶然とはいえ、こんなことがあるのだろうか。
だが結衣花には心当たりがあるらしく、考えるそぶりを見せる。
「うーん」
「なんだ……、その反応……」
「いちおう理由があるっていうか、そうなるのが自然というか……」
「訳ありってことか?」
「私の勝手な想像なんだけど……聞く?」
「興味深々ではある」
「お兄さんって意外とミーハーなところあるよね」
ミーハーと言われると抵抗はあるが、男も噂話は好きだったりする。
もちろん俺はクールな男だ。
そこは揺るがない。
だがしかし、他人の裏事情というのはなかなかどうして面白いのだ。
自分のことを棚に上げてと言われそうだが、これは人としての本能なのだから仕方がないと主張したい。
そして結衣花から驚きの一言が……。
「お姉ちゃんはね、紺野お兄ちゃんのことを昔から好きだったの」
「……マジで?」
「うん。で、紺野お兄ちゃんもお姉ちゃんのことが好きなの」
「……マジで!?」
「客観的にはね」
へぇ……。普段は邪見にしているのに、真逆の気持ちを持っていたのか。
いわゆるツンデレというものだろうが、これは予想外だ。
「そういえば、紺野さんの紹介でうちの会社に入ったって聞いたな」
「たぶんお姉ちゃんの方から頼んだんじゃないかな」
「なるほど……」
さっきまでは結衣花の身内が俺の回りに集まっていることが不思議だったが、紺野さんの存在を中心に考えると納得できる。
俺は新人時代、紺野さんに教育係をしてもらったことがあった。
営業トークや企画内容も紺野さんの影響が色濃く出ている。
結衣花がどうして初めて会った俺を気にしてくれたのか疑問に思う時もあるが、紺野さんの影響を受けた俺に親近感を覚えやすかったと考えることもできる。
結衣花は俺の腕に掴まって身を寄せた。
「さっきお正月は帰ってくるって言ったでしょ? それだって家族に会いに来るっていうより、お正月の挨拶にくる紺野お兄ちゃんが目当てだったりするし」
「数年間ずっと想い続けているわけか……。意外と純情なんだな」
「会っても冷たい態度しかできないんだけどね」
結衣花も紺野さんとは仲がいいと言っていたし、本当は少しジェラシーがあったのかもしれない。
だからと言ってそういう部分を見せないのは彼女らしいところだ。
「
すると結衣花は俺の顔を覗き込むように見上げた。
「あー。そういう事言うんだ。ふーん」
「……な、……なんだよ」
「お兄さんだって、普段は全然素直になれないくせにと思って」
「俺、結構素直な方だと思うぜ」
「どうかなぁ~」
ジト目で俺を見ながら、結衣花は遊ぶように俺の腕をムニムニと揉む。
なにかを伝えようとしているようにも見えるし、甘えているようにも見える。
結衣花の態度にどう反応していいのか困っていた時、遅れてやってきた楓坂が挨拶をした。
「結衣花さん、笹宮さん。お待たせしました」
「おつかれ。用事は済んだのか?」
「はい。少し動画編集を手伝っていただけですので」
「じゃあ、全員揃ったし、お寺に行くか」
■――あとがき――■
いつも読んで頂き、ありがとうございます。
☆評価・♡応援、とても励みになっています。
次回、お寺に行くとあの人がいた!?
投稿は朝7時15分。
よろしくお願いします。(*’ワ’*)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます