12月28日(月曜日)受付の女子社員
十二月二十八日の月曜日。
噂によると、すでに休みに入っている会社もあるらしい。
うらやましい限りだ。
だが、俺達の会社はこの時期の方が忙しい。
特に俺は家電量販店を担当することが多いので、年末セールのイベントの仕事が入っていた。
さて……、朝礼が終わったらすぐに現場直行だな。
時計を見ようとして視線を上げると、音水がチームメンバーと就業時間前の打ち合わせをしている姿が目に入る。
最近の音水は仕事ができるようになり、頼もしさと凛々しさを兼ね備えるようになっていた。
打ち合わせを終えた彼女は立ち上がって俺を見つける。
すると、急に無邪気な笑顔になり俺のところへ駆け寄ってきた。
「笹宮さん、おはようございますっ!」
「ああ。おはよう、音水。今日も元気だな」
「私は笹宮さんのそばにいると元気がチャージされるようになっていますからね」
「そうか。それはなによりだ」
すると空いている隣の席に座って、音水は肩に触れるかどうかという距離まで近づいた。
「くっつけば急速チャージです」
「ここは職場だぞ」
「だけど就業時間前です」
「だからと言って、認めるわけにはいかん」
クリスマスイブの時、俺は彼女の誘いを断っている。
言い換えれば振ったようなものだ。
しかし彼女はまったく気にしている様子がない。
伺うように見る俺に、音水は首を傾げた。
「もしかして、前に言っていた空想彼女さんを気にしているんですか?」
いちおう音水には別の女性とクリスマスを過ごすと伝えている。
だが、まったく信じてくれなかった。
今に至っては空想彼女と言われるほどだ。
もしかして、俺ってバカにされてんの?
「……空想って……あのなぁ……」
「でもクリスマスはなにもなかったんですよね?」
「……まだ結果を話してないだろ」
「でもそうでしょ?」
「……まぁ、……なかったな」
「ほらぁ~」
楓坂とクリスマスの夜は過ごしたが、なにもなかったのは本当なので反論できない。
俺にとって楓坂の存在が大切なことは間違いない。
だがその感情は家族へ向けるものに近い。
結衣花、楓坂、そして俺の三人で過ごす時間が一番心地よかった。
下手に楓坂と関係を深めるとその時間が壊れそうで、なかなか次に進めないでいた。
……と、ここで俺の先輩・紺野さんが出社してきた。
全員に元気よく挨拶をした後、紺野さんは受付のあおいさんの元へ行く。我が社の朝の風物詩だ。
「あおいちゃ~ん、おっはよぉ~ん」
「チッ! おはようございます。目が腐りそうなので席を外しますね」
十一月上旬の時は『目が汚れた』と言っていたけど、いつの間にか悪化している。
よほど紺野さんのことが嫌いなのだろう。
あおいさんは今年入社した受付の女性だ。
ロングヘアーに大きな瞳。
身長は女性としては平均的で、音水より少し高いくらいだ。
無口で人を寄せ付けないが、仕事はテキパキとこなす。
俺は接点がないのであまり話したことはないが、基本的に紺野さん以外の人には丁寧に接している。
「……なあ、音水。あおいさんはなんであそこまで紺野さんを嫌ってるんだ?」
「あの絡み方はウザいですからね……。誰でも嫌になりますよ。それにあおいさんって、基本的に静かな性格ですし」
「毒舌だけどな……」
しかし……あおいか……。
結衣花の苗字も蒼井なんだよな。
とはいえ、同じ苗字なんてよくある話だ。
ここでむりやりこじつけて考えるのは良くないな。
「音水はあおいさんと仲がいいのか?」
「はい。部署は違いますけど同期ですので。女子の中では一番仲がいいですね」
「ほう」
続けて音水は言う。
「男性で一番好きなのは笹宮さんですよ」
「ストレートに言うな。恥ずかしいだろ……」
「照れている笹宮さんもすこです。それにぃ~」
すると音水は人差し指で俺の腹部をいじり始めた。
「私には笹宮さんを籠絡させるという使命がありますからね」
「こ……こら……」
さすがにこの行動は誤解を招かれる。
俺は慌てて彼女の人差し指をつまんで引きはがした。
むっ……とふてくされた顔をする音水。
いや、俺は悪くないだろ。
ここは無理やり話題を変えるしかない。
「ま……まぁ、その……アレだ……」
「あ、話をごまかすんですね。いいですよ。なんですか?」
言い方さぁ……、もうちょっとマイルドにしてくんね。
「紺野さんって妙にあおいさんにちょっかい出してるけど、もしかして狙ってるのか?」
すると音水は不思議そうな顔をした。
「あれ? 知らなかったんですか。あおいさんは紺野さんの親戚なんですよ。この会社も紺野さんの紹介で入ったって聞いてます」
「へぇ……、紺野さんの親戚ねぇ……。……えっ!?」
んんん!? 同じような設定を他でも聞いたことがあるぞ!?
「なあ、音水。それってつまり……結衣花の……」
「はい。あおいさんのフルネームは
「マジかー」
■――あとがき――■
いつも読んで頂き、ありがとうございます。
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次回、大晦日のお参り。
なにも起きない? いいえ、起きますよ。
投稿は朝7時15分。
よろしくお願いします。(*’ワ’*)
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