12月25日(金曜日)クリスマスの告白(2/3)


 部屋に入った俺は、リビングに座る楓坂に飲み物を差し出した。


「ほら、ノンカフェインの紅茶だ」

「笹宮さんも紅茶を飲んでましたっけ?」

「楓坂がこっちに頻繁にくるから備蓄してるんだよ」

「あら、気が利きますね」

「まあな」


 俺も同じように紅茶を飲んで力を抜く。


 本当に大変な数日間だった。

 だがそんな披露もこうして楓坂とのんびりしていると癒されるような気がする。


 俺が楓坂のことをこんなふうに思うようになんて、初めて会った時のことを考えると想像できないぜ。


 すると楓坂はよそよそしくこちらを見た。


「あの……。ありがとうございました」

「みんなのおかげさ。俺はいろんな人に頼みまくっただけだ」


 確かに今回の一件では俺が中心になって動いたかもしれない。

 だけど、みんなの力がなければ何一つ叶わなかっただろう。

 なにより、結衣花があんな無茶をするとは思わなった。


 その時、時計の針が十二時を指した。


「お、二十五日だな」


 長かったイブは終わり、ようやくクリスマスがやってきた。

 今年ほど思い出深いクリスマスはないだろう。


「笹宮さん、メリークリスマス」

「メリークリスマス。まさかこんな形でクリスマスを迎えることになるとは思わなかったぜ」

「うふふ、そうですね」

「……実はクリスマスの約束をしていたが、この騒動で準備ができていないんだ。たいしたことはできないが構わないか?」

「気にしないでください。今こうして一緒にいるじゃないですか。これで十分ですよ」


 と、ここで俺はあることを思い出した。


「そうだ。待ってろ」

「なに?」


 俺は部屋に戻り、事前に用意しておいたものを楓坂に差し出す。


「クリスマスプレゼントだ。よかったら受け取ってくれ」

「わざわざ用意してくれていたんですか?」

「渡さなかったら文句を言うだろ」

「言いますけど……。……その……、ありがとうございます」


 楓坂とクリスマスの約束をした時、必要だろうと先に購入しておいたものだ。

 店員さんに選んでもらったから、たぶん悪いものではないだろう。


 包みを開いた楓坂は中に入っている小瓶を取り出して驚いている。


「香水? やけにセンスがいいですけど、笹宮さんが選んでくれたんですか?」

「まぁ……な」

「……本当?」

「店員さんのアドバイスをわずかばかり頂いた」

「ふふふ、納得です」


 むぅ……、このまま成果を俺だけのものにするつもりだったが、どうやらそれは許してくなかったようだ。


 まぁ、喜んでくれているみたいだし、結果オーライという事にしておこう。


 首元に香水を振りかけた楓坂は、髪が邪魔にならないように手で押さえて近づいてきた。


「どうでしょうか?」

「あ……ああ。いいと思うぜ……」


 香りがわかるほどの距離。

 もしここで少し引き寄せれば、彼女を抱きしめることができるだろう。


 それから俺達は……。


 ◆


 翌日の朝。

 床に敷いた布団の中で、俺は目を覚ました。


 ふと横を見ると、ソファベッドで横になっている楓坂が俺を見ていた。


「笹宮さん、おはようございます」

「ん……ああ。おはよう……。やべ、起きるのが遅れたぜ」

「昨日は大変でしたものね」


 まだ疲れが残っているのか、体が重い。

 だけど朝食の準備をしないと。

 ……と、今日は楓坂もいるんだから一緒に作るか。


 簡単で素早く、それなりの食事となれば……みそ汁と玉子焼きがベストだな。


 俺がキッチンへ向かうと、楓坂が隣に立って手伝いを始めた。

 まだ昨日の夜に渡した香水の香りが残っている。


「それにしても昨日の夜、笹宮さんがすごいということを改めて実感しました」

「いや、普通だろ」

「またまたご謙遜を。だって……」


 一度言葉を切った楓坂は、得意の女神スマイルでほほえんだ。


「クリスマスイブの夜に一緒の部屋で寝たのに一切手を出そうとしないなんて、並のヘタレではありえませんよ。うふふふふふふふ~」

「……」


 そう……、昨日の夜俺はシャワーを浴びてすぐに寝てしまった。

 もちろん布団は別々だ。


「ちなみに聞くが、もし俺が迫ったらどうするつもりだ?」

「ふふん……。当然ですね! 冷静さを失ってパンチします」

「ドヤ顔で言うな」


 状況的には結ばれて当然という場面だったのだろうが、俺も楓坂もそこまでの度胸はなかった。


 あれだけのことがあったのに、結局俺達の関係は前進なし。

 まぁ、そんなもんだろう。


「でもですね。私は今のままでいいですよ。むしろ付き合うよりこうしているほうが幸せなんです」

「最初に告白してきはのは楓坂だろ?」

「そうですけど、今はまた別の形であなたことを好きになれたから……」

「どういう……」


 楓坂が伝えたいことを訊ねようとした時、彼女は俺の肩にキスをした。


 突然の行動に俺は固まる。


「ふふ……。じゃあ、お皿を用意しますね」

「あ……、ああ……」


 今のままって言っておきながら、以前より積極的になったような気がするんだけど……。


   ◆


 その後、俺は会社に出勤した。

 もう学生は冬休みという事もあり、通勤電車に結衣花は乗っていなかった。


 わかってはいたが、やはりアイツに会えないと寂しいと感じる。


 それから仕事を終えた後、会社帰りに俺は駅ビルへ向かった。

 結衣花のイラストが入ったマグカップを買うためだ。


 限定販売だから品切れしないか心配だったけど、無事購入することができた。


 だがそこで、俺は彼女に出会う。

 それはいつも通勤電車であう女子高生だった。


「よぉ、結衣花」

「……お兄さん」



■――あとがき――■

いつも読んで頂き、ありがとうございます。

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