12月24日(木曜日)クリスマスの告白(1/3)
駅ビルの周辺はイルミネーションでひと際輝いていた。
クリスマスイブという事もあり、いつもより特別綺麗に見える。
しかし今の俺の目的は、結衣花のグッズが返品されるのを防ぐことだった。
「笹宮さ~ん! こっちです!」
駅ビルの搬入口に到着すると、音水が俺に向かって手を振っていた。
「すまん、待たせた」
「いちおう配送業者さんを食い止めておきましたけど、商業施設の担当者さんがいないから信じてもらえなくて……」
「わかった」
俺はすぐに配送業者の元へ行き、事情を説明した。
すぐには信じてもらえなかったが、俺が企画対決でプレゼンをしていた人間だとわかってくれたので説得に成功する。
正直なところ顔出しでプレゼンをするのは嫌だったが、ここでこんな形で役に立つとは思わなかった。
その後、無事に問題が解決したことを旺飼さん達に連絡する。
黒ヶ崎は逮捕され、楓坂も無事に救出。
結衣花はゆかりさんと一緒に家に帰ったらしい。
いろいろなことがあったが、なにはともあれ一安心だ。
「楓坂も取り戻せたし、結衣花のことも守ることができた。とりあえず一段落だな」
「本当に疲れました……」
ぐったりとした様子で音水がうなだれる。
無理もない。この数日、俺達は寝る間を惜しんで働いていたんだ。
「本当に助かったよ。ありがとう、音水」
「笹宮さんのためなら、なんでもしますよ」
「嬉しい言葉だ」
「見返りは期待してますけどね」
「できる範囲で頼むぜ。……さて、帰るか」
「はい!」
駅ビルを出た俺と音水は、イルミネーションが輝く通路を二人で歩いた。
いろいろな問題が全て解決したからなのか、気持ちが軽い。……というより、力が抜けている。
気を抜くと、このまま眠ってしまいそうなくらいだった。
「んっふふ~♪」
「やけに機嫌がいいな」
「だって、結果的にクリスマスイブを笹宮さんと一緒に過ごせているじゃないですか。それにイルミネーションの通りを二人で歩くなんて最高のシチュエーションですよ」
すると音水は当たり前のように腕を組んできた。
「おい……」
「いいじゃないですか。いちおう社長の許しを得ているとはいえ、この数日は笹宮さんのために働いていたんですよ」
「そう言われると……、反論できないが……」
まぁ、さすがにここに他の社員はいないだろうし、今だけならいいだろう。
彼女は俺の腕に掴まって、幸せそうな表情をしている。
「笹宮さん、イルミネーションが綺麗ですね」
「そうだな」
「もうすぐ駅ですね」
「……そうだな」
そして音水は小さくつぶやいた。
「このまま一緒にいたい……って言ったら、……迷惑ですか?」
普段の天真爛漫な彼女とは思えないような、せつない声だった。
強制的に俺の感情は揺さぶられる。
「笹宮さん。私……あなたのことが好きです。今日だけでも一緒に過ごすのはダメですか?」
今すぐ彼女を抱きしめたいという衝動が起きそうになったが、俺はその感情を押し殺した。
音水は社内でも一番人気のある女子社員だ。
俺だって男である以上、ずっと一緒にいれば意識する時だってあった。
しかも彼女は俺のことを好きだと言ってくれている。
もし……六月の出会いがなければ、俺は音水を受け入れていただろう。
だが……、どうしても今は……音水の気持ちに答えられないんだ。
俺が辛そうに黙っていると、急に音水はいつもの天真爛漫な様子で声を上げた。
「なーんて、ごめんなさい!」
「んん?」
「笹宮さんが困ると思って、わざと言ってみました」
「……あのなぁ」
「でも、笹宮さんのことが好きなのは揺るぎありません。一緒の会社ですからチャンスはいくらでもありますしね」
腕を離した音水はそのまま駅の改札口へ向かった。
そんな彼女の背中に俺は声を掛ける。
「音水……」
「はい?」
「今回はいろいろ世話になった。本当にありがとう」
「みんな、笹宮さんの力になりたかったんですよ。助けられてばかりじゃズルいですからね」
にこっと笑った彼女の無邪気な表情はとてもかわいい。
同時に、誘いを断った罪悪感もあって、俺は隣駅まで歩くことにした。
◆
自宅に帰ると時刻は夜の十一時半を過ぎていた。
玄関のドアを開けると同時に、隣に住む女子大生もドアを開いて現れる。
やっと再会できた楓坂だ。
「笹宮さん、おかえり……なさい」
「ただいま。もうこっちに戻ってたのか」
楓坂は黙って頷く。
しばらく離れていたせいか、今日の彼女はおとなしい。
「もう遅いですけど……、その……。そっちに行っていいですか?」
「俺の部屋ってことか?」
「はい……。どうしてもお話したいことがあるので……」
■――あとがき――■
いつも読んで頂き、ありがとうございます。
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★本日三回投稿★
今日は【正午に一話】、さらに【夜7時15分に一話】投稿します。
よろしくお願いします。(*’ワ’*)
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