12月24日(木曜日)◆笹宮視点◆イブの対決
俺が楓坂幻十郎の屋敷に到着した時、すでに言い争う声が聞こえていた。
ゆかりさんに旺飼さん……。年老いたガラガラ声は幻十郎さんだろうか。
慌てて声がする方へ向かい、殴られそうになっていた結衣花を助けた後、俺は黒ヶ崎と向き合った。
黒ヶ崎は余裕の表情でゴルフクラブを肩に乗せ、俺のすぐ近くまで近づいた。
「くくく……、助けにきたつもりですか? バカですか? こちらにはボディーガードが二人もいるんですよ!」
確かにここにはボディーガードが二人いる。
一人はスーツ姿の金髪女性。
彼女は楓坂を動けないように拘束している。
そしてもう一人はガタイのいい大男。
見るからに格闘技をやっていそうな体格の彼は、ゆかりさんと旺飼さんが邪魔をしないように壁際に追い詰めていた。
俺は二人のボディーガードを交互に見る。
「あんたら……、この状況でもまだ黒ヶ崎の指示に従うのか」
だがボディーガードの二人は返事をせず、苦しそうな顔をしている。
まだ目を覚ましてくれないのか……。
すると黒ヶ崎がいやらしく笑いながら話をし始める。
「その人達は私の言いなりですよ。いろいろネタを掴んでいますからねぇ……。くくく……」
「これからもこの人達を脅して、奴隷扱いを続けるつもりか」
「所有物をどう扱おうが主人の勝手でしょう。くくく……」
もしかすると黒ヶ崎なりに二人のことを大切にしているかもしれないと思ったが、そんなことは全くなかった。
ボディーガードの二人も黒ヶ崎に弱みを握られて、言いなりになるしかなかったのだ。
だからこそ、そこに勝機があった。
「だ……そうだぜ。あんたら、どうする?」
するとガタイのいい男性ボディーガードは旺飼さん達から離れて、ゆっくりとこちらに向かって歩いてきた。
すると男性ボディーガードは、急にダッシュで向かってきた。
勢いを緩めず、黒ヶ崎を組む伏せる。
突然の裏切りをくらった黒ヶ崎は、パニックになって叫んだ。
「な!? 貴様!! 何をやっているんだ!! 主人は自分だぞ!!」
「黒ヶ崎さん……、俺は抜けさせてもらう。これ以上、あんたにはついていけない。過去に犯した過ちは自分で償う……」
続けて金髪の女性ボディーガードも楓坂の拘束を解く。
「私もここで降りるわ。笹宮さんに言われた通り、脅されて言いなりになるなんて自分の人生じゃない……」
二人の急な態度の変化に驚いた黒ヶ崎は、慌てふためいている。
絶対に裏切れないと思っていたのだろう。
なぜだ! どうしてだ! ……と、散々悪事を繰り返してきた黒ヶ崎は叫ぶ。
そんな男に、俺は静かに事実を突きつけた。
「初めてボディーガードを見た時からおかしいと思っていたんだ。どうして秘書のお前がボディーガードを二人も連れ回しているのかってな。きっと理由があると思ったぜ」
続けて俺は言う。
「だから、こっそり連絡を取って説得を繰り返していたんだ。パシリ扱いで駅ビルに何度も出入りさせていたのが失敗だったな。簡単にコンタクトが取れたぜ」
ボディーガードの二人は、仕事の雑用からスパイまがいのこと、そして脅しのネタ集めなどをさせられていた。
彼らも理不尽な理由で脅され、嫌々させられていたのだ。
説得に時間はかかったが、ギリギリなんとかなったみたいだ。
もっとも、最後は賭けだったがな。
「黒ヶ崎……、お前を警察に突き出す。暴力や脅しまがいのことを繰り返してきたことはボディーガードの二人が証言してくれる。それと……」
俺は黒ヶ崎によく見えるように、右手に持ったスマホをかざす。
「このスマホは警察に直接渡させてもらうぜ」
「なっ!? それは自分のスマホ!! いつの間に!!」
「驚くよな。……わかるぜ。俺も楓坂に初めてされた時はビビったからな」
このスマホには俺を脅そうとした結衣花との画像が入っている。
おそらくボディーガード達を脅すネタもここに入っているのだろう。
これを一緒に警察へ渡せば、黒ヶ崎が結衣花の情報をネットに流す余裕はない。
ちなみにこっそりスマホを抜き取る技は、楓坂に初めて会った時にされたことを真似してみた。
成功するか心配だったが、うまく行ってよかったぜ。
これでようやく黒ヶ崎を大人しくすることができると思ったが、蛇顔の男はいやらしい笑い声を上げた。
「……くくく。まだ終わっていませんよ。ええ、終わっていません……」
床に抑えつけられながら、黒ヶ崎は必死にこちらを見てくる。
「一時間程前……、クリスマスに販売される予定だった結衣花様のグッズを返品処理されるように細工をしておきました。これで結衣花様のデビューはおじゃんです。パァーです! ぐぎゃははっ!」
「……それで?」
「笹宮様を挫折させようとしてもダメだった……。でも結衣花様が挫折すればどうですか? あなたの弱点は結衣花様だ! 私と同じように挫折して歪んでしまえ!!」
もはや哀れとしか思えない。
だが俺はあえて黒ヶ崎に言う。
「……おまえ、本当にわかってないな。それなら、なんとかすればいいだろ」
すると結衣花が俺の腕を掴んだ。
「お兄さん……、もういいよ」
「約束しただろ。結衣花がグッズを発売したら一番に買いに行くって」
「でも……」
「俺は……お前が喜んでいるところを見たいんだ」
そうだ。そうなんだ。
俺は結衣花のことをどう思っているのか、自分でよくわからないでいた。
どうしてひと回り年下の女子高生のことをここまで気にするのか不思議だった。
でも難しく考える必要はなかったんだ。
シンプルに、彼女が喜んでいる姿を……、楽しんでいるところを見たい。
たったそれだけなんだ。
俺は結衣花の頭をなでた。
そして楓坂の無事を確認した後、自動車に乗り込む。
黒ヶ崎のことは旺飼さん達に任せて、俺は結衣花のグッズが搬入されているはずの駅ビルに向かった。
■――あとがき――■
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