12月21日(月曜日)反撃の始まり


 楓坂を取り戻す方法を元カノの雪代が知っているかもしれない。

 そのことを知った俺は音水と共に雪代の元へ向かった。


 彼女はイブに開催するイベントの準備に追われていたが、俺の様子を察して近くのファミレスへ行こうと言い出した。


 今までの経緯を雪代に伝えると、彼女はパンケーキを食べながら「なるほどねぇ~」と言った。


「やっぱり黒ヶ崎を撤退させたことがあるのは雪代だったのか」

「まぁね。って言っても、アタシも黒ヶ崎のことを知ったのは後のことなんだけどね。

……あ、パフェ追加で」

「さっき言ったとおり、楓坂を取り戻すために黒ヶ崎と交渉したいんだ。だが、今のままだと会うことすらできない……」


 黒ヶ崎はボディーガードを連れて歩いている。

 もし強引に会いに行ったとしても、力づくで追い返されるのが見えている。

 そもそも話し合いの場を設けないことには、どうしようもない。


 苦しそうに表情を硬くする俺をよそに、雪代はパフェを食べ続けていた。


「……ふぅん、楓坂舞ちゃんだっけ? この前会った胸の大きい子でしょ。……おっ、このパフェ美味いじゃん」

「無理なことを言っているのは自覚している。だが、今頼れるのは雪代しかいないんだ」


 すると雪代は急に真剣な目で俺を見た。


「笹宮……」

「なんだ……」

「プリンも頼んでいい?」

「……食い過ぎだろ」


 まぁ、無理もない。

 ただでさえ、もうすぐ開催するイベントの準備で忙しいのだ。

 こんな話、雪代には迷惑でしかない。

 

 だが……、


「頼む、雪代。楓坂を取り戻すための知恵を貸してくれ。礼は必ずする」

「いや、礼とかいいし。めんどくさい」

「……やっぱりダメか」

「そうじゃなくて、見返りなしで協力するって言ってんの」


 意外な答えに俺は驚いて雪代を見た。

 彼女は照れたように顔を赤くし、もじもじしながら話を進める。


「さ……笹宮のことは……、その……アレだ。学生の頃から何度も助けてもらってるしさ……、このくらいの協力はするに決まってんじゃん」

「雪代……」

「な……っ!? ……そ、……その忠犬みたいな目はやめろ! 笹宮のその表情が苦手なのよ! ……ったく」


 まるで恋する女子高生のように慌てる雪代は、慌てて残ったパフェを食べ始めた。

 こいつのこんなところを見るのは初めてかもしれない。


 落ち着きを取り戻した雪代は頬杖をしながら、スプーンをくるくると回した。


「まー、なんとかなるっしょ」

「手があるのか?」

「まぁね。黒ヶ崎ってやつは異常なほど『負ける』ということに恐怖心を持ってんの。そこが最大の弱点なわけ」


 雪代はスプーンをグラスに入れる。


「黒ヶ崎は自分の仕事にアタシが関わりそうになると、別の仕事をエサにしてアタシを遠ざけようとするのよ。……今回みたいにね」

「……どういうことだ?」


 すると彼女はカバンから資料を取り出した。

 そこには十二月下旬の情報がまとめられている。


「十二月二十五日に商業施設の近くにある駅ビルに海外のアパレル店がオープンされんだけど、その立ち上げをサポートしているのが黒ヶ崎みたいね。」


 十二月二十五日ということは……、


「クリスマス当日……。企画対決の最終結果発表イベントがある日か」

「そそ。黒ヶ崎はアタシが企画対決で優勝したら、最終結果発表イベントに参加すると思ったんだろうね。それでアパレル店のオープンと重なることを危惧して、棄権するように仕組んだみたい」


 もし普通なら絶対にそんなことはしない。

 だが、黒ヶ崎の今までの言動から『負ける』ということへの恐怖心が尋常ではないことは感じていた。


 俺を殴りつけた時だって、負けていないと連呼していたからな……。


「じゃあ、そのアパレル店のオープンがかすむようなイベントを近くで行えば……」

「ああ、黒ヶ崎の方からコンタクトを取ってくる。その時に楓坂ちゃんを取り戻す交渉もできるはずよ。二十四日にプレオープンするから仕掛けるならそこかな」


 勝負は二十四日、クリスマスイブというわけか……。


「なるほど……。そんな手があったのか」

「言っちゃ悪いけど、黒ヶ崎にとっては楓坂ちゃんよりも仕事で負けないことの方が大切だからね。……な!? このプリン、神か……」


 運ばれてきたプリンを食べて、雪代はその味に感動していた。

 さっきまでシリアスな話をしていたのに、雰囲気がぶち壊しだ。


 もっとも、こんな抜けたところを大学生の俺は惹かれていたのだが……。


 ……と、ここで隣に座っていた音水が心配そうに話し掛けてきた。


「でも笹宮さん。今からそんな大きなイベントをどうやって開催するんですか? 準備がとても間に合いませんよ」

「そうだな……」


 確かにそうだ。

 十二月二十四日なんてあと三日。

 とても準備が間に合わない。


 その時だった。急に雪代は立ち上がって叫ぶ。


「つーわけだ!! テメエら、今の話を聞いてどう思うよ!!」


 すると、いつの間にか近くに座っていた大手広告代理店の社員達が立ち上がった。


「協力するに決まってるぜ!」

「ゴルド社の野郎! 許さねぇ!」

「笹宮さん、音水さん! お久しぶりです! ぜひ協力させてください!」

「ハロウィンコンテストの時は世話になったな! これで恩が返せるぜ!!」


 話に夢中で、近くに彼らがいることに気づいていなかった。

 だが、どうしてここに……。

 たしかファミレスに入る時はいなかったはず……。


 すると雪代はニヤリと笑った。


「前々からこいつらは、笹宮に恩返しがしたいって言ってたんだよ。だから話の途中で呼んでおいた。ぎゃはっ!」

「雪代……、みんな……、ありがとう」

「イブのイベントに向けて用意していた人も資材もある。必要なら、企画内容も調整できるよ。どうする?」


 その言葉を聞いて、俺は力強く頷いた。


「二十四日のクリスマスイブに、アパレル店のプレオープンにけん制を掛ける。そして黒ヶ崎を引きずり出す」



■――あとがき――■

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★【次回は結衣花視点のお話です!】


投稿は毎朝7時15分ごろ。

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