12月20日(日曜日)三人でこたつ
動画サイトで公開されたプレゼン対決は大きな反響があった。
人気投票はリアルタイムで数字が表示されるのだが、特に特別チームと紺野チームの企画は接戦を繰り広げることになる。
ギリギリの戦いだったが、最終的に俺がリーダーを務める特別チームが勝利を収めることができた。
そして翌日、日曜日の午後。
俺の自宅には楓坂と結衣花が来ていた。
楓坂はこたつに入り、ほっこり顔で癒されている。
「んん~。やっぱり冬はこたつですよね。もう出たくありません」
「お前な……。俺の部屋だってこと忘れてないか……」
「いいじゃないですか。あなたのモノは私の所有物。ジャイアン理論を展開させて頂きます」
するとポテチを食べていた結衣花がおもむろに訊ねてくる。
「ねぇ、お兄さん。昨日の人気投票で勝つことができたという事は、特別チームの企画が採用されるってことなの?」
「いちおう商業施設の担当者たちの審査を受けるが、今までの傾向から考えて人気投票通りの結果になるだろうな」
「じゃあ、ほぼ勝ちってことなんだね」
「ああ」
商業施設の担当者たちが集計や審議を行い、明日の正午までには連絡が来るはずだ。
これでようやく本格的にイベントについて動き出すことができる。
「それにしてもこの企画対決って動画サイトを使ったり、いろんな企業を巻き込んだりしてすごかったよね」
「ああ、しかも勝負を段階的に見せることによって視聴者を確実に増やしていった。イベントとしても大成功だっただろうぜ」
今の時代、イベントを開催したからと言って簡単に成功させることはできない。
その点、バレンタインイベントのコンペを企画対決というコンテンツに仕上げるという方法は理想的だった。
ユーザーを楽しませながら、なおかつ告知効果もある。
加えてコンペに参加した企業は競い合うことで企画の質を向上させることができた。
振り返れば、商業施設側にとっていいこと尽くしなのだ。
商業施設にこの方法を教えたのは、俺が勤めるブロンズ企画社の社長だと聞いているが、社長はアイデアマンというわけではない。
どうやら誰か別の人間が関わっているのかもしれないな。
「せっかくだし、お祝いとかする?」
「まだ勝ちが確定したわけじゃないだろ」
「でも次って言ったらクリスマスのあとになるじゃん。私、二十四日まで学校あるし」
そういえば、高校生はもうすぐ冬休みか。
そして二十四日といえば、クリスマスイブ。
自然と話題はクリスマスの方向へ向かった。
「それにクリスマスはお兄さんも忙しいでしょ?」
意味深な結衣花の一言に、俺は動きを止める。
おそらく彼女が訊ねたいのは、カノジョと過ごすのかということだろう。
その日、俺は楓坂と過ごす約束をしているが、それは同時に楓坂をカノジョとして認めるようなものだった。
だが自分の先輩がいつも話している男とそういう関係になると知ったら、結衣花はどう思うのだろうか。
むぅ……、さすがに答えにくい。
だが、このまま黙っているわけにもいかないか。
「ま……まぁ……。アレだ……。クリスマスは……グッ!?」
「どうしたの?」
「い……いや……。なにも……」
突然、楓坂が足を使って俺の足をつついてきたのだ。
さらに俺が戸惑っていることに気づいた楓坂は、くすぐるように足を動かした。
もちろん俺は耐える事しかできない。
たぶん結衣花には言わないでくれという合図なのだろう。
楓坂を見てみると、何食わぬ顔をしてすっとぼけている。
こたつの中の出来事なのでバレないと思って、やりたい放題だな……。
とはいえ、俺も楓坂とクリスマスを過ごすとは言いづらい。
ここは無難な話でごまかしておくか。
「クリスマスはいちおう仕事があるからな……。なんなら来週の日曜日にまた集まるか?」
「二十七日?」
「ああ、結衣花と楓坂の都合が良ければだが……」
「うん。楽しみにしてる」
結衣花はそういうと嬉しそうに笑った。
一緒に過ごせることをよろこんでくれているのだろうか。
その時には彼女が初めて手がけたグッズを購入できているはずだし、そのお祝いも兼ねるようにしよう。
すると結衣花はこたつから立ち上がって、キッチンへ向かおうとする。
「そうだ。なにかオヤツでも作ろうか?」
「ありがたいが、いつも作ってもらってばかりだからな。せっかくだし近くの喫茶店に行かないか? フレンチトーストがうまいらしいぜ」
そして「もちろんおごりだ」と付け加えると、結衣花はわざとらしく驚いて見せた。
「わ。お兄さんが気を利かせた」
「驚愕しただろ」
「天孫降臨するかと思ったよ」
「スケール、デカすぎじゃね?」
■――あとがき――■
いつも読んで頂き、ありがとうございます。
☆評価・♡応援、とても励みになっています。
次回、対決を終えて音水が新しいアプローチを!?
投稿は毎朝7時15分ごろ。
よろしくお願いします。(*’ワ’*)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます