12月17日(木曜日)笹宮のプレゼン


 企画対決、最終戦。

 諸悪の根源ともいえるゴルド社の秘書・黒ヶ崎はグルメ対決企画を模倣してきた。


 しかし、俺がリーダーを務める特別チームは新しい企画で挑むことになる。


「お兄さん、大丈夫?」

「ああ、任せろ」


 心配そうに訊ねてくる結衣花に、俺は余裕の表情で答えた。


 すると楓坂が話し掛けてくる。


「そこのスタッフさん。心配は必要ありませんよ。私達が見せるのは圧倒的勝利。ただそれだけです……」


 彼女はそう言うと、長い髪を優雅に払って背を向けた。


「ねぇ、お兄さん。楓坂さんって私の変装に全然気づいてないね」

「さっきの会話でさすがにわかったと思ったが……」


 そしていよいよ俺達のプレゼンが始まる。

 ザニー社・ブロンズ企画社の合同特別チームという形で紹介され、俺は檀上に上がる。


 続いて楓坂が登場する……が、その服装に全員が驚いた。

 彼女はキツネ耳をしたゴスロリメイド姿で現れたからだ。


 そして剣を振るうと同時に、背後にあるスクリーンに映像が表示される。


 俺はタイミングを見計らい、企画内容の説明を始めた。


「私達のチームが提案する企画内容は『レイジスファンタジー』のコラボです」


 レイジスファンタジーとは、ザニー社が提供しているオンラインファンタジーゲームだ。


 昔から続くファンタジー作品ではあるが、シリーズを重ねて今も根強い人気があり、現在もアクティブユーザー数は五十万人を超えている。


 楓坂がコスプレしているキツネ耳キャラクターは、シリーズを通して登場してる人物だった。


「商業施設のイベント開催時期に合わせて、ゲーム内でも限定イベントを行います。そしてイベント期間中、商業施設の新メニューをゲーム内で注文できるようにし、TwitterやYouTubeで話題を盛り上げるように狙いました」


 商業施設の新メニューをゲーム内で注文……。

 その文言に、進行役の女性が訪ねてきた。


「ゲーム内で……食事を注文ですか?」

「はい。注文したメニューはデリバリーで配達されるため、ユーザー達は食事を楽しみながらゲームをすることができます」


 この企画の最大のメリットは商業施設に直接来れない人達も、イベントを体験できるという点だ。


 集客・販促イベントは『人を集めすぎると売り上げが落ちる』という問題点がある。

 そのためどれだけ優れたイベントでも、一定以上の効果は出しにくい。


 だがゲームを通してなら場所を超えて、多くの人を参加者にすることができるのだ。


 同じ趣味を持った仲間たちとゲーム内でメニューを選び、未体験の料理を味わって、ゲームやYouTubeの中でそのことを語り合う……。

 楽しいに決まっている。


「く……。くくく……」


 俺のプレゼン内容を聞いたゴルド社の秘書・黒ヶ崎は不敵な笑い声を上げた。


「自信たっぷりだったので何を言い出すかと思えば、ゲームの中でメニューを注文すると食事が届くだと……。配達はともかく、調理はどこでするというのですか! 机上の空論です!」


 地域を超えて参加者を増やすという点はいいが、デリバリーをするには調理場が必要だ。


 だが、もちろんその対策もしている。


「今回の企画では……クラウドキッチンを使います」

「……なに? く……クラウド? 料理で?」


 クラウドキッチンとは、店舗を構えないデリバリー専門のレストランの事だ。


 最近では需要を見越して、セントラルキッチンと配送の提供を行う企業も現れ始めている。


 その特殊なスタイルから、バーチャルキッチンやゴーストレストランとも呼ばれていた。


 これはグルメ系企画の最大の欠点である、『今すぐ自分も食べたいけど食べれない』という問題を解決することにも繋がっている。


 プレゼンを終えると、会議室にいた全員が拍手を上げる。

 だが一人だけ、顔を歪めている男がいた。


「ぐ……ぐぐぐ……。こんな……こんなことが……」

「アテが外れて残念だったな。黒ヶ崎」

「まだ負けたわけではありません……。ゴルド社に歯向かってただで済むと思わないでいただきたい」


 立ち去ろうとする黒ヶ崎だったが、ケーブルに足を取られてこけてしまう。

 すぐに立ち上がり「ちくしょう!」と叫んで、足早に会議室を出て行った。


 これだけ大勢の前で恥をかいたんだ。

 しばらくはよけいなちょっかいを出してこないだろう。


 俺の元に楓坂が駆け寄ってくる。


「笹宮さん、やりましたね」

「ああ、楓坂やチームのみんなのおかげだ」


 続いて帽子とメガネをした結衣花だ。


「お兄さん、楓坂さん。お疲れさま。すごくよかったよ」


 今にして思えば、結衣花とゲームをしたりソフトクリームを食べに行ったりしたからこそ、こういった形にまとめることができたんだ。


 結衣花のおかげでもあるんだよな。


 すると、ここで楓坂が驚きの表情を見せる。


「結衣花さん!? どうしてここに!?」

「……やっと気づいたんだ」



■――あとがき――■

いつも読んで頂き、ありがとうございます。

☆評価・♡応援、とても励みになっています。


次回、全員でお祝いでラブコメ!?


投稿は毎朝7時15分ごろ。

よろしくお願いします。(*’ワ’*)

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