12月10日(木曜日)雪代の胸のサイズ


 第二回戦の結果発表から三日が過ぎた。


 圧倒的な結果を見せつけた紺野・音水チームに対して、俺達は未だに対抗策を見つけられないでいた。


「困ったな……。これといったアイデアが思いつかない……」


 昼休憩中、俺はコンビニの外でコーヒーを飲みながら呟いた。

 すると隣にいたメガネ美女の楓坂が野菜ジュースを片手に答える。


「特別チームは笹宮さんが中心ですからね。あなたが軸となる考えを示してくれないと、皆さんどう動いていいのかわからないんですよ」

「そうだよな……」


 特別チームのメンバーは楓坂だけでなく全員が優秀だ。

 それぞれが得意分野を持っていて、俺が考えたビジョンに合わせて柔軟に動いてくれる。


 しかし今は明確な方向性を示せていない。

 早く突破口を見つけないとと考えるのだが、焦ってよけいにアイデアが詰まっていた。


 ……その時だった。

 コンビニの駐車場の端から、女性の声が聞こえてきた。


「だ~か~ら~、そうじゃないって言ってんだろ! 本番はイブなんだぞ!」


 あれは……雪代じゃないか。


 企画対決を棄権したので心配していたが、どうやら元気そうだ。

 今はレディーススーツの上からスタッフ専用ジャケットを羽織っている。


「ったく……、こんな急に仕事を入れてさ。現場の事も考えろつーの。……ん?」


 電話を切った雪代は俺に気づいて、『にいっ!』と笑った。

 音水とは違う、雪代ならではの無邪気さが現れている。


「よぉ! 笹宮!」

「お疲れ。忙しそうだな」

「まぁね。急にデカい仕事が入って、イベント事業部はパニック状態なんだ。おかげで企画対決は棄権……。派遣期間も延長だってさ。まー、日本は好きだからいいんだけどさ」


 派遣期間?

 そういえば雪代は海外で企業の立て直しを請け負う仕事をしていたんだった。


「雪代はイベント事業部の改善のために派遣されているんだったよな」

「そそ。今はアメリカの経営コンサルタント会社に所属してんの。インドで仕事をしていた時にヘッドハンティングされたんだよね」


 相変わらず俺の元カノはスケールがデカい。

 周りを振り回すところはあるが、結果的に雪代は仕事を成功させている。


 ハロウィンの時に行ったイベント対決は俺達が勝ったが、やる気を失っていた大手広告代理店のイベント事業部を復活させるという本来の仕事は成功させている。

 たいした奴だぜ。


 ここで雪代は唐突に俺の横を指でさした。


「てか、誰それ?」


 それ……と言われたのは楓坂の事だ。

 突然のことに驚いた楓坂は俺に耳打ちをしてくる。


「……笹宮さん。私、それ扱いされているんですけど」

「気にするな。雪代は口は悪いがマナーなんて何も考えてない」

「フォローになってませんよ」


 雪代をフォローしようと思ったら年が明けてしまう。

 それより話を進めよう。


 俺は雪代に楓坂のことを紹介する。


「紹介するよ。俺達のチームの一員で楓坂だ」

「……楓坂?」


 名前を聞いた雪代は訝しげな表情を作った。

 妙な反応だ……。


「どうした?」

「いや……なんていうかさ……。胸でけーな! Hカップくらい?」

「お前……、本当に遠慮とかないよな……」


 初対面で胸の話をするな。

 俺は男なんだぞ。気まずいだろ。


「お待ちください」


 声を上げたのは楓坂だった。

 さすがに初対面でいきなり胸のサイズを言われたら機嫌を損ねてもおかしくない。


 だが、彼女の反応は俺の想定を超えてきた。


「私、最近測り直したらIカップになってました」

「男の前で暴露するのやめろよ」


 以前も楓坂は俺の妹に胸のサイズを暴露していたが、どうしてこんなことで張り合おうとするのだ。


 もしかして雪代が俺の元カノだと知って対抗心を燃やしているのか?

 それはそれで……ちょっと嬉しいが……。ごほんごほん。


 今度は雪代だ。

 めったに見せない真面目な顔で俺を見つめ、肩に手を置いた。


「おい、笹宮」

「なんだよ……」

「おまえならCカップの良さをわかってくれるよな……」

「真剣な目で何を言い始めやがる……」


 この状況でそんなことを言われて、同意できるわけないだろ!


 胸の話についていけない俺は戸惑いと混乱でフリーズ寸前だった。

 だが彼女達の話は止まらない。


 雪代の次のターゲットは結衣花と音水だった。


「結衣花ちゃんはGだよな。音水っちはどのくらいだろ?」


 雪代の疑問に楓坂が答える。


「そうですねぇ……。音水さんはEくらいじゃないでしょうか」

「あー、そんな感じだね」

「……頼むから胸の話から離れてくれ」


 俺の願いが通じたのかどうかわからないが、ようやく雪代は別の話題にシフトしてくれた。


「そういや、音水っちのダブルコラボ企画に負けそうで困ってんだろ?」

「ああ、ちょっとな……」

「笹宮はさ、二つのことを一つにまとめて新しく見せるのが得意じゃん? それを活かせば勝てるんじゃない? 知らないけど」


 雪代はそう言ってくれているが、俺自身は自覚がなかった。

 だが、こいつとは付き合いが長い。


 今はこの言葉に乗っかってみるか。


「楓坂……。もう一度、メンバー全員でアイデア出しをやってみよう。今度俺は意見のまとめ役に徹するよ」


 すると楓坂はほほえんでスマホを見せてた。


「そういうと思って、特別チームの人全員に連絡をしておきました。すぐに集合できるそうですよ」

「仕事が早くて助かるよ」



■――あとがき――■

いつも読んで頂き、ありがとうございます。

☆評価・♡応援、とても励みになっています。


次回、休日を使って資料整理。笹宮と楓坂の間になにが!?


投稿は毎朝7時15分ごろ。

よろしくお願いします。(*’ワ’*)

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