12月7日(月曜日)大波乱
ザニー社の商談室で、俺は特別チームのメンバー達とミーティングを行っていた。
全員、商業施設のホームページに掲載された二回戦の結果を見て戸惑っている。
「まさに予想外の展開になったな……」
今回は上位三チームが次に進むことになる。
俺達の特別チームは順調に次へ進むことができたのだが、ここで大番狂わせが起きたのだ。
まず雪代がリーダーを務める大手広告代理店のチームが棄権し、代わりに上がってきたのは聞いたことのない企業だった。
詳しい事情は聞かされていないが、棄権なんて雪代らしくない……。
だが、それ以上に大きな衝撃があった。
大学を休んでミーティングに参加していた楓坂は、真剣な表情でプリントアウトした資料を見ている。
「たしかこのチームのリーダーって、笹宮さんの先輩ですよね?」
「ああ、紺野さんだ。だが企画を考えたのは音水だろうな」
今回、紺野さんのチームが仕掛けてきたのは……ダブルコラボ。
テーマパークだけでなく、人気アニメのコラボも組み合わせてきたのだ。
前回の対決で上位三チームの評価ポイントはほぼ同じだったが、ここに来て圧倒的な差を見せつけた。
その差は俺達特別チームの二倍以上……。
このままだと負けは確定だろう。
「音水のやつ、考えたな……。商業施設はデートスポットにちょうどいい。同じくテーマパークも同じだ。さらに女性からも人気の高いアニメとコラボ……。相乗効果はかなり高い」
もちろん音水ひとりでは実現不可能だ。
それぞれの企業との打ち合わせと調整は紺野さんがいたからこそだろう。
交渉能力において紺野さんの実力は圧倒的だ。
そういえば社長が紺野さんと音水のタッグが会社の利益に直結すると言っていたっけ。
まさしくこの二人は最強のコンビなのだろう。
きっと今頃、社長は自慢の白髭をなでながら嬉しそうに笑っているんだろうな。
元教育係の俺としては複雑な心境だが……。
俺は特別チーム全員に向かって声を上げた。
「次のプレゼン日は十七日。それまでに対策を考えよう」
「「「「はい!」」」」
◆
ザニー社での打ち合わせを終えた俺は、自分が勤める会社に戻った。
特別チームのリーダーを務めているとはいえ、やはり自分の席に着くと落ち着く。
すると俺を見つけた音水が「わぁ」と声をあげた。
小走りで駆け寄ってきた彼女の周囲だけ、春のようなオーラで包まれている。
「笹宮さん、お疲れ様です」
「ああ、ただいま」
「んっふふ~。笹宮さんのただいまを頂いちゃいました」
ほがらかで人懐っこい笑顔で話す音水。
対照的に、周囲にいる男性社員が俺に向かって殺気を放っていた。
……音水って自分がモテている自覚がないんだよな。
「それにしてもダブルコラボか……。考えたな」
「ふっふっふ。これを思いついた時、キュピーンって来たんですよね」
今回の結果がよほど嬉しかったのだろう。
彼女はめずらしく自慢げに企画の特長を話し始める。
俺の立場としては危機感を覚えるところなのだろうが、不思議と悪い気はしていなかった。
自分が育てた後輩が成長していく姿というのは、微笑ましくて誇らしい。
だが……クリスマスだけは別だ。
二日前の土曜日。
本屋で偶然あった音水に「企画対決が終わったら打ち上げに行こう」と言った。
だが彼女は「クリスマスの夜に俺を甘やかしたい」と言ってきたのだ。
もちろん音水のことは嫌いじゃない。
女性として魅力があることもちゃんとわかっている。
だがクリスマスはすでに楓坂と約束をしているのだ。
できれば今年は楓坂と二人で過ごしてやりたい。
落ち込むかもしれないが、ここは心を鬼にしてきっぱりと言おう。
「……と……ところで、クリスマスの事なんだが……」
「ダメですよ」
「まだ何も言ってないんだが……」
「どうせ笹宮さんのことだから、恥ずかしくて逃げようとしているんでしょ? まるっとお見通しです」
参ったな……。
仕方がない。楓坂の名前は伏せて『彼女とクリスマスを過ごす』という事にしよう。
それなら音水もわかってくれるはずだ。
でも俺と楓坂ってまだ付き合ってないんだよな。
こういう状況で彼女がいるというのはウソになるのか?
とにかく今は、ちゃんと断ることが先決だ。
「音水……。真面目な話があるんだ。聞いてくれ」
「婚姻届けの書き方ですか?」
「真面目にって言ったんだけど?」
この後輩、なんかすっげぇナチュラルに婚姻届けとか言い出したんだけど、 ジョークだよな?
「実は……、その……。クリスマスの夜は彼女と一緒に過ごすんだ……」
どうだ! 言ったぞ!
おそらく人生初めてのリア充っぽいセリフだ。
恥ずかしい!
しかもまだ付き合ってない相手を勝手に彼女とか言ってるし!!
そして音水の反応は!
「あはは! やだなぁ~。笹宮さんに私以外の彼女ができるわけないじゃないですか」
……いつもの天真爛漫な表情で笑われた。
「もうっ! そんなウソに騙されるほど私はバカじゃないですよ。笹宮さんでも背伸びをすることってあるんですね」
「おまえ……、俺のことをバカにしてるだろ……」
音水って本当に俺のことが好きなのか?
なんか自信がなくなってきたんだけど……。
■――あとがき――■
いつも読んで頂き、ありがとうございます。
☆評価・♡応援、とても励みになっています。
次回、企画のパワーアップに力を貸してくれるのはあの人!?
投稿は毎朝7時15分ごろ。
よろしくお願いします。(*’ワ’*)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます