12月1日(火曜日)楓坂のお願い


 十二月になり、企画対決一回戦の集計結果が発表された。


 今回の企画対決は俺達の特別チームを入れて八社が参加していて、上位五チームが一回戦を通過した。


 もちろん俺達特別チームも勝ち残ることができた。


 だが、ライバル達も負けてはいない。


 紺野さんチームの企画は、テーマパークとコラボして商業施設をデートスポットにするというもの。

 このイベントの開催時期がバレンタインデーということを考えれば、まさにぴったりな内容だった。


 そして雪代がリーダーを務める大手広告代理店の企画は、アイドルグループを招いたイベント。

 予算は掛かるが、インパクトは申し分ない。


 特別チームは今後に向けて、ザニー社の一室でミーティングを行っていた。


「では、以上で今日の会議は終了だ。各自、アイデアがあったら積極的に提案してくれ」

「「「「はい!」」」」


 ザニー社の若手社員四人はハキハキと返事をする。

 おかげで今日のミーティングも無事に終了することができた。


 彼らが出て行った後、残っていた楓坂が俺にコーヒーを運んでくれる。


「笹宮さん、おつかれさまです」

「ああ。楓坂も大学が休みの時はこっちだから大変だろ」

「好きでやっていることですので」


 楓坂はそう言って気丈にほほえんだ。


 こいつって頑張り過ぎるところがあるから心配なんだよな。

 ペース調整に気を付けてあげないと……。


「それにしてもあの四人、すごいやる気だな」

「彼らにとって笹宮さんは救世主ですからね」

「なんだそれ。大げさだろ」


 隣に立った楓坂は、自分の飲み物を一口飲む。


「知らなかったんですか? あの四人は真面目ですけど、それぞれクセが強くて左遷される直前だったんですよ」

「……マジで?」


 それは初耳だったので、かなり驚いた。


 だが思い返してみると、彼らは最初から不思議と俺に好意的だったな。

 コミケ後の打ち上げの時も、ザニー社に来て欲しいと何度も言っていたっけ。


「笹宮さんは個性的な人をまとめるのはうまいと叔父さんは褒めていましたよ」

「へぇ……。旺飼さんがそんなふうに言っていたのか」

「その時の表情は闇組織の幹部みたいでしたけどね」


 そういって楓坂はクスクスと笑った。


 旺飼さんって悪い人じゃないけど、腹黒いところがあるからな。

 結局、気が付いたら全て旺飼さんが思い描いた通りに事が進んでいる。

 敵じゃなくて、本当によかったと思うぜ。


「とりあえず一回戦を乗り切れて一安心だが、他のチームもテコ入れをしてくるだろう。こっちも対策をしないとな」

「でしたら今日の帰り、商業施設に行ってみませんか?」

「市場調査ってわけか」

「ええ。ついでに夕食もごちそうしてほしいですね」

「……さてはそれが目的だな?」


   ◆


 商業施設で食事をした俺達は、そのまま自宅に向かって帰っていた。

 まだ七時半という時間なのに、夜道はひっそりとしている。


「やっぱり十二月に入ると年末の雰囲気が強くなりますね」

「ああ」


 隣を歩く楓坂が寒さから逃れるように身を縮こませる。

 この時期は昼と夜の温度差が激しいから、よけい寒さが堪えるのだろう。


「大丈夫か、楓坂。寒くないか?」

「……少し」


 すると楓坂はスッと俺に近づいた。 


「笹宮さん。腕……組んでもいいですか?」

「……ああ。構わないぞ」


 俺の腕を抱きしめた楓坂はホクホクした様子で笑った。


「ふふ。あったかい」

「外でこんなふうに甘えてくるなんてめずらしいな」

「べ……別に甘えてませんよ。これは暖を取っているだけです」

「そうか。わかったよ」


 楓坂はイタズラで俺の脇腹にパンチをする時はあるが、抱きついてくることはあまりしない。

 せいぜい酔っぱらった時に膝枕をねだってくるくらいだろう。


 外でこうして腕を組んできたのは初めてかもしれない。


 ……と、ここで彼女は訊ねてきた。


「クリスマスですけど、どうします?」

「どうって……、コンペの最終結果発表のことか? 俺達コンペ参加者は二十一日に結果を報告してもらえるから、クリスマスは特に忙しくないぞ」

「そうじゃなくて……、その……」

「ん?」


 なんだ? やけに言いづらそうにしているが……。


「やっぱり、クリスマスだから……その、夜とかどうするのかなと思って……」

「いや、特に予定は入れてないが」

「……そう」

「なに?」

「んんんんん~っ」


 なんなんだ……。

 いちおう質問には答えているし、俺に落ち度はないよな?

 もしかして、何か答えを待っているのか?


「さすがにこの情報だけだと、どう反応していいかわからんぞ」

「だから……その……」


 これは困った。

 肝心の部分を言ってくれないと、こっちとしてはどうしていいのかわからない。


「じゃあとりあえず、クリスマスの夜は楓坂のために時間を空けておくよ。それでいいか?」

「……いいの?」

「ダメなのか?」

「いえ……、嬉しいです。……嬉しいです」


 そう言った楓坂は腕を抱きしめる力を強くした。

 たぶん、これでよかったのだろう。


 ったく、こういう時の楓坂の反応はかわいいよな。



■――あとがき――■

いつも読んで頂き、ありがとうございます。

☆評価・♡応援、とても励みになっています。


次回、プレゼントの選び方で楓坂が相談を?


投稿は毎朝7時15分ごろ。

よろしくお願いします。(*’ワ’*)

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