11月26日(木曜日)寒さが気になる季節


 十一月下旬の木曜日。

 いつもの電車に乗って通勤中の俺は、寒さをごまかすために腕を組む。


 つい最近まで温かいと思っていたが、ここに来て急に冷え込んできたからだ。

 油断してコートを着てこなかったんだよな。


 電車のドアが開いてすぐ、女子高生が挨拶をしてくれる。 


「おはよ。お兄さん」

「よぉ。結衣花」


 スカートを履いている女子高生を見ると、つくづく男に生まれてよかったと思う。

 どうしてこういう文化が定着したのかわからんが、どう考えても冬にスカートというのは寒いだろう。


 だが結衣花はまったく気にしている様子がなかった。

 これが若さというものだろうか。


 俺は腕に掴まる女子高生に話しかけた。


「急に寒くなったから体調には気を付けろよ」

「うん。お兄さんも気を付けてね。年齢とともに自律神経は乱れやすくなるそうだよ」

「さりげなくオッチャン扱いされちゃったぜ」


 だが健康には気を付けたい年頃だから注意はしておきたい。

 俺くらいの年齢になると急にガクッと体力が落ちるらしく、年上の人達はみんなそのことを嘆いていた。


 まだ実感はないが、体力が落ちるというのは避けたいところだ。


 年齢の話がでたからなのか、急に結衣花は誕生日について訊ねてきた。


「……そういえばさ。お兄さんって誕生日はいつ?」

「ほぅ……。気になる異性に訊ねる時は誕生日からという法則があるが、もしかしてそれか?」

「生意気言ってると、勝手に三十歳設定で話を進めるからね」

「すまない。わずかばかり調子に乗ってしまった」


 危ない、危ない。

 三十歳より上かどうかで、心持ちが大きく違う。

 繊細な男心がバーストするところだったぜ。


「で、誕生日はいつ?」

「……十二月の二十五日だ」

「……え? クリスマスなの?」

「まあな」


 そう……、俺の誕生日はクリスマスだった。


 わかりやすくて縁起もよさげなのだが、なぜか損をしているような誕生日だ。

 女性にこの話をすると、似合ってないと言われることもしばしば……。


 さて、結衣花の反応は?


「その顔でクリスマスが誕生日なんだ。ぷぷぷ」

「出たよ。棒読みの作り笑い」


 普通に笑われるのはどうかと思うが、棒読みで笑われるというのはそれはそれで気になる。

 まぁ、結衣花だから全然かまわないのだが。


「じゃあ誕生日ケーキがクリスマスってパターン?」

「まさしくそれだ。まぁ、俺はガキの頃から誕生日なんて気にしてないけどな」


 クリスマスが誕生日の人あるあるだよな。

 ケーキの上にある『お誕生日おめでとう』のチョコプレートの横には、いつもサンタが我が物顔で突っ立っていたっけ。


 もう主役は俺じゃなくてサンタじゃん……と子供心に思ったものだ。


 だが、悪い事ばかりじゃない。

 そのことも言っておいた方が良さそうだな。


「だが、いい事もあるんだぜ?」

「ほほう。聞いてあげようかな」

「例えば朝の星占いで最下位でも、クリスマス生まれは別枠じゃないかって考えると落ち込まなくて済む」

「その意味不明のメルヘンチックな設定はなんなの……」


 なぜか結衣花は引き気味だった。


 まぁ、わからんでもない。


 占い師の人が頑張って導き出したことに対して、勝手に結果を改ざんしようとしているのだ。

 きっと結衣花は真面目に働いている人の尊厳を大切にしようと言いたのだろう……って!


 んなわけないことぐらい気づいてるさ。


 俺の独自解釈にドン引きしてるんだろ?

 わかってるよ。ああ、わかってますよ。


 でも星占いで下の方だったら、気分が上がらないじゃないか。

 このくらいの気休めは許して欲しい。 


「そういえば結衣花の誕生日はいつなんだ?」

「私は四月三日」

「ということは、おうし座か。今日の星占いだと一位だったぜ。やったな」

「本当にお兄さんって二十六歳の男の人なの?」


 おっと、それより今日の予定を結衣花に言っておこう。

 彼女も無関係というわけじゃないからな。


「そういえば、今日はプロジェクトのコンペ一回目なんだ」

「あれ? 今週の土曜日じゃなかったっけ?」

「動画投稿サイトで公開するのは土曜日なんだが、収録は今日になるんだ」


 俺の目を見た結衣花は、嬉しそうにほほえんだ。


「そっか。頑張ってね、お兄さん」

「ああ。結衣花にカッコいいところを見せたいしな」

「うん、応援してる」


 今の俺の目標は、商業施設のプロジェクトのコンペで三回勝ち抜くこと。

 そうすれば、結衣花の描いたイラストを使ったイベントに携わることができる。


 先輩の紺野さんに元カノの雪代とライバルは手ごわいが、今は全然負ける気がしない。


 奇しくもその最終結果発表はクリスマス。

 もう俺が負ける要素は一切ないと言っていいだろう。


「星占いはダメだったが、おかげで気力がみなぎってきたぜ。ありがとう、結衣花」

「今日のやぎ座、最下位だったんだ……」



■――あとがき――■

いつも読んで頂き、ありがとうございます。

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次回、音水の自信の企画とは!?


投稿は明日の7時15分ごろ。

よろしくお願いします。(*’ワ’*)

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