11月9日(月曜日)喜ぶプレゼントってなんだろう?


 自宅で食事を終えた俺は食器を洗いながら、楓坂と話をしていた。


 その内容は大企業が運営する商業施設のプロジェクトに、結衣花がイラストレーターとして抜擢されたことだ。


「というわけで、何かプレゼントを贈ろうと思うんだがなにがいいかな?」


 隣に立つ楓坂は食器を拭きながら、不思議そうな顔をする。


「それは喜ばしいですけど、仕事のことを私に話していいの?」

「プロジェクトのことは今日の昼間に公式ホームページで公開されていて、結衣花のペンネームも記載されているんだ」


 俺の話を聞いた楓坂は、ポケットからスマホを取り出した。

 おそらく商業施設のホームページを見ているのだろう。


「あら、ホントですね」

「だろ?」


 だが彼女はここで別のことを気にし始めた。


「そういえば結衣花さんのペンネームって……」


 結衣花のペンネーム『KAZU』は俺の名前の一部を使用したものだ。

 さすがに楓坂は気づいたかと思ったが……、


「はぅわ~、さすが結衣花さん! 知的でクールですてきっ! 胸きゅんが摩擦熱とオーバーロードで大変になっちゃう!」


 彼女はまったく気づかず、その名前を褒めちぎっていた。


 そういえば楓坂ってたまに鈍感なところがあるんだよな。

 加えて結衣花のことになると盲目的になるし、とてもペンネームの元ネタなんて考える余裕がないのだろう。


「でも女子が喜ぶプレゼントってわからなくてさ」


 楓坂は再び食器をふきながら、「そうね……」とつぶやいた。


「私が欲しいものなら、最新のパソコンとタブレット。動画編集ソフトの永久ライセンス。あと……面白いネタかしら」

「完全にユーチューバーの思考だな」


 楓坂はアバターで活動するユーチューバー、いわゆるブイチューバーだ。

 もっとも最近は活動を停止して、ザニー社の仕事を手伝っているらしい。


 先週の土曜日も、ザニー社の専務である叔父の旺飼さんのところへ行っていたと聞いている。


 ここで楓坂がなにかを思いついたようで、俺の方を向いて女神スマイルでほほえんだ。


「笹宮さんのキスでもいいですけど?」


 自分だったらどんなプレゼントが欲しいかという流れで、俺をおちょくってきたのだろう。

 だが、その手には乗らん。


「言ったな。じゃあ、するぞ? 今すぐやるぞ?」


 すると彼女は急に慌てだし、そそくさと食器を拭き始める。


「え……えーっと。い……、今のは冗談で……その……、また今度で……」

「恥ずかしいんだろ」

「んんんんん~っ!」


 たまに色仕掛けっぽいことをしてくるが、楓坂が本気で迫ってくることはない。

 なんだかんだで、俺をおちょくって楽しんでいるだけなのだ。


 ――と、ここで楓坂は隣に立っていることをいい事に、腰……というよりお尻でアタックしてきた。


「えいっ」

「あ、こいつ。物理的に反撃しやがった」

「ふふん。笹宮さんが生意気なのがいけないのよ」

「そんなところで勝ち誇られてもだな……」


 まぁ、別に痛くもないし、むしろこういう反撃は可愛いものだ。


「それより、結衣花のプレゼントだ。う~ん、女子高生が喜ぶものか……」

「ちなみに私はもう決めましたよ」

「なんにしたんだ?」

「入浴剤です」

「んん……? それ嬉しいのか?」

「プレゼント用にオシャレなものがあるんですよ。ほら」


 再び楓坂はスマホを取り出して、通販サイトの画面を表示する。

 そこには入浴剤とは思えないような可愛いものや、宝石箱のようなものが並んでいる。


 ドラッグストアで売っているお徳用パックとはえらい違いだ。


「へぇ、本当だ」

「それに使った後は残らないから、保管の心配が必要ないでしょ。手頃感があるので貰った人が気をつかうこともないですし」

「……ちゃんと考えてんのな」

「結衣花さんのことに関しては誰にも負けなくてよ」


 しかしオシャレな入浴剤というのは盲点だった。

 今までの人生で入浴剤をプレゼントしようという発想はなかったからな。


「じゃあ、俺もオサレ感のあるものにするか」

「あら、笹宮さんには似つかわしくないフレーズですね」

「ふっ……。どうやら楓坂は俺のセンスをなめているな?」

「なめるほどのものすらないと思うのだけど」


 たしかに以前の俺はセンスの欠片もなかったかもしれない。

 だが、度重なる経験を得た今の俺なら、結衣花が驚くようなオサレアイテムを選ぶことができるだろう。


「それで笹宮さん。候補としては何があるのかしら?」

「結衣花はよくウォーキングをしているから……、ジャンピングシューズとかどうだ?」

「余裕で私の予想を飛び越えてきましたね」


 ふむ……。どうやら俺のセンスはまだ人類の理解に届いていないらしい。


 楓坂は呆れたようにため息をついた。


「笹宮さん、明日も結衣花さんと会うんでしょ? なら直接聞いた方がいいんじゃないかしら?」

「できれば驚かせたいんだが」

「そういうことにこだわる男の人ほど、プレゼントを失敗するんですよ」

「言い返すことができん……」


 まぁ、そうなんだよな。

 サプライズをしてみたかったが、ここは素直になって結衣花に聞くとしよう。



■――あとがき――■

いつも読んで頂き、ありがとうございます。

☆評価・♡応援、とても励みになっています。


次回、結衣花に欲しいものを訊ねると意外な答えが!?


投稿は、朝・夜の7時15分ごろ。

よろしくお願いします。(*’ワ’*)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る