11月9日(月曜日)プロジェクトと彼女
月曜日。
会社に出勤すると、かわいい後輩の音水がいつものように駆け寄ってきた。
俺を見た瞬間、ピコンッと猫耳が現れるような錯覚が起きるほど彼女の表情はわかりやすい。
タレ目でほんわかした外見なのに、天真爛漫な性格。
そのうえ胸も大きいのだから、男性社員たちはいつも彼女の気を引こうとしている。
「笹宮さん、おはようございます」
「おはよう、音水」
「土日はイベントだったんですよね。お疲れ様です」
「ありがとう。音水は今日も元気だな」
「はい!」
かわいらしくガッツポーズをする音水。
目の前で後輩にこんなことをされたら、誰でもドキッとしてしまうだろう。
だが彼女はさらに俺を動揺させる術を心得ていた。
俺に近づいた音水はささやき声で言う。
「はやく仕事で活躍して、笹宮さんを抱いてあげないといけませんしね」
「グボっ!?」
ちょうどコーヒーを飲んでいた時だったので、驚いて吹き出しそうになった。
不意打ちで何を言い出すんだ、この後輩は……。
「おまっ……、朝からなに言ってるんだ……」
「んっふふ~♪ ジョーダンですよ、ジョーダン」
一週間程前、俺に『恋も仕事も頑張る』と宣言をした彼女だが、最近はこうしてからかうことが多くなってきた。
積極的になることと、からかうことは違うと思うのだが……。
その時だった。
俺の肩にいきおいよく手を置く男性が現れる。
俺の先輩であり、音水の上司の紺野さんだ。
今日もウルフカットの髪型が決まっている。
「いよぉおっ、お二人さん! 朝からなにイチャついてんだ?」
「紺野主任、おはようございます」
すると紺野さんは口をへの字にした。
「おいおいおい! 笹宮ぁ~、俺とお前の仲だろ! 肩書き付けて呼び合うのはやめにしようぜ」
「あ、はい。……紺野さん」
「そそ! オレはそういうノリがいいわけよ。じゃな!」
俺達から離れた紺野さんは、近くの女子社員の元へ行く。
「あおいちゃ~ん! おはよぉ~ん!」
「チッ! おはようございます」
すげぇな。
朝の挨拶で舌打ちされてたぜ。
「……あの人、昔から変わらないな」
「女子社員からはメチャクチャ嫌われてますけどね」
午前九時……。
今日は社長自ら前に立って朝礼が始まった。
ダルマのような顔をした社長の年齢はすでに七十歳。
高齢ではあるが、その声には威厳があった。
「みんなもイルミネーションで有名なあの駅ビルのことは知っているだろ? 先日その近くに新しい商業施設がオープンした」
その話は知っている。
なんでもグルメやエンタメを中心とした商業施設でニュースにもなっていた。
そして、そのオープニングイベントを担当したのが紺野さんだ。
社長の話は続く。
「そしてその商業施設で大規模なプロジェクトが始動する。我が社にも声が掛かり、コンペに参加することが決まった」
社員達がざわめく。
当然だ……。俺達の会社ははっきりいって弱小だ。
ここ最近は調子がいいが、基本的に小規模のイベントの仕事が多い。
まだ決定じゃないとはいえ、こうして声が掛かるだけでも特別なことだった。
「担当は引き続き紺野主任、そしてハロウィンコンテストを成功させた音水にやってもらう。何かあれば二人に協力してやって欲しい」
社長の話が終わると、全員は大規模プロジェクトのことで話が持ちっきりになる。
紺野さんと音水はというと、社長に呼ばれて会議を始めた。
俺が育てた音水が大規模プロジェクトのコンペに参加か。
なんだか、俺の事のように嬉しいぜ。
◆
会議室から出てきた音水は、真っ先に俺の元へやってくる。
来なくてもこっちから行ったのに。
「音水、やったな」
「はい! これも笹宮さんのおかげです」
「なに言ってるんだ。音水の実力だろ」
もし人目がなければ、おもいっきり抱きしめて喜びを伝えたいところだ。
「しかし大規模なプロジェクトって具体的にはどんなことをするんだ?」
「第一弾は新人クリエーターのイラストを使ったオリジナル商品らしいです。私達が狙うのはそのプロモーションイベントですね」
有名クリエーターを起用した商品作りはよくあるが、新人を使うというのはめずらしい。
「へぇ、おもしろそうだな」
「むふふ……」
「なんだよ、その笑い方は……」
「笹宮さんも驚くと思いますよ。実はそのクリエーターさんと言うのが私達も知っている人なんです」
「俺達が? 誰だろう……」
すると音水は資料のページをめくって俺に見せた。
「じゃん! 見てください!」
「KAZU……って、まさか!」
「そうです! ハロウィンコンテストの特別賞をもらったあの女子高生ですよ!」
■――あとがき――■
いつも読んで頂き、ありがとうございます。
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次回、結衣花にお祝いを用意!?
はたして、笹宮のセンスはいかに!
投稿は、朝・夜の7時15分ごろ。
よろしくお願いします。(*’ワ’*)
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