11月6日(金曜日)11月のツリー


 駅ビルのイルミネーションを見に来た俺達は、一番注目スポットのツリーがある場所にやってきた。


 虹のように光る幻想的なツリーが、一階にあるイベントスペースに展示されている。


 壁がガラス張りのため、反射した光によってツリーが三つあるように見えるのが面白い。


 二ヶ月ほど前にゆるキャラ展が開かれていた場所だが、展示するものでここまで雰囲気が変わるのかという驚きがある。


 そんなツリーを前にして、しゃがんだ楓坂がお得意の女神スマイルで手を広げていた。


「愛菜ちゃ~ん、こっちよ~。怖くないからいらっしゃ~い」

「がる~、がるる~」


 中学一年生になる妹・愛菜は、どうやら楓坂限定の反抗期に入ったようだ。

 柱の陰に隠れた愛菜は警戒した表情で楓坂を見ている。


「なあ、結衣花。あいつら、何やってるんだ」

「楓坂さんが愛菜ちゃんとツーショットを撮ろうとしているんだけど、愛菜ちゃんの方は怯えているんだよね」


 愛菜が楓坂を苦手に思っていることは前々から気づいていたが、ここまで拒否反応を出すとは思わなかった。


「愛菜があそこまで警戒するなんてめずらしいな」

「お兄さんを取られそうだと思ってるんじゃない?」

「楓坂にか?」

「はた目から見ればいいカップルに見えるよ。ケンカしている割に一緒にいるところとか」

「なんだそれ」


 隣に住んでいるという事もあって楓坂とは仲が良くなっていた。


 八月に告白されたことがあったが、あの時に返事を迫られていたら間違いなく断っていただろう。

 しかし、こうして時間が経つと抵抗感がなくなってくる。


 むしろ今はアイツがいないと寂しいとさえ思うくらいだ。

 時間と言うのは、本当に人を変える。


 そして今の俺になくてはならない存在が、隣に立っている女子高生の結衣花だ。


 彼女はなにげないふうに訊ねてきた。 


「そういえば、明日は土曜日だけど休み?」

「いや、土日はまた家電量販店でキャンペーンだ」

「クマさんになるの?」

「もしスタッフに欠員がでたらな」


 この前のハロウィンコンテストの結果発表で、俺のクマさん力を見せることができたからな。

 きっと結衣花はまた俺が演じるゆるクマっ子を見たいのかもしれない。


 んー。……ないか。

 うん、ないな。


「休日に仕事って大変だね」

「そうでもないさ。その分、平日に代休を取ってるからな」

「じゃあ次の休みは月曜日から二日間?」

「いや、会議とかもあるから水曜日と木曜日なんだ」


 すると結衣花はおもむろに「ふぅん」と声を上げる。


「なんだ?」

「うーん。実は報告したいことがあったんだけど……、火曜日に言うね」

「お……おう。わかった」


 報告か……。なんだろうか?


 ……と、急に結衣花が楓坂たちの方を見た。


「あれ? いつの間にか、楓坂さんと愛菜ちゃんが仲良くなってるね」

「……というより楓坂が一方的に仲良くして、愛菜が大人しくしてるだけのようにみえるが……」


 見ると楓坂が嬉しそうに愛菜を抱きしめて、ツリーをバックに自撮りしている。

 愛菜はというと楓坂の胸のボリュームに圧倒され、カチコチに固まっていた。


 あれを仲がいいと言うのだろうか……。


 やっと解放された愛菜はこっちにやってきて、スマホをかざした。


「兄貴も結衣花さんとツーショットを撮りなよ。私が撮影してあげるよ。にひっ!」


 また愛菜のやつ、俺と結衣花をくっつけようとしているな。

 でも結衣花も撮影が好きだし、いちおう聞いてみるか。


「あー、そうだな。結衣花、どうする?」

「うん、撮ろう」

「オーケーだ」


 こうして俺と結衣花はツリーの前に立った。


 だが……、俺達の状況を見た愛菜はげんなりした表情になる。


「ちょっとぉ~。卒業写真じゃないんだから、もっと躍動感を出してよ」

「こんなもんだろ」

「だめだめ! ほら、もっと近づいて。肩を抱くとかさぁ」


 アイツ、楓坂の前でわざと俺と結衣花が仲がいい様にみせようとしているな。


 楓坂はくやしそうな顔をしているけど、たぶん俺へのヤキモチじゃなくて、結衣花とツーショットを撮るのがうらやましいんだろう……。


 しゃあない。さっさと撮るか。


「じゃあ、俺の腕に掴まるか?」

「え、私から? 二人が見ている前でそれは恥ずかしいな」

「こういう時は控えめなのな。じゃあ、肩を掴むぞ」


 そういって、俺は結衣花の肩を掴んで引き寄せた。


 結衣花は「わっ」と驚きの声を上げる。


「お兄さんってさ、時々大胆だよね」

「嫌だったか?」

「ううん。今のはなかなか良かったよ」

「採点判断がよくわからん」


 この行動は意外と好評だったようで、スマホを持つ愛菜もにんまりと笑っていた。


「いいね、いいねぇ~。そういう感じだよー! はい、チーズ」


 こうして俺と結衣花は新しいツーショット写真を撮った。


「ふふ……」

「どうした、結衣花。嬉しそうだな」

「お兄さんとのツーショット写真、増えてきたなぁ~と思って」

「大切にしてくれよ」

「お兄さんフォルダを作っておくね」

「それはやめてくれ」



■――あとがき――■

いつも読んで頂き、ありがとうございます。

☆評価・♡応援、とても励みになっています。


次回、笹宮の仕事に大きな変化が!?


投稿は、朝・夜の7時15分ごろ。

よろしくお願いします。(*’ワ’*)

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