11月6日(金曜日)イルミネーションの夜景


 この街で一番大きな駅に隣接して建てられているその駅ビルはデートスポットとしても有名だ。


 特に十一月からバレンタインデーまで開催されるイルミネーションは、誰もが一度は耳にするほど有名だった。


 午後六時になった頃、俺達はその駅ビルに向かって歩いていた。


 シャンパンゴールドのLEDが取り付けられた街路樹がずっと続く光景。

 派手過ぎず、落ち着いた雰囲気がここのイルミネーションの特長だろう。


 シックな面持ちのある場所で、妹の愛菜が楽しそうにはしゃぐ。


「結衣花さん! ほら、ここ! ここで写真撮ろうよ!」

「うん」


 駅で合流してから、愛菜は結衣花にべったりだ。


 あいつ、結衣花のこと大好きだからな。

 ちぇっ。俺といる時はあんなに楽しそうにしないくせに……。


「あいつら、はしゃぎやがって」


 俺がいじけたようにそういうと、隣にいた楓坂がほほ笑んだ。


「うふふ。二人ともかわいっ。食べちゃいたい」

「楓坂がそういうと本当にしそうだから怖いんだよな……」


 九月までは肩出しでジャケットを着ていた楓坂だが、涼しくなり始めると普通に着るようになっていた。


 以前は男モノのジャケットを好んで着ていたが、ちょうど引っ越してきてから女性モノを普通に着る機会が増えている。


 というより、自然にオシャレをする日が増えているようだ。


 そんな楓坂は周囲を眺めて首を傾けた。


「あまり混雑していないんですね」

「クリスマスシーズンはさすがに人が多いけど、この時期で平日ならこんなもんだろ」


 この駅ビルで行われるイルミネーションは有名だが、さすがに十一月はそこまで混雑はしない。


 やはり一番人が集中するのはクリスマスになる。


「クリスマスですか……。笹宮さんはやっぱり忙しいですよね?」

「いや、それほどじゃないんだ。クリスマスは既存クライアントのあいさつ回りかな」


 イベントを仕事にしている俺だが、その内容はスマホ関連がほとんどだった。


 最近なら秋の新作スマホの発表会やそれに関連した販促キャンペーンが忙しかったが、無事に成功している。


 ちょうどその頃はハロウィンコンテストもあったんだよな。

 大変ではあったが、思い返せばいい経験になった。


 すると楓坂がおもむろに訊ねてきた。


「そういえば笹宮さんって、あまり新しいことをしているイメージがありませんよね?」

「新分野開拓は先輩の紺野さんのチームがやってるんだ」

「紺野さんって、たしか音水さんの上司ですよね?」

「ああ、うちのエースだ」


 紺野さんは他人から見ればいい加減にみえるが、実力は間違いなく我が社のトップ。

 つい最近もデカい仕事を成功させていた。


 週明けから新しいプロジェクトリーダーを務めることも決まっている。


 こういう頼りになる先輩がいてくれるというのは心強いというものだ。


 だが楓坂は紺野さんのことを面白く思っていないようだった。


「その人……、笹宮さんよりもすごいの?」

「ああ。もっとも俺の実力なんて平均値くらいだぜ」

「……。そうかしら……」


 ……あれ? 怒ってる?

 急に不機嫌になったみたい。


 別に楓坂と比べたつもりはなかったんだが……。


 うーん。こういう場合は話題を変えるのがベストだな。


「それよりこれからどうする? さきにオブジェを見に行くか」

「そうですね」


 さっそく俺達は駅ビルの屋外に設置されたオブジェを見に行くことにした。


 ハート型をしたオブジェの大きさはそれほどではなく、どちらかというと控えめだ。


 周囲の暗さとシャンパンゴールドの光と相まって存在感がより強調されており、それ単体で一つの世界観を作り上げていた。


 オブジェを見た愛菜と結衣花が感動したように声を上げる。


「きゃーっ! かわいい!」

「ほんとだ。すごいね」


 楓坂ではないが、確かに二人がはしゃぐ姿は見ていて愛くるしい。

 ここは一番年上の男としてリードしてやらんとな。


「よし、写真を撮ってやるぜ」


 そういって俺は二人のスマホで写真を撮る。

 このくらいは無料サービスでオーケーだぜ。


 写真を撮って『仕事をしました感』を出していると、楓坂が近づいて来る。


「うふふ。いいお父さんしてますね」

「ふっ……、俺の器の大きさがそう感じさせるんだろう」


 さて、……そろそろ食事にするか。

 ここで夕食を摂ることがあまりないから、どんな店がいいかわからないんだよな。


 すると結衣花がスッと話を切り出してきた。


「じゃあ、この後は夕食だね。気軽なイタリアンでいい?」

「しかし、さすがにこの時間だと人が多そうだな」


 だが結衣花に隙はない。

 片手にスマホを持った彼女は言う。


「今確認したら席が空いてるって」

「え? もう確認したのか?」

「予約も入れておいたよ」

「はやっ!」


 さらに結衣花は、俺と楓坂二人に向かって言った。


「それと二人とも、お酒はダメだからね。愛菜ちゃんもいるんだから自重するように」

「「……はい」」


 タジタジの俺に楓坂が小声で言う。


「おかしいわね……。なんだか私達の方が子供みたい……」

「いつも思うけど、結衣花って年齢の割にしっかりしてるよな……」



■――あとがき――■

いつも読んで頂き、ありがとうございます。

☆評価・♡応援、とても励みになっています。


次回、少し早めのツリー鑑賞。結衣花といいムードに!?


投稿は、朝・夜の7時15分ごろ。

よろしくお願いします。(*’ワ’*)

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