10月31日(土曜日)結果発表


 もうすぐイラストコンテスト結果発表がテーマパークの中央広場で行われる。


 マスコットキャラ『ゆるクマっ子』のぬいぐるみを半分だけ着て待機していた時、同じくパークに来ていた結衣花と遭遇してしまう。


 彼女は詳しい事情をあえて聞かず、俺の隣に座った。


「元カノさんとの対決はどうだったの?」

「ああ、勝ったよ。結衣花のおかげだ」

「私、なにもしてないよ?」

「励ましてくれただろ」


 考えるそぶりをした結衣花は「あっ」と声を上げた。


「頭なでなでのこと?」

「まあ……、それも含めてな」

「あ、デレた」

「デレてねーよ」


 昨日、俺は結衣花に頭をなでられている。


 子供扱いされたようでいささか恥ずかしかったのだが……、まぁ……結衣花が俺を応援してくれているという気持ちは伝わっていた。


 おっと、ここまで知られたのなら、ちゃんと説明しておかないとな。


「コンテストの事なんだが、俺達の仕事は舞台設置や集客活動だけでコンテスト自体には関わっていないんだ。だから、結果は知らなくてな……」


 もしかしたら俺の口から結果を聞きたいのかもしれないと思ってそう言ったのだが、結衣花は首を横に振った。


「ううん、大丈夫。たぶん私は落ちてるから」

「……まだわからないだろ?」

「私のところに連絡は来てないから、落ちたんだなぁ~って」


 ……そうか。

 今回の結果発表イベントは授賞式も兼ねている。

 なら、事前に受賞者には連絡が言っているはずだ。


 しかし結衣花は前を見ながら、静かに胸の内を明かしてくれた。


「私ね、ずっと自分の作品を公開するのが怖かったんだ。……でもね、お兄さんが頑張ってるのを見て私もやってみたいって思うようになれたの」


 彼女は俺の顔を見て、微笑みながら「お兄さん、ありがとう」と言ってくれた。


 俺の知らないところで結衣花は悩んで、そして成長していた。


 ここで抱きしめて褒めてあげたいという気持ちもあるが、それは叶わない想いだ。


 結衣花は立ち上がり、俺に手を振った。


「じゃあ、そろそろ行くね。ゆるクマっ子さんも頑張って」

「ふっ……。任せろくま」

「ゆるクマっ子はそんな喋り方しないよ」


   ◆


 そして結果発表が行われた。

 金賞一名、銀賞三名の名前が発表される。


 やはり、結衣花の名前はなかったか……。

 しかたがないこととはいえ、やはり残念だ。


 ゆるクマっ子の着ぐるみを着た俺は受賞者たちにトロフィーと賞品を渡す。

 これで今日のイベントはすべて終わるかに思われた。


 だが突然、壇上にいた司会者が追加の発表をする。


「えー、今回のコンテストには多くの方々が参加して頂きました。惜しくも受賞は逃しましたが審査員たちが面白いと思った作品に『特別賞』を送りたいと思います」


 特別賞?

 そんな話は聞いてないぞ。


 離れた場所で全体を見ていた音水も驚いているようだ。

 もしかして、急に決まった話なのか。


 俺達の戸惑いに気づかず、司会者は特別賞の発表を始めた。


「特別賞は……ゆるキャラを描いたKAZUさんです」


 ……、なんだろう。

 聞きなれているというか、よく知っているような名前なんだが……。


 KAZU……、カズ……。カズト

 笹宮和人。


 俺の下の名前じゃねぇか!


 こんなことをするのは生意気な女子高生しか心当たりがない。


 となると、特別賞の受賞者というのは結衣花のことか。


 俺はすぐ近くにいたイラスト投稿サイトの責任者に訊ねる。


「すみません。特別賞にはなにか賞品はあるんですか?」

「いや、それはない。今後の励みになればと思って用意した賞だからね」


 やっぱりそうか……。

 だが、俺が結衣花を喜ばせられるのはこの瞬間しかない。


 わがままを承知で頼んでみよう。

 

「では、ゆるクマっ子と撮影か握手みたいなことでも叶わないでしょうか?」


 俺の勢いに驚いた責任者は両手を上げながら説明する。


「待ってくれ。特別賞は本当についさっき決めた話なんだ。KAZUさんを呼んでいないんだよ」

「では、せめてパークに来ているかどうか確認してもらえないでしょうか。せっかくの機会なので喜ばせてあげたいんです」

「ん~、そうだねぇ。わかった」


 そう言った責任者は司会者の元へ近づき、耳打ちで指示を伝えた。

 間もなく、司会者はマイクで話す。


「えー、特別賞のKAZUさん。もしパークに来ていましたら教えてください」


 すると広場にいた結衣花が手を上げる。


 やはりKAZUは結衣花のことだったのだ。

 彼女は驚いているというより、恥ずかしそうにしていた。


 それを確認した司会者はニコリと笑う。


「では、特別賞の賞品として『ゆるクマっ子とハグ』をしていただきます。檀上へどうぞ!」


 なるほど。

 マスコットキャラとハグなんて、なかなかできる体験じゃない。


 きっといい思い出になるだろう……、ってハグ!?


 俺が結衣花をハグするのか!?



■――あとがき――■

いつも読んで頂き、ありがとうございます。

☆評価・♡応援、とても励みになっています。


次回、結衣花とハグしちゃう!? ドキドキラブコメ展開アリですよ!


投稿は、朝・夜の7時15分ごろ。

よろしくお願いします。(*’ワ’*)

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