10月31日(土曜日)ゆるクマっ子


 テーマパークで開催されるハロウィンフェスティバルが始まった。


 開園と同時に多くの人達がパーク内に入ってくる。


 午前中、数多くある限定イベントで一番の盛り上がりを見せたのは、やはり雪代が企画した路上ゲリラライブだった。


 一時は大喧嘩をしていた大手広告代理店の社員達も、力を合わせてイベントを盛り上げている。


 ……そして時間は流れ、午後になった。


 路上ゲリラライブが終わった後、次にパーク内を盛り上げたのは俺達が企画したミステリー宝探しゲームだった。


 スタッフによる寸劇や撮影会などが功を奏し、路上ライブを楽しんだ人達も取り込むことに成功している。


 しかし……、


「笹宮さん! 人が集まりすぎて収拾がつきません!」

「こらえろ! とにかくケガ人だけは出すな!」

「はい!」


 今回、俺達のチームは十分なスタッフの数を揃えることができなかった。


 それでも乗り切れるはずだったが、想定以上の盛り上がりにより管理が間に合わなくなっていたのだ。


 ちぃ……ヤバいな。


 寸劇や撮影会の場所を分散して混乱を防いでいるが、それでも人が集中しすぎている。


 だが、いまさらスタッフの追加なんてできるはずがない……。


 その時だった。

 男勝りな喋り方をする女性が俺に声を掛けた。


「よぉ。笹宮!」

「雪代……。どうしたんだ? それにその恰好……」


 なぜか雪代は魔女のコスプレをして現れた。

 さらにその後ろには、大手広告代理店の社員達がいる。


「人手が足りてねぇんだろ。アタシらも手伝うよ」

「……でも、俺達は勝負をしているんだろ。敵を助けていいのか?」


 すると雪代は眉を歪めた。


「はぁ? 先に他社のことに首を突っ込んできたのは笹宮だろ」

「それは……そうだが……」

「それにアイツらがやりたいって言ってんだ。手伝わせてよ」


 雪代が親指で後ろをさすと、ガタイのいい中年男性を中心に社員たちが笑顔でうなずく。


「勝負はアタシの負けでいいよ。これはその賞品として受け取ってくれ」

「ありがとう。じゃあ、頼む」


 こうして、大手広告代理店の社員達の助けもあって、ミステリー宝探しゲームは大成功を収めることができた。


   ◆


 午後二時前。


 ミステリー宝探しゲームで集客できたおかげで、イラストコンテストの結果発表の舞台には多くの人が集まっていた。


 その様子を確認した音水は、建物の陰に隠れている俺のところへやってくる。


「笹宮さん、本当にこれ着るんですか?」

「ふっ……。俺のクマさん歴を甘く見るなよ」

「笹宮さん、よくクマの着ぐるみに入ってますもんね……」


 コンテストの結果発表ではイラスト投稿サイトのマスコットキャラクター『ゆるクマっ子』が受賞者に景品を渡しに行くというサプライズが用意されている。


 俺達イベント業者には受賞者が誰なのか知らされていないが、きっと事前に連絡をしてこのパーク内に呼んでいるのだろう。


 そこでゆるクマっ子の着ぐるみを俺が着ることになったのだ。


 体だけはすでに着ぐるみに入っていて、あとはデカい頭を装着するだけ。


 これが暑いんだよなぁ……。


「十月末とはいえ、着ぐるみの中は暑さで目が回りそうになるぜ」

「中に扇風機があればいいんですけどね」

「以前、あんまりきつかったからドライアイスを入れたことがあったな」

「……どうでした?」

「涼しくなったような気はしたが、あんまり効果はなかった」


 だが、なんだかんだで可愛いキャラの着ぐるみは人気がある。

 撮影する時とか、子供達が嬉しそうにしてくれると疲れも吹き飛ぶというものだ。


 時間を確認した音水が舞台の方に体を向けた。


「じゃあ、私は舞台のチェックに行きます。時間になったら迎えにきますので待機していてください」

「ああ。わかった」


 さて、いよいよコンテストの結果発表だな。


 そういえば、このイラストコンテストには結衣花も応募していたんだっけ。


 もし受賞していれば後でお祝いをしてやろう。


 そんな事を考えていた時、抑揚のない口調で挨拶をする女子が現れた。


「えーっと……こんにちは。お兄さん」

「……。……よぉ、結衣花」


 建物の陰で着ぐるみを体半分だけ着た俺の前に現れたのは、いつも電車で一緒になる女子高生の結衣花だった。


「……私……見ちゃいけないものを見てしまったかな」


 戸惑う結衣花。


 そりゃそうだ……。ゆるクマっ子は可愛い人気のマスコットキャラクター。


 その中に知り合いの社会人が入ってる場面を見たのだから、絶句するのは当然の反応だろう。


「あー。……結衣花。言っておきたいことがある」

「ゆるクマっ子の中には誰も入っていないんだよね」

「そうだ」

「私が今見ているのは、変なお兄さんが着ぐるみごっこをしているだけなんだよね」

「そうだ……」

「頑張れ、……社会人さん」

「ぅ……。かたじけない」



■――あとがき――■

いつも読んで頂き、ありがとうございます。

☆評価・♡応援、とても励みになっています。


次回、イラストコンテストの結果発表はどうなる!?


投稿は、朝・夜の7時15分ごろ。

よろしくお願いします。(*’ワ’*)

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