10月31日(土曜日)ハロウィンフェスティバル
ついにテーマパークで、ハロウィンフェスティバルが始まろうとしていた。
本日限定イベントがパーク内でいくつも開催されることになっている。
時刻は午前七時半。
開園まであと少しと言う時、最終チェックをしてた俺の元に音水が走ってきた。
「笹宮さん、大変です! テーマパークの公式ホームページが土壇場で変更されました!」
「雪代め……。やっぱり仕掛けてきたか」
音水が見せたのは、雪代が企画した路上ゲリラライブだった。
昨日までの内容は、アイドルグループが仮装をしてパーク内を歩き、突然ライブを始めるというものだった。
しかし新しく更新されたホームページにはこう書かれている。
アイドル達が黒魔導士に捕まった!
パーク内を歩き回る黒魔導士にみんなの魔法をぶつけて倒せ!
君達がアイドルを助ければ、そこでライブが始まるぞ!
そして、黒魔導士に放つ魔法名が五種類ほど書かれている。
スマホの画面を見ながら、音水は言う。
「魔法ってVR装置でも使うんでしょうか?」
「いや、来場者が手をかざして魔法名を口にするだけでいいんだ。あとは黒魔導士役の人達がやられる演技をするんだよ」
その内容を聞いた音水は、肩透かしを食らったような顔をした。
「そんなことですか……」
「と思うだろ? だけどテーマパーク内だとこういうのが意外とウケるんだ」
おそらく黒魔導士の中にアイドルが隠れていて、倒した瞬間にマントを脱いでライブが始まるという具合だろう。
それにこれならアイドルファン以外の来園者も楽しませることができる。
つまり、俺達が考えていた女性以外のターゲットを狙う作戦が潰されたという事だ。
「ふっ……、さすが雪代だな。面白いことを考えるぜ」
「笹宮さん、ピンチなのに嬉しそうですね」
「まぁな。それに俺達が負けたわけじゃない。内容から考えて勝敗は五分五分と言ったところだろう」
だが、嬉しいという気持ちに間違いはない。
学生時代の俺は雪代に憧れていた。
どんなことをしでかすかわからないというみんなの期待を、彼女はいつも実現してきた。
だから嫌われる一方、彼女に惹かれる者も多かった。
俺もその一人だ。
そんな彼女の本領発揮を見ることができて、俺はたまらなく嬉しかった。
だが、事態はあらぬ方向へと向かうことになる。
「笹宮さん! すみません、助けてください!」
こちらに向かって走ってきた真面目そうな男性は、大手広告代理店の社員だ。
彼は雪代のことを俺に教えてくれた人物でもある。
「あなたは音水と見合いした……。どうしたんですか?」
「雪代さんがベテラン社員と大喧嘩を始めて手のつけようがないんです!」
「ですが、私がそちらの事情に首を突っ込むわけには……」
「わかっています。でも、もう頼れるのは笹宮さんしかいなくて……」
敵である俺に頼みにくるということは、よほど切羽詰まっているのだろう。
今日の対決に負ければ、俺は雪代の部下になるという約束をしている。
このまま黙って見過ごせば、俺達の勝利は確定だ。
だがプロのイベントプランナーとして、天才雪代と同じ土俵で勝負をしてみたい。
なにより、この試みはハロウィンフェスティバル全体の盛り上げに貢献するだろう。
俺は隣にいる可愛い後輩の顔を見た。
「……音水。俺はこれから雪代達の仲裁に入ろうと思う。勝負は不利になるが、それでもいいか?」
すると彼女は明るい表情で笑った。
「なに言ってるんですか! それでこそ笹宮さんじゃないですか!」
音水は近づいて、俺の手を握った。
「笹宮さんはどんな時で誰かのために突っ走るのがすてきなんじゃないですか! そんな笹宮さんだから、私は好きになったんじゃないですか!」
「……音水」
さらっと告白されたが、彼女はいつものように誤魔化そうとはしなかった。
だからだろう。
彼女の素直な好意がスッと俺の心に入ってきた。
俺はずっと、音水を後輩として見てきた。
だけどもう彼女は一人前になっていたんだ。
俺が雪代に抱いていた期待を、音水もまた俺に期待している。
そのことに気づいた時、今までとは違う感情が沸き起こった。
それは学生の頃に味わった恋愛感情とは違う、くすぐったくも尊く、愛おしい気持ちだった。
今まで以上に魅力的になった音水はキラキラと輝く瞳で、まっすぐ俺を見る。
「行きましょう! 敵も助けて、その上で私達が勝ちましょう! 笹宮さんならそれができます!」
「わかった」
音水の承諾を得た俺は、雪代達がいる場所へ向かった。
■――あとがき――■
いつも読んで頂き、ありがとうございます。
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次回、雪代との対決後編! 笹宮はどうするのか!?
投稿は、朝・夜の7時15分ごろ。
よろしくお願いします。(*’ワ’*)
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