10月1日(木曜日)笹宮の打開策と音水の変化


 十月一日の木曜日。

 ファミレスで食事をしていた時、すぐ前に座っていた音水が驚きの声を上げた。


「笹宮さん、テーマパークの公式ホームページが更新されました!」


 それは十月三十一日の土曜日に開催されるハロウィンフェスティバルの内容だった。


 音水が企画をしたイラストコンテストの結果発表もこのフェスティバルの催しの一つで、午後二時に中央の広場で行われる。


 しかし、今日になって突然、新しいイベント内容が追加されたのだ。


 その内容は雪代が仕掛けてきた、路上ゲリラライブだった。


 ショーを行うのは、女子高生の間で人気になりつつあるアイドルグループ。


 アイドル達はモンスターに仮装してパーク内を歩き回り、全員が集合したところでライブがスタートするという内容だ。


「やっぱり女性をターゲットにしてきたか」

「テーマパークは女性ファンが多いですからね……」

「だが、ゲリラライブは午前中だけとなっている。俺達は午後二時だから被ることはない。それに追加イベントもあるからな」


 雪代に対抗するために考えた追加イベント……。それは『ミステリー宝物探しゲーム』だ。


 パーク内のどこかに設置された十枚の看板を探し出し、そこに書かれたクイズを答えることで景品がもらえるというものだ。


 そして答え合わせは、イラストコンテストの結果発表の中で行う。


 これなら老若男女を問わず参加することができ、自然に結果発表の舞台に客を集めることができる。


「もっと派手なことをするかと思いました」

「舞台設置で予算は使っているからな。だが、効果はかなり高いと思うぜ。後はスタッフの演出でカバーしよう」


 実際、こういったミッション系のイベントは費用の割に反響が高い。


 大がかりなものなら施設全体を使った脱出ゲームなどがある。

 これはそれを低予算で再現したものだ。 


「笹宮さん、なんだか余裕ですね。もし負けたら会社を辞めないといけないのに」

「余裕というわけではないが、なんとかなると思うぜ」


 俺はテーブルの上にあったコーヒーを一口飲んだ。


「こういったミッション系って実は子供が大好きなんだ。それにテーマパークでは手持ち無沙汰になりがちなお父さんも楽しめるしな」

「なるほど、女性以外の人をターゲットにしているんですね」


 これを思いついたのはスーパー銭湯で肩身を狭そうにしているお父さんをみたからというのは黙っておこう。


 俺も結婚して子供が生まれたら、肩身の狭い思いをするのかなぁ。

 ……しそうだなぁ。


 とりあえず、これで方向性は決まった。

 あとは現場でどれだけゲストを楽しませるかだ。


 ここで音水が、なぜかため息をついた。


「はぁ……、今回も笹宮さんに助けられてしまった感じですね」

「なに言ってるんだ。元々は音水が考えた企画だろ。俺のアイデアなんてオマケみたいなものだ」


 だが彼女は頭を横に振る。


「違うんです。今回は私の力で笹宮さんを助けたかったんです」


 いままでトラブルがあれば俺を頼っていた音水が、逆に俺を助けようとしていたのか……。


 ……まったく、嬉しい驚きだ。


 後輩の成長を実感した俺は嬉しくなり、つい唇が緩んでしまった。


「わかった。じゃあ、その気持ちに応えて、今日の昼めしは俺がおごってやるよ」

「ホントですか!?」

「ああ」

「やったぁーっ!」


 こういう時は女子高生みたいにはしゃぐんだよな。


 音水はこのままでもいいんだぜと言いたくなるが、先輩としてそれは言えないのが辛い。


「あのぉ……、ついでと言ってはなんですが、もう一つおねだりをしてもいいですか?」

「ん? なんだ?」

「一緒に写真を撮って欲しいなぁ~なんて……」

「撮ったことなかったか?」

「笹宮さんの写真はありますけど、ツーショットはまだです」

「そうか……。まぁ、構わないが」

「ありがとうございます」


 すると俺の隣に座った音水は、おもいっきり近づいてきた。

 その距離はゼロセンチ。

 完全に密着している。


「じゃあ撮りますね」

「待て」

「どうしたんですか?」

「なぜ、ここまで接近する必要がある……」

「こんなもんですよ」


 違う、違う!

 当たってるんだよ!

 胸……、胸が当たってるんだよ!


 その時だった。


「きゃ!」


 体勢を崩した音水は思いっきり俺の胴体に抱きついた。


「ほら……。無理な姿勢をするから倒れるんだ……って、どうした?」


 顔を真っ赤にする音水。

 だが、いつもなら慌てふためくことが多いのに、今日は一時停止をしたように硬直していた。


 彼女はつぶやくように言う。


「笹宮さんの胸板……、なんか……すごくて……」

「……? 男は胸を触られてもなんとも思わないぞ」

「そうなんですけど……今までは尊敬する人って感じだったんですけど、……笹宮さんが男の人なんだなぁ……って」


 今までの音水と全く違う反応だ。

 ぼ~っとしたような、ふわふわしたような、不思議な表情を彼女はしていた。


「それって、つまり……」

「あ! あれ!? 私なに言ってるんだろう! あははっ! じゃあ、私はこれで!! 店の外で待ってますね!」


 突然、我に帰った音水は急ぎ足で店の外に出て行った。


 男の胸板って……、そんなに驚くものか?



■――あとがき――■

いつも読んで頂き、ありがとうございます。

☆評価・♡応援、とても励みになっています。


次回、通勤電車で結衣花に相談……しちゃっていいの!?


投稿は、朝・夜の7時15分ごろ。

よろしくお願いします。(*’ワ’*)

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