9月28日(月曜日)楓坂とお風呂へ行こう


 会社から帰ってきた俺はコンビニ弁当を食っていた。

 だが、頭の中はハロウィンコンテストのことでいっぱいだ。


「しっかし、どうすればいいかな……」


 元カノの雪代と対決をすることになったが、まだこれと言ったアイデアが思いつかなかった。


 食事を終えて弁当の容器をゴミ箱に入れた時、『ピンポーン』とインターホンが鳴る。


 ドアを開くと、楓坂が困った様子で立っていた。


「ぅぅ……、笹宮さん」

「楓坂……、どうしたんだ?」

「シャワーを浴びようとしたらお湯が出なくて……」


 あー。このマンション古いからな……。

 前にも一度、この階のお湯が出なくなったことがあったし。


 念のため、俺の部屋にあるシャワーも試してみたが、やはり水しか出てこない。


「俺のところもダメだな」

「どうしましょう……」


 管理人には連絡するが、それでもすぐに直るという保証はない。


 となると……あそこだな。


「じゃあ、近くのスーパー銭湯に行くか」

「連れて行ってくれるんですか?」

「当たり前だろ。車に乗れよ」


 こうして俺と楓坂は近くのスーパー銭湯に向かった。


   ◆


 車で十五分移動したところに、お目当てのスーパー銭湯がある。


 実を言うと、ここは俺のお気に入りスポットだ。

 リラックスしたい時は、たまにこうして入浴に来る。


 和風の外見をした施設に入って入場料を払うと、リストバンドが貰える。


 楓坂はめずらしそうに施設内を見ていた。


「お風呂屋さんなのに、レストランとかマンガ喫茶もあるんですね……。私、こういうところ初めてなんです」

「そうだったのか。じゃあ、今日は楽しめよ」


 館内は家族連れが多いが、若い人達も多い。

 中にはカップルで来ている人もいる。


 スーパー銭湯はどちらかというとテーマパークに近い存在なので、こういった客層になるのだろう。


 こうして俺達は一度別れて、それぞれ風呂に入った。


 露天風呂・炭酸風呂・薬草風呂などを堪能して、俺は風呂を上がる。


「ふぅ……。やっぱり銭湯にくると疲れが取れるぜ」


 リラクゼーションルームで漫画を読みながら待っていると、ドリンクを持った楓坂がやってくる。


「お待たせしました」

「おう、どうだ……、……た……」


 湯上りの楓坂を見て、俺は言葉を失った。


 長い髪を後頭部でお団子にし、うなじを見せる髪型。

 加えて浴衣風の館内着。

 

 男なら誰でも目を止めてしまう魅力があった。


 ……今まで意識しないようにしていたが、やっぱり楓坂って美人だよな。


 そんなことを考えているとは彼女に伝わるはずもなく、じっと見つめたため怪訝な表情をされてしまった。


「……なんですか?」

「いや……、べつに……」

「変な人。もっともあなたは変なところがウリですけど」

「そんなものウリにした覚えはない」

「うふふ。隠さなくていいのに」


 いつもの調子で毒舌を吐きながら、楓坂は俺の隣に座った。


「はい、ドリンク」

「くれるのか?」

「飲みかけでよければ」

「じゃあ、漫画と交換だ」


 漫画と交換したドリンクを飲んでいると、隣に座っていた楓坂が近づいてきた。

 そして俺の肩に頭を乗せる。


「お……おい」

「いいじゃないですか」


 湯上りということもあってか、いい香りがする。


 ヤバい……、グッとくる。

 俺の平常心よ、頑張れ。頑張るんだ。


 楓坂は漫画を読みながらつぶやいた。


「笹宮さん……」

「なんだ?」

「ふふっ。好き」


 彼女はそう言って、少し体を揺する。


 俺、どうしよう……。

 マジで瞬殺されそうだ。


 すると急に、楓坂は話題を変えてきた。


「そう言えば、雪代という人とイベント対決をしているんですよね?」

「あ……ああ」


 楓坂には雪代のことを話してなかったが……。

 そうか、結衣花から聞いたのか。


「俺の先輩に言わせれば企業再生の切り込み隊長だってさ」

「どういう意味ですか?」

「調べてみてわかったんだが、雪代は就任すると改善策をやるだけやって、土台が仕上がったら後任に譲って自分は退社するんだ」


 楓坂は一度離れて、驚いた表情で俺を見た。


「……つまり、改善に必要な嫌われ役を引き受けていると?」

「ああ……。そりゃあ、偉いさんは喜ぶだろうな。手柄は全部もらえるんだからさ」


 いくら雪代に実力があるとはいえ、どうして二十六歳でいきなり部長職についたのか疑問だった。

 だが、最初から短期限定ということであれば納得がいく。


 しかし、そんな相手にどうやって対抗すればいいか……。


 ぼんやりと周囲にいる家族連れやカップルを見ていた時、ふと思ったことをつぶやく。


「……家族連れか」

「どうしたんですか?」

「もしかしたら雪代に勝つ方法が見つかったかもしれない」



■――あとがき――■

いつも読んで頂き、ありがとうございます。

☆評価・♡応援、とても励みになっています。


次回、ハロウィンコンテストの新提案! 笹宮、活躍します!


投稿は、朝・夜の7時15分ごろ。

よろしくお願いします。(*’ワ’*)

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