9月16日(水曜日)理由と対決


 テーマパークに来た俺と音水は、広告代理店の部長・雪代に会うことができた。


 しかし雪代は俺の話を聞こうとせず、一方的にレストランに連れて行った。

 今は食事をしながら、なぜ雪代が五年前にインドへ行ったのかという話を聞いている。


「じゃあ、海外で会社の立て直し事業みたいなことをしてたのか?」

「まあね。最初は親父の会社を助けるためだったけど、なんか他からいろいろ頼まれるようになってさ」


 雪代は女とは思えない食いっぷりで、皿の上にあったハンバーグを口の中に放り込む。


「やっぱ文化が違うとうまく行かないことが多いじゃん? 特に人をまとめる時とかさ。でも私ならなんとかなるんじゃねって感じで、ちゃちゃちゃ~っとね」


 ちゃちゃちゃで済む話ではないと思うのだが……。


「だったら、せめて連絡くらいしろよ」

「親父が破産寸前だからなんて言えるわけないじゃん。……あ、そのポテトちょうだい」


 といいながら、俺の皿にあったポテトを勝手に取りやがった。

 おのれ……。後で食べるつもりだったのに……。


 それより、本題に入ろう。


「ところで雪代。ハロウィンのイラストコンテストなんだが、このままだと両方のイベントが潰し合ってしまう。なんとか重ならないようにしてくれないか?」

「ん~。いいけど、交換条件ってどう?」

「なんだ?」

「笹宮……。そっちの会社をやめて、アタシのところへ来なよ」


 ……そういうことか。


 どうして潰し合うようなイベントを仕掛けたのか疑問だったが、俺を引き抜くことが狙いだったんだ。


 仕事を成功させるためという理由を付ければ、会社を辞める免罪符になると考えたのだろう。


 だが……、


「悪いが、それは断る」

「私の頼みを断る気?」

「俺は今の仕事を気に入ってるんでな」

「はっきり言って、笹宮には合ってないって」


 あからさまに不機嫌な顔になった雪代は腕を組んで睨みつけてきた。

 元々目つきが悪いこともあって、その迫力はすさまじい。


「笹宮は自分で考えて行動するタイプじゃない。そんな才能もない。頭を張れるカリスマ性もない。……私の下にいるのがベストポジションなのよ」

「だが断る」

「ここでそんなパロネタ求めてねーっつーの。黙ってイエスって答えろ」


 黙っていたら、イエスもノーも言えないだろ。

 傲慢な所も変わってないな。


「あの!」


 突然、隣に座っていた音水が急に立ち上がって叫んだ。


「笹宮さんのことを悪く言うの、やめてもらえませんか!」


 思わぬ横やりに、雪代は睨む方向を変える。


「……あんた、なんなの? 笹宮のことはアタシが一番知ってんのよ」

「そんなの昔のことですよね。今は私の方が笹宮さんのことを知っています」

「アタシは笹宮と付き合ってたこともあんの。部外者が口出ししないで」


 その一言を聞いて音水はキッと目に力を入れた。

 今まで見せたことのない表情だ。


「私は……私は笹宮さんのことが好きです! あなたより数百倍大好きです! だから部外者じゃありません!」

「……はぁっ!?」


 突然に音水の告白に、雪代は目を丸くして驚いていた。

 無論、俺も驚いている。


 いや……、そりゃあ俺だってもしかしてと思う時は何度かあったけど、こんなにストレートに言われたのははじめてだ。


「なので絶対に渡しません! 笹宮さんは私のものです!」

「ちょ……、ちょっと!? なに言ってんの、アンタ!?」


 さっきまで強気だった雪代は辺りを見ながらあたふたしていた。


 当然、このレストランには俺達以外の客もいた。

 彼らはなにがあったのだろうかとこちらを見ている。


 よほど唐突なことだったのだろう。

 店員ですら、呆然と立ち尽くしていた。


 もちろん俺も内心は混乱しているが、それよりも今はこの場をうまく収めたほうがよさそうだ。


 俺は雪代に向き直る。


「じゃあ、こうしよう。十月末のハロウィンイベントは重ならないように開催して、来場者に『どっちのイベントが印象的だったか』をアンケートするというのはどうだ?」

「アンケートで勝敗を決めるってこと?」

「そうだ。もしお前が勝ったら望みを聞いてやる。どうだ?」

「はっ! オーケーよ。圧倒的な差を見せつけてやろうじゃん」


 雪代は完全にペースをこちらに握られ、悔しさをにじませながら席を立ちあがった。

 テーブルに食事代を叩きつけ、そのままズカズカと店を出て行く。


 相変わらず、おっかねぇ……。


 隣を見ると、音水がひとりで顔を真っ赤にしてあたふたしていた。


「あー。……音水?」

「はうわぁぁぁぁっ!! あの! 違うんです!! そ……その! す……好きと言ったのは……別の意味で……」

「違うのか……」

「違わないんですけど!! その……私が言ったのは、先輩としてであって!! 特別、深い意味はなくて……!!」

「……ああ、……そういう意味か。びっくりしたぜ」


 すまんな。

 隠しているつもりだろうが、さすがの俺も確信してしまったよ。


「ぅぅ……。私のバカぁ~」


 恥ずかしさで顔を覆う音水に、俺は言う。


「まぁ……、アレだ……。なんというか……、ありがとう」

「へっ?」

「本音を言うと、実は雪代にディスられて凹みそうになってた。お前があそこで言ってくれて救われたよ」

「さ……笹宮さん……」


 こんなにかわいい後輩が頑張ってるんだ。


 雪代との対決、絶対に勝たないとな。



■――あとがき――■

いつも読んで頂き、ありがとうございます。

☆評価・♡応援、いつも励みになっています。


次回、疲れた笹宮の元に現れた楓坂が!?

ラブコメは止まりません!


投稿は、朝・夜の7時15分ごろ。

よろしくお願いします。(*’ワ’*)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る