8月14日(金曜日)三人で回転寿司へ


 俺の自宅では、今まさにコスプレ撮影会が開催されていた。


 結衣花のコスプレもこれで三着目。

 今はゴスロリメイド服にキツネ耳をつけている。


 そんな彼女と一緒にポーズを決めているのは、中学一年生の妹・愛菜だ。

 男装で黒いマント姿の愛菜は俺に手をかざして言った。


「全ての条件はクリアされたよ! 兄貴、全力で撮影するんだ!」

「はいはい。イエス、ユア・アイナ」


 こうして撮影を終えた頃、正午を過ぎた。

 そろそろ腹の減る時間だ。


「昼食だがどうする? 出前でも取るか?」


 俺がそう訊ねると、愛菜が元気よく声を上げた。


「それなら回転寿司に行こうよ!」

「ああ、いいぜ」


 ここから一番近い駅のすぐそばに人気の回転寿司がある。

 安いのはもちろんだが、味もなかなかのものだ。


「結衣花もどうだ?」

「私も一緒でいいの?」

「当然だろ。おごるぜ」

「ありがと。今日のお兄さん、カッコイイよ」

「いつも通りってことか」

「そういう事にしてあげる」


 着替えを終えた結衣花と愛菜を車に乗せて、駅前にある回転寿司へと向かうことにした。


   ◆


 回転寿司の店内に入ると、俺達はテーブル席に案内された。

 席に座ろうとすると、すかさず愛菜が指示を出してくる。


「私はこっちに座るから、兄貴は結衣花さんの隣ね。ほらほら」

「わ……わかったよ」


 愛菜はやはり俺と結衣花をくっつけようとしているようだ。

 やれやれ。どうあがいても社会人と女子高生が付き合えるわけないのに……。


 レーン側に座った結衣花は気にするそぶりを見せず、熱い茶が入った湯飲みを俺に差し出してくれた。


「はい、お茶」

「おう、ありがとう」

「お兄さんのお寿司は私が取ってあげるね。なにがいい?」


 今日はやけに優しいな。

 愛菜がいるから? それともこれが本来の結衣花なのか?


 普段は電車で立ち話しかしないが、こういった場所だと気を利かせてくれるタイプなのかもしれない。


 妹の愛菜は嬉しそうに、俺達のやりとりを見ている。


 ニヤニヤしやがって……。

 はたから見れば、仲のいいカップルに見えるのだろうか。


 恋のプロデュースが成功したわけではないが、こういう家族的なやり取りは悪くない。


 よし! ここはお言葉に甘えて寿司を取ってもらおう。


「じゃあ、最初はイカだな」

「うん、わかった。イカと……ブロッコリーだね」

「おい」


 やはりいつもの結衣花だった。

 ここで俺の苦手なブロッコリーの名前を出すとか、絶対に狙っていただろ。 


 だが……、今回に限っては俺に分がある。


「残念だったな、結衣花。回転寿司のメニューにブロッコリーはないぜ」

「そうなの?」


 勝者の余裕を示すように、俺は「ふっ……」と小さく笑った。


「今日は食べる気満々だったが致し方ない。まさに痛恨の極みとはこの事だ」

「あ、ブロッコリー巻きが来たよ」

「なんで来ちゃうかなぁ……」


 回転寿司にはいろんなメニューがあるのだが、まさかブロッコリー巻きなんてものがあるとは……、うかつだったぜ。


 せっかく取ってもらったので、我慢して食うことにした。


 しばらく食事をしていると、唐突に愛菜が話を切り出す。


「ねぇ、結衣花さん。明日とか時間ある? 花火大会があるんだけど、一緒に行かない?」


 ここから少し離れた場所に大きな公園があるのだが、そこでは毎年お盆の頃に花火大会が開催される。

 屋台も数多く並ぶので、周辺の住民からとても人気のある祭りだった。


「うーん。どうしようかな……」


 結衣花は考えるそぶりを見せ、チラッと俺の方を見る。


「お兄さんはどうして欲しい?」


 え? なんで俺に聞くんだ?

 俺としては結衣花の意見を尊重したいから、『任せる』としか言いようがないんだが……。


 ここですかさず、愛菜からLINEが飛んできた。


『兄貴! ここは結衣花に来て欲しいって言うんだよ!』


 そう言った方がカッコイイというのはわかるが、それを言ってしまうとまるで俺が結衣花に気があるようじゃないか。


 愛菜は俺達の恋を応援しているつもりなのだろうが、社会人として女子高生に言うには抵抗があるセリフなのだ。


 すると結衣花が俺のスマホをチラリと見た後、じ~っとこちらを見ている。


 なんだよ、その目は……。

 まさかこの場面でも愛菜に合わせようって言いたいのか?

 こんなカッコつけたセリフ、言えるわけがないだろ。


 だが、結衣花は俺を見つめる。

 じ~っと見続ける。


 そのプレッシャーに根負けした俺は、折れることにした。


「お……俺は……結衣花に来て欲しい……」

「うんうん。素直なお兄さんはかわいいね」

「うるせぇ」

「花火大会、楽しみにしているね」


 結衣花はそう言って、満足気に微笑んだ。

 結局今日も結衣花の手のひらで踊らされてしまった。


 まぁ……。

 愛菜が嬉しそうにしているので、よしとするか。


 こうして、明日俺達は花火大会に行くことになった。



■――あとがき――■

☆評価・♡応援、いつも本当にありがとうございます。


次回、花火大会に向かう途中、電車の中で音水とばったり!?


投稿は、朝・夜の7時15分ごろ。

よろしくお願いします。(*’ワ’*)

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