8月8日(土曜日)バレちゃった


 コミケ二日目の午前中。

 ナンパ主任・張星が暴れたせいで、ザニー社のブースに人が来なくなった。


 その対策として、音水と楓坂にコスプレをすることになったのだが……。


「笹宮さん。今、着替えから戻りました」


 いち早くブースに戻ってきたのは後輩の音水だ。

 小柄でありながら、清潔感のある彼女にゴスロリメイド服はとても似合っている。


「笹宮さん、どうですか?」

「ああ、似合ってるよ」

「んっふふ~♪ 嬉しいです!」


 似合うとは思っていたが、めちゃんこ可愛いな。


 撮影をしておきたいが、今は仕事中。

 それは許されないことだ。

 実に惜しい……。


「そういえば楓坂は?」

「まだ着替えてましたよ。もうすぐ来ると思いますけど」


 メイド服を受け取った時は怒っていたが、ちゃんと着てくれるのか。

 あいつって尖ったところがあるけど、こういう時は素直だよな。


 楓坂のゴスロリメイド姿か……。

 想像できん。


 ピロリン♪


 音水のスマホにメッセージが届いたようだ。

 彼女は「あ!」と声を上げる。


「笹宮さん、すみません。紺野さんから連絡が入ったので、しばらくブースから離れてもいいでしょうか?」

「上司からの連絡なんだから当然だ。行ってこい」

「はい! すみません!」


 さすがにここで電話をするわけにはいかないので、音水は会場の外へ向かった。


 土曜日に連絡をしてきたということは、紺野さんも別の現場で仕事中なのだろう。

 キャンペーンイベントは八月が一番忙しいからな。


 もうすぐ楓坂も戻ってくるだろうし、それまでは一人でブースを回すことにしよう。


   ◆


 音水が離れてしばらくすると、一人の女子がブースにやってきた。


「おはよ。お兄さん」

「いらっしゃいませ……って、結衣花かよ。二日目も参加していたんだな」

「うん。とりあえずスマイルをメガ盛りで」

「残念だが、ここはファーストフード店ではない」


 結衣花がコミケに来ていることは知っていたが、まさか本当に会いに来るとは思わなかったぜ。


「っていうか、なんで来るんだよ。恥ずかしいだろ」

「だって、見たかったんだもん」


 まじまじと俺をみた結衣花は言う。


「お兄さんのユニフォーム姿、全然似合ってないね。ぷぷぷ」

「結衣花の棒読み笑いも、なれると愛嬌を感じるぜ」


 こういったイベントのユニフォームって、男性用は特に地味なんだよな。


 イケメン男子なら執事服を着てカッコよくキメることもできるのだろうが、残念ながら俺にそんな資格があるとは思えない。


 そういえば、結衣花はオタク友達と一緒に来ているんだったよな。

 ということは友達もいるのか?


 そう考えて辺りを見回してみるが、それらしき人はいない。

 おそらく別行動しているのだろう。


「友達はどうした?」

「他の人達はコスプレブースにいるよ」

「ほぉ。……結衣花もコスプレするのか?」

「もしかしてみたいの?」

「見せてくれるのか?」

「ううん。聞いてみただけ」


 なんだよ、期待させるだけとかひどいじゃないか。


 でも結衣花に似合うコスプレってなんだろうな……。

 魔法少女? 巫女? 最近ならファンタジー系で女騎士というのもアリか。


 ……コスプレ?

 ……あれ?

 俺、大変なことを忘れていないか?


 何を忘れているのかと考えを巡らそうとした時、ゴスロリメイド服に着替えた楓坂が戻ってきた。


「ふぅ……着替え、終わりまし……んんんんん~っ!? 結衣花さん!?」

「……え? 楓坂さん?」


 あーっ!!

 楓坂のこと忘れてたーっ!!


 うっかりしていたぜ。


 楓坂はコミケに参加していることを結衣花に黙っていた。

 おおかた、頑張ってる姿を見られるのが恥ずかしかったのだろう。

 俺も同じような所があるので気持ちはわかる。


 楓坂は結衣花が突然現れたためオロオロしている。

 普段の自信満々な態度はどこ吹く風だ。


 ここは助け舟を出した方が良さそうだな。


「実は急にスタッフが抜けてしまって、さっき偶然会った楓坂に頼み込んだんだ。そう、偶然なんだ。偶然なんだよ」

「そうだったんだ」


 もちろんウソではあるが、これで楓坂のメンツは保たれるだろう。

 結衣花もどうやら納得している様子だ。


 まさかここでフォロー力を強化していたことが役に立つとは思わなかったぜ。


 すると楓坂からLINEが届く。


『エクセレントですよ、笹宮さん!』

『フォローするから普段通りの行動をしろよ。不自然なことを言ったらバレるからな』

『わかってるわ』


 深呼吸をした楓坂は女神スマイルを作り、いつもの上品な口調で結衣花に言う。


「とってもいい青空ですね。太陽がまぶしいわ」

「会場の中だから空は見えないよ?」


 すかさず俺はLINEを楓坂に送った。


『おまえ、速攻でなにボロを出してんだよ!』

『しかたないでしょ! セリフが思いつかなかったのよ!』



■――あとがき――■

☆評価・♡応援、いつもありがとうございます!


次回、音水が笹宮の手を握って大胆な質問を!?


投稿は、朝・夜の7時15分ごろ。

よろしくお願いします。(*'ワ'*)

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