8月5日(水曜日)楓坂の告白?


 夕方。

 ザニー社で打ち合わせを終えた俺は、帰る途中の楓坂に声を掛けた。


「おい、楓坂」

「……えっ!? ……えっと!? ……はい。なんでしょう……か」


 楓坂は俺を見るなり不自然な驚き方をし、その後は徐々に声が小さくなっていく。

 視線もこっちに向けてくれないし、やはりまだ機嫌は直っていないようだ。


「ちょっと話がしたいんだが喫茶店に行かないか?」

「……ええ」


   ◆


 喫茶店で向かい合って座ったが、やはり楓坂はこちらを見てくれない。


 しかし、こうして誘うと来てくれるということは、修復不可能というほど嫌われていないということか。


 関係を修復するなら今しかない。

 俺の『とっておきのネタ』で心を開いてやる。


 気合を入れた俺は、パリピキャラのモノマネをした。


「う……うえーい」


 そんな俺に、楓坂は冷たい視線を送る。


「……。それ、なんですか?」

「いや、別に……。なんでもありません」


 完全に外してしまった俺は、その場で小さく縮こまった。

 一発芸を外すのって軽いトラウマになるよな。

 ……つらい。


「ふ……。ふふふっ」


 途方にくれていた時、楓坂が突然笑い出した。


 うえーいネタが遅効性で効果を発揮したのか?

 いや、それにしては笑い方がナチュラルだ。


「どうして急に笑い出すんだよ」

「ごめんなさい。あなたの困っている顔を見ていると面白くて」

「ストレートに失礼なやつだな」


 だがこうして笑ってくれると安心する。

 心なしか、楓坂も話しやすそうだ。

 今なら、普通に会話をすることができるだろう。


「なあ、楓坂。最近どうして話をしてくれないんだ?」


 すると楓坂は苦笑いをしてみせた。 


「この前、張星さんのちょっかいから守ってくれたでしょ? 私……、誰かに守られたのって初めてだから戸惑っていたの」


 張星というのは二日前の打ち合わせで、楓坂をナンパしたチャラい主任のことだ。

 俺は守ったという意識はないのだが、彼女はそのように受け止めたらしい。


 とにかく、仲直りできてよかった。


「楓坂がいつも通りじゃないと、俺の調子がでないだろ。……頼むぜ」

「……私の状態で……調子が変わるんですか?」

「まぁな。いちおう今は相棒だろ」


 すると楓坂は女神スマイルで両手の指を合わせる。


「それでは、全裸で……」

「全裸で側転をしながら、すれ違う人々にキモく笑うようなことはしないからな」

「うふふ。私のセンスがわかってくれて、すごくすごく嬉しいわ」

「俺は恐怖を感じるよ」


 たまらず俺はため息をついた。

 調子がもどってきた途端にこれだもんな。

 たまったもんじゃないぜ。


 楓坂はというと頬杖をして、俺の方を見つめてきた。

 わずかだが、嬉しそうに微笑んでいる。


 そんなふうに見られると恥ずかしいんだけど……。


「……なんだよ」

「見てるだけですよ」

「恥ずかしいんだが?」

「そんなところが好きよ」

「マジで照れるから、そういう言い方やめてくれ」

「すーきっ」

「あのなぁ……」


 落ち着かない気持ちを抑えるため、俺はアイスコーヒーをゴクゴクと飲んだ。

 楓坂の方を見ると、やはりこちらを見ている。


 悪役キャラを演じたり、ちょっとしたことで恥ずかしがったり、かと思えば意味深な言葉でからかってきたり……。

 楓坂って本当に掴みどころがないぜ。


「ちょっとだけ、本音を話していいかしら?」

「俺は一般人で変態ではないぞ?」

「うふふっ、御冗談を」

「普通のことだが?」


 楓坂は手元にあった紅茶を混ぜて、静かに話を始める。


「七夕キャンペーンのプレゼンのこと、覚えていますか?」

「……ああ。楓坂が助け舟を出してくれた時だろ」


 七夕キャンペーンのプレゼンと言えば、音水がカエル顔の部長の嫌がらせを受けた時の話だ。

 六月中旬の出来事だが、今もはっきり覚えている。


「バカ正直に人を助けようとするあなたを見て、ちょっとだけ憧れたわ。……私はずる賢いやり方しか思いつかないから」

「それは……評価されてるのか?」

「言っておきますが行動に対してであって、人間としては見下していますよ」

「さらっとひどいことを言いやがる……」


 あの出来事をそんなふうに思っていたのは意外だが、とにかく普段の楓坂に戻ってくれてよかったぜ。

 ……って、いじられて安心するのはおかしいよな。


 もちろん俺は変態ではない……。うん、絶対にそうではない……はず……。


「笹宮さん」

「ん?」

「すーきっ」

「だから、そうやってからかうのはやめてくれ」

「うふふ」


 やれやれ。

 元に戻ったら戻ったで、心配はなくなりそうにない。


 だが、これでコミケに万全の体勢で臨むことができる。



■――あとがき――■

☆評価・♡応援、ありがとうございます!

皆さんから頂いた元気を糧に執筆をがんばります!!


次回、結衣花が男子から告白される!?


投稿は、朝・夜の7時15分ごろ。

よろしくお願いします。(*'ワ'*)

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