8月6日(木曜日)告白された結衣花


 コミケ前日。

 俺は電車の中で、毎朝の日課である音水からのLINEに返事を送っていた。


『笹宮さん、おはようございます!』

『おはよう。今日はビッグサイトに行くから準備しておけよ』

『はいっ!』


 今日は企業ブースの設営状況を確認に行く日だ。

 音水にとってビッグサイトの仕事は初めてなので、緊張している様子が伝わってくる。


 おっと、また音水からLINEがきた。


『笹宮さんはコミケに参加したことがあるんですか?』

『来場者としてならあるぜ。妹がコスプレを見たいっていうから、一度だけ連れて行ったことがある』

『妹さん想いなんですね』

『心配なだけだ』


 とはいえ、中学になってからは一層おてんばになって困る。

 以前実家に帰った時、すっかり今風の女子中学生になっていてビビったぜ。

 変な方向にマセなければいいんだが……。


 スマホをカバンに入れた時、いつもの女子高生がやってきた。


「おはよ。お兄さん」

「よぉ。結衣花」


 今日も結衣花は制服なので部活の朝練なのだろう。

 CG部も大変だな。


 そうだ。楓坂と仲直りしたことを報告しておこう。

 今回も結衣花に助けてもらったわけだしな。


「研修生が話をしてくれなかった件だが、うまく解決したぜ」

「笑ってくれたの?」

「ああ。ネタは外したが、俺の困っている顔がおもしろかったんだとよ」

「その人、わかってるね」

「まさかの同意か」


 楓坂にしろ結衣花にしろ、どうしてこうも俺の困った表情を喜ぶのだ。

 聖女学院の校風なのか?


「とにかく、これで仕事は順調に進みそうだ」

「よかったね」


 すると結衣花は別の話を切り出してきた。


「そういえば、さっきLINEしてたけど後輩さん?」

「ああ。業務連絡だ」

「ほうほう。いちゃラブの業務内容なんだね。わかるよ」


 ……こいつ、たまにオッサンみたいな言い回しを使いやがる。

 もっと女子高生らしいさわやかなトークとかできないのか。


 と、ここで俺はある疑問を訊ねることにした。


「つーか、前から気になってたんだけど、結衣花って彼氏とかいないのか?」


 彼女の交友関係について詳しく聞いたことはないが、比較的コミュ力は高い方だ。

 しかも美少女で胸も大きい。

 同学年の男子なら放っておくことはないだろう。


 すると彼女は驚きの内容を明かした。


「この前、他校の人から告白されたかな」

「え!? マジで!!」


 わりとガチで驚いた。


 いや、驚くだろ。

 だって毎日会っている子が告白されたんだぜ。


 おそるおそる、俺は相手の男について訊ねることにした。


「……どんな男なんだ?」

「うーん。そこそこイケメンだったかな」

「へ……へぇ……」

「元気出して」

「俺の顔がダメみたいに言うなよ」


 そりゃあ、まぁさ。

 自分の顔がイケメンとは思ってないが、そんなふうに言われるとへこむだろ。


「それで性格は?」

「優しい人だったよ。ずっと笑顔でいるようなかんじ」

「そうなのか……」

「元気出して」

「まるで俺が無愛想みたいに言うなよ」

「いつもそうでしょ?」

「そうでした」


 しかし話を聞く限り、相手の男はかなりいい奴のようだ。

 顔が良くて性格も優しいとか反則だろ。


 はぁ……。結衣花に男かぁ……。

 いてもおかしくはないと思っていたが、こうして直接聞くとショックを受けるぜ。


 普段の結衣花は淡々としているが、きっと彼氏の前だとキラキラした表情で話すんだろうな。


 俺がどうこう言う立場じゃないけど、なんか面白くない……。


「じゃあ、結衣花はそいつと付き合ってるってわけか」

「ううん。断った」

「え! なんで?」

「なんでだと思う?」

「わからん」

「うん。お兄さんだもんね」


 まるで俺が特殊な生物であるかのように納得する結衣花。

 ここで告白を断った理由がわからないのは、そんなに特殊なのだろうか。


「しかし、条件なら完璧だろ」

「別に相手の人がイヤとかじゃなかったけど、今じゃないかなと思って……」

「そういうものなのか」

「私にもいろいろあるんだよ」


 やっぱり言い回しが女子高生らしくない。

 いろいろってなんだよ。


 すると結衣花は「そうそう」と言って、視線を俺に向ける。


「私、明日は朝一で友達と遊びに行くんだ。だから会えないけど心配しないでね」


 明日といえば、コミケ開催日か。

 俺も現場直行なので、どっちにしても会えないんだよな。


 結衣花の友達か……。

 どんな子なんだろうな。


 告白されたと聞いた直後なので、男もいるのだろうかと勘繰ってしまう。


 そんなことを考えていた時、結衣花がふいに言った。


「ちなみに、全員女子だよ」

「そうか」

「安心した?」

「ふっ……。別に心配なんてしてないさ」

「本音を聞きたいな」

「わずかばかり安心している」



■――あとがき――■

いつも読んで頂き、ありがとうございます。

☆評価・♡応援、とても励みになっています。


次回、コミケの設営現場へ!

そこで音水がとんでもない提案を!?


投稿は、朝・夜の7時15分ごろ。

よろしくお願いします。(*'ワ'*)

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