6月27日(土曜日)結衣花のアドバイス


「すまん、結衣花。ちょっと、話があるんだが……」

「雑談?」

「相談だ」

「聞きましょう」


 もしかすると、音水は告白をするかもしれない。

 だが、出張中の社内恋愛はさすがに問題になる。


 どうしていいかわからない俺は、電話中の結衣花に相談することにした。


 とはいえ、いきなりストレートに聞くわけにもいかない。

 ここはオブラートに包んで相談するのがベストだろう。


「知り合いの男の話なんだが……」

「その前置きはいいから、さっさと本題に入って」

「はい」


 なぜか怒られた。


 っていうか、なんで俺の立場って女子高生より下なんだよ。

 相談している以上、致し方ないところもあるのだが。


「隠しても仕方がないので正直に言うが」

「隠れてなかったけどね」

「あくまで可能性の話なんだが……。もしかすると後輩が俺のことを好きなのかもしれん」


 よく結衣花はからかっていたが、それはあくまでジョーク。

 おそらくこの衝撃の可能性に驚いているだろう。


 無理もない。

 俺もついさっき気づいたばかりなんだからな。


 結衣花は答える。


「……。いまさら、なに言ってるの?」

「そんなあきれたように言わないでくれ。せつないじゃないか」


 なぜなのかはわからないが、結衣花は気づいていたようだ。


 最近の女子高生ってハイスペックすぎないか?

 普通の男は、とてもじゃないが気づけないぜ。


「で、ここからが本題なんだが……」

「ほうほう」

「もうすぐ後輩がこの部屋にくるんだ」

「ふむふむ」

「もしかしたら……、告白されるかもしれん」


 すると結衣花は、


「やっちゃえ、お兄さん」

「車のCMみたいに言うな」


 真剣に話しているんだが、結衣花の反応はいつもどおりだった。

 一通りの話を聞いた結衣花は、大きくため息をつく。


「つまり告白されたらどうしようってことでしょ?」

「端的にいえばそうだ」

「これがヘタレ男という生物なんだね。うんうん。勉強になるなぁ」

「汚名はあとで返上する」

「返却期限は三秒前に過ぎました」


 あきれられるのは当然のことだ。

 普通の男であれば、このまま流れに身を任せて、適切な対応ができるのだろう。


 しかし今まで無愛想主義をしてきた俺には、とてつもなく大きな壁なのだ。


「お兄さんも後輩さんのことを大切にしてるじゃない。もうオーケーしちゃったら?」

「そう簡単な話じゃないんだ。社内恋愛って女性側の方がいろいろ言われるんだよ。場合によっては仕事にも影響が出る」

「そうなの?」

「会社によっても違うが、うちの会社は古いから特にその傾向が強いんだ」

「ふぅん。いちおう後輩さんのために悩んでるんだ」


 どうやら結衣花は、俺が音水のことを優先して考えていることを感心しているようだ。


 俺としては当たり前のことなのだが、彼女にとっては意外なことだったのかもしれない。


「わかった。真面目に相談に乗ってあげる」

「頼りになる」

「お兄さんといると、人生経験に困らないよ」


 気を取り直すように、結衣花は「こほん」と咳払いをした。


「結局さ。どちらにしても、誠実に話を聞いてあげることじゃないかな」

「たしかに……そうだな」

「途中ではぐらかすとか、ダメだからね。後輩さんをよけい傷つけちゃうよ」

「なるほど」

「あとは自信を持つことかな。それでお兄さんが正しいと思う選択をすればいいんじゃない?」


 正直、ここまでちゃんとアドバイスをくれるとは思わなかったので、驚いてしまった。


 結衣花って確か高校二年生だよな。

 たいしたものだ。


「女子高生なのに、しっかりしてるな」

「たぶん私は普通の方だと思うよ」

「そうか?」

「お兄さんは……、うん。言わなくてもいいよね」

「今、ひどいことを考えただろ」


 大人が女子高生にアドバイスを求めるのはおかしな話だが、結衣花と話していると自分らしさが戻ってくる。


 毎日何気ないやりとりをしているうちに、俺はここまで結衣花のことを信頼するようになっていたんだな。


「ふっ……。結衣花に自信を持てと言われると、その気になってしまうんだから不思議だぜ」

「でしょ」

「できる限りやってみるよ。ありがとう」

「うん。頑張って」


 こうして話を終えようとした時だった。


「ねぇ……」


 結衣花が呼び止めた。


「なんだ?」

「もし私が告白するって言い出したらどうする?」

「するのか?」

「しないけどさ。聞いてみただけ」


 なんだそれ。

 仮定の話なんて、結衣花にしてはめずらしいことだ。


「どうするもなにも、俺が女子高生に手を出したらガチで問題だからな」

「そうだよね。わかってる」


 フラットなトーンだったが、少し落ち込んでいるようにも聞こえた。


 もしかして、自分に魅力がないと思ってしまったのだろうか。

 そういうつもりはなかったんだが……。


「まぁ……、あれだ」

「なに?」

「今一番信頼しているのは誰かと聞かれれば、結衣花かもしれん」


 しばらく結衣花は黙っていたが、電話の向こうで微笑んだような気がした。


「じゃあね、お兄さん。健闘を祈ってるよ」

「ああ」


 スマホをテーブルの上に置いて時計を見ると、時刻はすでに夜の八時半を過ぎている。


 ――コンコン。


 ドアをノックする音がした。



■――あとがき――■

いつも読んで頂き、本当にありがとうございます。


次回、音水が大胆な行動に!?


投稿は、朝・夜の7時15分ごろです。

よろしくお願いします。(*'ワ'*)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る