6月27日(土曜日)音水の告白(前編)
「おじゃまします」
ドアをノックして入ってきたのは、浴衣姿の音水だった。
昨日も思ったが、音水の湯上りは色っぽい。
「好きな所に座っていいぞ」
「じゃあ、ベッドの上で」
「こら」
「えへへっ。冗談です」
音水を部屋の中に入れた俺は、備え付けの冷蔵庫を開いた。
さすがに酒を飲ませるわけにはいかないので、炭酸水の入ったペットボトルを手に取る。
しゅわ~という音と共にグラスへ注ぎ、音水に差し出した。
「酔い覚ましの炭酸水っていいよな」
「んっふふ~♪ お酒に強い私もそう思います」
「ふっ。よく言うぜ」
さて……。
俺の予想が正しければ、音水は告白を切り出してくるはずだ。
どうすればいいか結論は出ていないが、まずは誠実に話を聞こう。
まずはそこからだ。
少し雑談を挟んだ後、音水は不思議な表情で訊ねてきた。
「部屋にいる時の笹宮さんって、なんだか自然体ですよね」
「出張も今日で終わりだから気が抜けているのかもな」
「それもあるかもしれませんけど、いつもは私にも警戒しているところがあるじゃないですか。それが今は全然ないので」
警戒? ……俺が、音水を?
彼女がそんなふうに思っていたというのは、意外なことだった。
別に警戒していたわけじゃなかったんだが。
というよりも、今は結衣花と話をした後なのでリラックスできているのかもしれない。
ここはちょっとジョークを入れて、会話を弾ませてやるか。
「俺が音水を警戒しているのは、またスマホで撮影されないようにするためだろうな」
以前音水は、俺がにやけた瞬間を狙って撮影をしたことがあった。
もちろん削除しようとしたが、音水はスマホを隠すという子供っぽい行動を取ったことがある。
すると音水はプーッとふくれっ面を作った。
「もうっ! まだ根に持ってるんですか」
「ふっ……。消してくれたんだから、別に気にしてないよ」
すると音水はきょとんとした顔をする。
「え?」
「え? 消したって言ったよな?」
「えっと……。……はい。……消しまし……た」
目を泳がせた音水は、静かに口をグラスにつけた。
「さてはまだ消してないな。スマホを出せ」
「ダメですよぉ。女子のスマホを見るなんてセクハラです」
「肖像権を守るためだ」
「私に譲渡してください」
「なんでだよ」
俺が席から立ちあがって手を伸ばすと、音水はスマホを隠そうとする。
「だ~めぇ~。これは私のコレクションなんですぅ~」
「あ! てめぇ! やっぱり消してないな!」
と、ここで音水は足を滑らせて俺の方へ倒れた。
とっさの判断で、俺は音水を抱きしめてしまう。
「ふほぁわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「すまん! すぐに離れる!」
「ダメです!!」
「なんで!?」
音水は真剣な目で言う。
「こ……腰が抜けました!!」
「マジか!!」
「マジじゃないですけど、マジです!!」
なぜこんなことで腰が抜けたのか意味不明だが、そうだとするとこのままというわけにもいかん。
なにより浴衣姿の音水を抱きしめるなんて、俺の理性がヤバい。
「とりあえず、ベッドで横になった方がいいよな」
「はい! ベッドがいいです!」
うまく立てない音水をベッドに運び、横にしてやる。
足を移動させてやる時は、結構はずかしかった。
しょうがねえじゃん。
男なんだもん。
「大丈夫か?」
腰が抜けるという体験をしたことはないが、痛いのだろうか?
それともクラクラがするのだろうか?
どちらにしても、今はゆっくりさせた方がいいだろう。
……その時、音水が俺の手を握った。
「さ……笹宮さん。あの……、お話したいことが……」
こ……これは……。
まさか、このタイミングで告白されるのか!?
ベッドに横たわる女性と手を握るというのは、予想以上にムードがある。
ヤバい……。
誠実さ以前に、俺の冷静さがまったく保てない……。
混乱する俺は、必死に本来の自分を取り戻そうと意識を集中した。
しかし事故とはいえ、浴衣姿の音水を抱きしめた後なのだ。
これで心を乱さない男がいるはずがない。
だが、ハプニングはまだ終わっていなかった。
……コンコン。
ドアをノックする音とともに、知っている女性の声が聞こえた。
「楓坂です。暇なので遊びにきました。さっさと開けてください」
か……、楓坂だと!?
なんちゅうタイミングで現れるんだ!!
さすがにベッドの上にいる音水を見られるのはまずい。
しかし楓坂を放置すると、勝手に入ってくるかもしれない。
あいつはそういうやつだ。
ヤバい状況になってしまった!
■――あとがき――■
☆評価・♡応援、いつもありがとうございます。
とても元気を頂いております。
次回、音水の告白の行方は!?
投稿は、朝・夜の7時15分ごろです。
よろしくお願いします。(*'ワ'*)
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