6月27日(土曜日)もしかして、告白?


 居酒屋で酔いつぶれた音水を介抱し、俺はホテルに戻ってきた。


「ほら、音水。ホテルに着いたぞ」


 ホテルのロビーに到着したので肩を貸していた音水に声を掛けると、彼女は「ん……」と可愛らしい声をもらした。


 涼しい夜風のおかげなのか、さっきまで赤かった彼女の顔はいつも通りに戻っている。


 だが音水は俺の腕を離そうとしなかった。


「もうちょっと、こうしていたいなぁ」

「あのな。酔っていたから介抱したが、本当なら男の俺にこうして掴まるのは良くないことなんだぞ」

「私、酔ってますよ」

「さっきは酔ってないって言ってただろ」


 だがこのままではさすがに心配だ。

 部屋まではついて行ってやるか。


 フロントで鍵を受け取った俺達はエレベーターに乗り、音水の部屋がある九階のボタンを押す。


 エレベーターのドアがゆっくりと閉まり、俺達は狭い空間で二人っきりになった。


 肩を貸しているため音水と密着しているのだが、これがなかなかに気まずい。


 なにか喋った方がいいかな。

 黙ってると変なことを考えていると思われかねないし……。


 いや、そんなことを考える方がおかしいのか?


「あ! あの! さ……! ささささみやさん!!」


 急に音水が叫んだ。

 だが、酔っぱらっているのとは違う妙な反応だ。


「俺の名前にしては、『さ』が多くないか?」

「すみません! 緊張して間違えました!」


 なんでいきなり緊張するんだよ。

 俺の服を思いっきりにぎりしめてるし、どうしたんだ?


「あの! あのですね!」

「おう」

「実は、これから! さささささみやさんの部屋にお伺いしたくてですね!!」

「なんで?」

「そ……その! このチャンスにどうしても、さささささささみやさんに伝えたい想いがあると言いましょうか!」

「『さ』……、多すぎない?」


 よくわからんが、俺の部屋に来たいらしい。

 もう酒は飲ませられないが、水を飲みながら話をするくらいならいいだろう。


 どうせ、まだ夜の八時だ。

 寝るには早い。


「ああ、いいぞ」

「あざっす!!」

「なんで体育会系なんだ……」


 エレベーターが九階に止まり、ドアが開く。

 すると音水は俺から離れた。


「で……では! お風呂に入って、いろいろ準備してきます!! です!!」

「え? このまま俺の部屋に来るんじゃないのか?」

「その! やっぱり初めてなので、ちょっとアレな感じで!!」

「はぁ???」


 さっきから、なんなんだ?

 全然、意味がわからんぞ。


 エレベーターを出た音水は駆け足で自分の部屋に向かった。


 さっきまで酔っぱらってたのに、なんで急にシャキッとしたんだ?


   ◆


 部屋に戻った俺は、音水が来るのを待っていた。


「しかし、なんであんなに緊張をしていたんだ?」


 そんなことを考えていた時、俺のスマホに着信が入った。


 ピロリン♪ ピロリン♪


 おっと、電話だ。

 こんな時間に誰だ……っと思ったら結衣花か。


 通話ボタンを押して、俺は電話に出る。


「こんばんは。お兄さん」

「よぉ、結衣花。どうしたんだ?」

「なにもないけど、電話してみた」

「どんだけマイペースなんだよ」


 だがそれほど悪い気はしない。

 用もないのに電話をしてくれるということは、それだけ気を許してくれているということだ。


 ったく。

 普段はからかってくるばかりのくせに、本当は俺になついてるんだな。

 愛いやつめ。


「お兄さんは、何してたの?」

「部屋でのんびりしている」

「あ、ごめん。エッチなことしてたんだね」

「してねーよ」

「これから?」

「するか」


 うぬぅ……。

 ちょっと気を許すとこれだ。


 こいつは俺をからかわないといけない呪いにでもかかっているのか。


 これから音水が来るのに、エッチとかいうなよ。

 意識してしまうじゃないか。


 ……と、ここで俺は変なことに気づいてしまった。


 それは音水のことだ。


 急に緊張して、『想いを伝える』とか『初めての準備』とか、これってなんか好きな人に告白する時の状況と似てないか?


 いや……、だが、しかし、だとしても、ならば……、そうだとすると!!


 もしかして……これは、恋愛フラグってやつなのか!?


 しかしいつも元気いっぱいの音水だぞ。

 いままでそんな素振りを見せたことは……。


 ……。


 あったような気もする……。


 じゃあ、音水がいう『伝えたい事』っていうは――告白ということか!?


 しかし、俺は教育係で音水は後輩だ。

 出張中に社内恋愛してましたなんて、さすがこれは問題だ。


 せめて教育期間が終わってからなら……って、そういう話じゃない!


 考え込む俺に、結衣花が訊ねてくる。


「急に黙ってどうしたの?」

「すまん、結衣花。ちょっと、話があるんだが……」

「世間話?」

「相談だ」

「聞きましょう」



■――あとがき――■

☆評価・フォロー、いつもありがとうございます!

モチベがぐんぐん上がっています。


次回、女子高生の恋愛アドバイスとは!?

結衣花トークが光ります!


投稿は、朝・夜の7時15分ごろです。

よろしくお願いします。(*'ワ'*)

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