6月16日(火曜日)朝の電車


 翌日の朝。

 電車に乗っていると、いつものように結衣花が話しかけてきた。


「おはよ。お兄さん」

「よぉ。結衣花」


 昨日出会った巨乳サイコパスの楓坂がいないかと周囲を警戒したが、どうやらいないようだ。

 そりゃ、あいつだって年がら年中、俺に付きまとうようなことはしないだろう。


「あれ? またなにか心配でもあるの?」

「お……、おう……。よくわかったな」

「うん。辛気臭い顔が、うさんくさい顔になってたからすぐにわかったよ」

「結衣花さん。優しさって言葉、知ってますか?」


 しかし、これはいい機会じゃないか。

 結衣花に楓坂のことを相談すれば、簡単に解決できるかもしれない。

 どうやら楓坂は結衣花のために動いているみたいだからな。


 ……いや。いやいやいや。

 それはやめておいた方がいい。


 経験上、楓坂のようなやつは周囲を抱き込むのが上手い。

 中途半端にちょっかいを出すと、俺が悪者にされてしまう。

 今は相手の出方を待つのが得策か。


 とりあえず、当たり障りのないことを話しておこう。


「後輩の教育期間が六月いっぱいなんだ。あと半月でどこまでできるかと思ってな」

「えー。半月で自宅に連れ込むつもりなの。さすがにちょっと早くない?」

「ちょっと待て」

「どこで待つの」

「そうじゃねえよ。なんでナチュラルに俺が後輩を連れ込む話になってんだ」

「お兄さんが後輩さんとエッチしたいって、いつも連呼してるから」

「一言も言った覚えはない」


 そうだ。そうでした。

 楓坂だけでなく、結衣花もこういう性格だった。

 助けてもらうことが多いから気を許していたが、結衣花も油断してはいけない女子高生なんだ。


 しかも淡々としゃべってるから、他人からだと結衣花が本当のことを言っているように見えてしまう。


 反論しようとしたが、結衣花はそれよりも先に話を切り替えてきた。


「で……、半月以内に後輩さんに活躍させたいってわけ?」

「……わかってて、おちょくってたのか」

「私って話のわかる女だから」

「わかってんなら、もう少しからかうのをやめて欲しいんだが……」

「それはつまんないから却下」


 それからしばらく、俺は結衣花と雑談をしていた。


 結衣花は嫌がっていたが、こいつのコミュ力のすごい所は相手からは話を引き出すところだろう。

 特に話すつもりはなくても、結衣花といるだけで話題が途切れない。


 もっとも、常に上から目線なのが気に入らないが……。


 そんな時だった。

 俺のスマホが着信のバイブで震える。


「なんだ?」


 音水にはさっきLINEを送っておいたはず。

 家族がこの時間に連絡してくることは、まずないだろう。

 もしかして至急の業務連絡か?


 だが、届いていたメッセージは巨乳サイコパス女の楓坂からだった。


 ……うっわ。マジかよ。

 もう嫌な予感しかしない。


 だが無視すると、あとが怖い。

 とりあえず開いてみるか。


 しぶしぶメッセージを開いてみると、とんでもない画像が添付されていた。


 それはワイシャツ姿の楓坂がシャツのボタンを外し、胸の谷間をアップにした画像が添付されていたのだ。


「ひぃ!」


 思わず声を上げてしまった俺に、結衣花は首を傾げる。


「どうしたの?」

「い……いや……、たいしたことは……」

「あったんだ」


 続けてスマホにメッセージが届いた。


『楓坂です。笹宮さんのために私の写真を送ってみました。待ち受け画面にして頂ければ幸いです』


 アホか、この女!

 こんな画像を他の奴みられたらどうするんだ。


 さらにメッセージには続きがあった。


『ちなみにさっきの画像が他の人にバレると笹宮さんの人生が終了しちゃうかも。とってもとっても、とーっても楽しみで心配っ♡♡♡♡』


 楓坂のやつ、結衣花と話しているタイミングを狙って画像を送ってきやがったな。


 昨日の今日で嫌がらせをしてきた楓坂に怒りを覚えたが、今はなにもできない。


 そんな事とはつゆ知らず、結衣花がスマホを覗き込もうと背伸びをしていた。

 もちろん見られると大変なので慌てて隠す。


「ねえ、どんな内容なの?」

「えーっとだな。そう、これはアレだ」

「どれ?」

「友達が……、も……桃を見せたかったみたいだ」


 とっさに言葉が見つからず、胸の谷間のことを桃と例えてしまった。

 我ながら最悪のセンスだ。


 だが結衣花は指摘する。


「六月はまだ旬じゃないでしょ?」

「そ……、早熟の品種なんだ」

「そっか。食べごろなんだね」


 そこまで言って、俺は女子高生に何を言わせているのかと頭を抱えた。


「……。すまん」

「なんで謝るの?」



■――あとがき――■

いつも読んで頂き、ありがとうございます。(*’ワ’*)


次回、音水がピンチ! その時、笹宮が!?

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