サイドストーリー:ほのか合コンに行く?(2)

「ちょっと花ちゃん。あたしと金崎かねさき君をくっつけようとしてるでしょー もしかして初めっからそれが目的?」


 あたしはトイレの洗面台の前で、メイク直しをしている花ちゃんを問い詰めた。


「あ、違うよほのか。それは信じてよ。金崎君がほのかをちらちら見てるし、ほのかを気に入ってるみたいだなぁって思ってたんだ。そしたら杉山君があんなこと言うからさぁ」

「あんなこと?」

「金崎君はこの前別れたばっかだから、どっかにいい子いないかなってこと」

「ああ、そっか」

「だから杉山君は、金崎君のことをフォローしたいんだなって思って……」


 なるほど。

 愛しの杉山君の望みを手助けして、自分の株を上げようとしたんだねぇ花ちゃんは。


「あたしを売ったな、花ちゃん」


 ジト目で睨んでやったら、花ちゃんは焦って両手を横に振った。


「違うって違うって。私、そんなつもりじゃないよ。金崎君ってかなりのハイスペックだし、ほのかも喜ぶかなって思ったから……」


 慌てて泣きそうな顔になってる。

 うんうん。花ちゃんがそんな嫌な女じゃないことはわかってるぞよ。


「冗談だよ花ちゃん。でもさ花ちゃん。あたし、金崎君ってなんかちょっと引っかかるのよねぇ……」

「引っかかる……?」

「そそ。引っかかる」

「なにが?」

「金崎君って一見優しい感じだけどさ。それは表面だけで、ほんとは全然優しくないんじゃないかな。だってあれだけの高スペックなのに、『優しさだけが取り柄』なんて口にするのは、かえって怪しくない? 俺はすげぇんだぞって気持ちの現れ」

「そうかなぁ? ちょっとチャラいとこはあるけどね。逆にそれはあえてそうしてるんであって、根は優しい人なんだと思うけどなぁ。杉山君もそう言ってたし」

「そっかなぁ?」

「そうだよ。ほのかは他人を悪く見過ぎじゃないの?」


 確かにそれはあるかもしんない。

 あたしは今まで、見た目は良くて一見性格も良さそうだけど、付き合ってみるととんでもないって男を何人も体験してる。だから疑い深くなってるのかも。


 それに比べて花ちゃんは今まで男運に恵まれてたのか、素直に育ってるもんなぁ。


「ねえほのか。そんなふうに男の人を見てたら、この先ずっと彼氏はできないよ?」


 ──ギクっ。


 ギクギクギクぅぅぅっっっ!!


 それを言わないでぇ!

 そんな天真爛漫な瞳で、そんな怖いことを言わないでよぉ!


 それはあたし自身も、もしかしたらって思い始めてるとこなんだからぁ……


「そっ……そっかな」

「うん。だからそんな歪んだ目で金崎君を見ないで、もうちょっと素直な目で見てみようよ」

「あ、うん。そだね」


 そうかもしれないなぁ。

 もうちょっと素直な目で見たら、案外金崎君って良い人なのかも。

 もしもそうなら、彼はあたしを気に入ってくれてるみたいだし。


 この出会いが、もしかしたらもしかするなんてことも……

 可能性はゼロじゃないのかな。


 ──なんてことを思ったら、ふと頭にひらりんの顔が浮かんだ。


 なんでここでひらりん!?

 確かにひらりんはいいヤツだし、まあまあイケてなくもないかなって最近は思ってるけど。


 だけど彼氏とかそんな対象じゃないし。

 いや、対象じゃないよね?

 あれ? 対象になり得る?


 ああっ、もうっ。

 酔ってるせいか、考えがまとまらない。

 よくわかんなくなってくる。


「じゃあ席に戻ろっか」


 あ、自分の世界に入ってしまってた。

 花ちゃんの声で我に返る。

 どうやら入念なメイク直しが完了したみたい。


「うん」


 席に戻ったら、また杉山君と金崎君の楽しいトークが始まった。

 さっきの花ちゃんとの話のせいで、ついつい金崎君の顔を見てしまう。


 うーん、やっぱイケメンだなぁ。

 あたしはイケメン大好きだからなぁ。

 見てる分には気持ちいい。


 だけど──


 さっき花ちゃんに言ったような違和感だけは、結局拭い去ることができないまま、食事会はお開きを迎えた。



***


 テーブルに届けられた会計金額を聞くと、なんと一人一万円!

 まあ美味しかったし、高級なフランス料理だから仕方ないか。


 バッグから財布を出したら、花ちゃんが小声で「今日はいいよ」って言った。


「まさかこんな高額な食事代、ご馳走になる訳にもいかないでしょ」

「杉山君が私の分、金崎君がほのかの分を出してくれるって」


 そりゃあ花ちゃん。あなたはいいでしょ。

 お目当ての杉山君がこんな高額な食事代を出してくれるなんて。

 そりゃもう、充分脈ありってことだから。


 素直にご馳走になっておいて、あとでまたお返しとか言ってプレゼントを渡す。

 それが二人の仲を近づける、ど定番のやり方だからさ。


 でもあたしは困る。

 初対面の金崎君に出してもらう筋合いはないでしょ。


 テーブルでごちゃごちゃ花ちゃんと言い合ってたら、男性二人が立ち上がって「そろそろ出ようよ」と言った。


 んもう。仕方ない。

 店の中でごちゃごちゃするのもなんだし、店を出てから金崎君に一万円札を渡そう。


 そう思って席を立った。

 ところが、またトイレに行きたくなってきた。


「花ちゃん。あたしトイレ行ってくる」

「うん。じゃあ先に出て、店の前で待ってるね」

「うん。ごめんねぇ」


 そう言ってあたしは、店の奥にあるトイレの方に向かった。




***


 トイレを済ませて、店を出た。

 店の前のホールには、なぜか金崎君が一人で待っている。


「あれ? 花ちゃんと杉山君は?」

「ああ、杉山がさ。花ちゃんと二人きりになりたいって言って、花ちゃんを連れて先に出て行った。どっかバーでも行くみたいだね」


 金崎君はイケメン顔に爽やかな笑顔を浮かべて、さも当然のようにそんなことを言う。


「え……?」

「まあ、花ちゃんは、ほのかちゃんを待とうよって抵抗してたけどね。杉山が強引なもんで、ごめんな」


 マジすか?

 ちょっとそれ、どういうこと?


 あ、いや。

 花ちゃんは大願成就たいがんじょうじゅってわけね。

 それに杉山君が強引だって話だから、花ちゃんは許す。


 金崎君は、あたしを待っててくれたんだ。

 やっぱ案外いいヤツ……なのかな。



「じゃあ俺たちも行こうか」


 え? 帰ろうか、じゃなくて行こうか?

 どこに?


 ワインで酔った頭が、さらにぐるぐる回るようなことは言わないでほしい。


 そんな状態だったから、あたしは食事代を金崎君に渡すことを忘れたまま、エレベーターに乗りこんだ。


 エレベーターを降りて、グルメビルを出る。

 ビルの前の道で金崎君と向かい合ったまま、あたしは駅の方を指差した。


「あ、金崎君。あたし電車だから。金崎君は?」

「ああ、俺も電車」

「じゃあ駅まで一緒に行こっか」


 さすがに二人とも電車なのに、ここでサヨナラは失礼よね。


「あ、いや、ほのかちゃん。俺たちも、もう一軒行かない?」

「え? どこへ?」

「めちゃくちゃお洒落なバーがあるんだ。他にないオリジナルカクテルがあってさ。それが超絶旨いのなんのって。ぜひほのかちゃんに紹介したい。好きなんでしょお酒?」


 まあ好きだねぇ、間違いなく。


 色んな会話をしてる中で、確かにあたし、お酒が好きだなんて言ったよね。

 超絶旨いなんて聞いたら、喉がゴクリと鳴る。


「だったら絶対におススメできるカクテルなんだよ。俺、ほのかちゃんを喜ばせたいなぁ、なんて思ってさ」


 金崎君はニコリと笑う。

 超人気アイドルみたいな綺麗で整った顔。

 すっごいイケメンだ。


 あたしを喜ばせたい?

 やっぱこの人、ホントは優しい人なのかも。


 どうしよう。

 お酒も飲みたいし。

 金崎君がどんな人かまだよくわからないけど、バーに行くくらいならいいよね?


 なんてちょっとポーっと考えてるところに、ふとひらりんの顔が思い浮かんだ。


 ──って、こらこらこら、あたし! 小酒井ほのか!!


 なぜかひらりんの顔が浮かんだおかげで、ハッと我に返った。


 ヤバいヤバい。

 酔ってるせいで、ちょっと思考力が弱くなってる。


 あたしは過去に、イケメンで一見優しそうな男に幻滅した経験を何度してるのよ。

 さっき感じた金崎君への違和感。それを無視しちゃダメでしょ。


 このままもう一軒行ったりしたら、金崎君は脈ありだって思って、さらに攻めてくるに決まってる。だからもうここで帰る方がいい。


 あたしはそう思い直した。



=========

【読者の皆様へ】

このサイドストーリーは全三話です。

次話が最終話!


ほのかと金崎君はどうなるのか?

感動の最終話は来週掲載です!笑

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