第33話:よっしゃ、繋がった!
今年の同窓会で幹事をした戸塚にメールをしたところ、同級生で一人加賀谷製作所に勤めてる者がいると教えてくれた。
「よっしゃ、繋がった!」
ようやく加賀谷製作所に勤める同級生に繋がった。その人の名は中島。戸塚は中島の連絡先も送ってくれた。
中島はラグビー部だったという記憶はあるが、そんなに親しかったわけじゃない。
果たして突然の俺の頼みなんか、まともに聞いてくれるだろうか……
しかし一人で悩んでいても仕方がない。当たって砕けろだ。
……って、まあ砕けても困るんだけど。
でも中島はそんなに親しかったわけじゃないから、急に夜遅くに連絡をするのは気が引ける。
だから彼には、明日電話をすることにした。
◆◇◆◇◆
翌朝。
出社するとほのかがなぜか青い顔をしていた。
「おはよう」
「お゛はよ゛ぉー」
「どうしたんだ? 辛そうだな」
「ちょっと二日酔いで頭が痛い……」
ほのかも昨日は飲みに行ったのか。
──なんて思いながらほのかを眺めていたら、横からルカの声が聞こえた。
「おはようございます凛太先輩」
「ああ、おはよう」
「昨夜は遅くなったのですか?」
「あ、いや。平松部長も相原さんも次の日の朝が早いからって、9時にはお開きになってさ。そのまままっすぐに帰ったから、全然遅くなかったよ」
「そうですか。それは良かったです」
ルカはなぜだかホッとしたような表情を浮かべた。
良かった……ってなんだろ?
──あっ、そっか!
あんまり遅くまで飲み歩いてると身体に悪いと思って、俺の健康を心配してくれてるんだな。
なんていいヤツなんだ、ルカは。
「ありがとうな、ルカ」
「えっ……? あ、ありがとうって……あ、いえ。どういたしまして」
ルカがちょっとキョトンとしたんだけど、横からほのかが「う゛〜」って唸り声を上げたから、そっちに気を取られてしまった。
ルカが俺の身体を心配してくれるのは嬉しいけど、ほのかの方がヤバそうだ。
「飲み過ぎには気をつけろよ」
「わ……わかった……」
ほのかはコンビニで買ってきたであろう、ミニペットボトルの水をグビグビ飲んで、なんとか仕事を始めた。
月曜の夕方から火曜、水曜と、俺とほのかでヒアリングのための企業訪問をした。
2日半で10社の社員さん数名ずつからのヒアリングを行い、並行してルカが記事にまとめてくれた。
今日は俺もほのかも、その記事を複数の転職希望者さんにメールで送り、電話や面談で企業説明をしていく作業を一日中やった。
まだまだ数は少ないけれども、何人か企業への応募の意志が取れたし、他にも前向きに検討してくれる人も何人かいた。
「よし! これであたしは5人目の応募確約ゲット! これで1人分、リードしたよ、ひらりん? やるでしょ、あたし?」
転職希望者さんとの電話を切ったほのかが、ニヤリと笑って俺に得意げな顔を向けてきた。
「おおっ、やるなぁほのか! 確かに俺はまだ確約は4人だ。もうひと頑張りするか」
「全体的には、なかなか順調だね」
「ああ、そうだな。ルカが作ってくれた記事のおかげも大きいな。レイアウトデザインもうまいし、ホントわかりやすくて、企業の良さがよく伝わるよ。ありがとうな、ルカ!」
デスクでパソコンに向かって仕事をしているルカに向かって笑いかけたら、ルカはふと顔を上げた。
表情はクールを装ってるけど、急に顔中が赤くなった。
きっと照れ臭いんだろうけど、お世辞抜きでルカのおかげだもんな。いくらお礼を言っても、言い過ぎということはない。
「あ、いえ……ありがとうございます」
でもルカは感謝の気持ちを聞いて、喜んでくれているように見える。
あとは成果を出して、もっとルカを喜ばせよう。
そう考えるとさらにモチベーションが上がる。俺はまた転職希望者さんへの連絡を入れ始めた。
***
その日の勤務を終え、帰宅した俺はスマホを取り出して、同窓会幹事の戸塚が昨日くれたメールを開いた。
加賀谷製作所に勤めているヤツがいると戸塚が教えてくれた、それが元ラグビー部の中島。
戸塚からのメールに書いてある中島の電話番号にかけてみると、すぐに出てくれた。
「おおっ、ひらりんか! 久しぶりだな!」
「あ、ああ。久しぶり。突然電話してすまんな」
ひらりん……?
あだ名で呼んでもらうほど親しかったっけ?
まあ運動部同士、部活の時にグラウンドではよく顔を合わせてたけど。そんなに何度も話した記憶はない。
「戸塚からも連絡もらってさ。ウチの会社の社長にアプローチしたいからって、ツテを探してるんだって?」
「えっ……? あ、ああ。そうなんだよ。俺の仕事のことでお願いなんかして悪りぃ」
なんだ。戸塚のヤツ。こんな手回しまでしてくれてたのか。
俺がリクアド社に勤めていて、人材採用の件で社長に会いたがってることも伝わってるし、俺に協力してやって欲しいなんてことまで、戸塚は言ってたらしい。
なんていいヤツなんだよ、戸塚。
今度何か奢らなきゃいけないな。
それにしても俺の周りの人はホントに良い人ばかりで、俺は恵まれてる。
「おう、そんなこと別にいいんだけどさ。ひらりんのことだ。どうせまた誰か他の人のために一生懸命になってるんだろ?」
「あ、ああ。それはそうなんだけど……中島って、俺の性格、そんなに知ってたっけ?」
「なに言ってんだよひらりん。お前のその性格、有名だぜ」
「そ、そうなのか?」
「ああ、そうだよ。だけど……悪いけど、俺みたいなペーペーには、お前と社長を繋ぐことはできないわ」
「そっか……なんせ社長だもんなぁ。俺らみたいな若手じゃ、なかなか難しいよな……」
せっかく加賀谷製作所に勤める人には行き着いたけど、社長に会う段取りまでは頼めなさそうだ。1,000人規模の会社だから、仕方ないと言えば仕方ない。
──となれば、後は情報収集だ。
「あのさ、中島。社長さんにアポイント取るには、どうしたらいいだろうか?」
「そうだなぁ。ウチの社長のスケジュールを押さえられるのは、息子の専務と……」
専務を通じて社長にアポイントを取るのはありえない。
「あとは社長秘書だな」
そう言えば所長が、秘書の壁が厚いって言ってたな。万事休すか……
中島君の言葉に、目の前がふさがったような気がした。
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