第32話:ひらりんがいいヤツだから……かな
なぜほのかは、凛太と普通に接していられるのか?
ルカにそう尋ねられて、ほのかは考え込んだ。
しばらく考え込んでいたほのかは、急に納得顔になってうなずいた。
「それはやっぱり……ひらりんがいいヤツだから……かな」
ほのかは柔らかな笑顔を浮かべている。
納得するようにコクコクとうなずくほのかを見て、ルカは可愛いと感じた。
「なるほど。ですよね。凛太先輩は、いい人ですもんね」
ルカもうなずきながら、柔らかな笑顔を浮かべる。
「まあでもほのか先輩、良かったですね」
「なにが?」
「凛太先輩のおかげで、ほのか先輩の『イケメンじゃない男性恐怖症』が治りそうで」
「えっ……? あはは。そうかなぁ?」
「そうですよ。これは一つのチャンスです」
「そうかもね、あはは」
酔いが回っているせいだろうか。
普段なら憎まれ口ばかり言うほのかも、今日は素直に凛太のことを認めている。
「ほのか先輩……」
「ん……なに?」
「ウチの営業所。凛太先輩も加わって、今までどおり……いえ、今までよりももっと、いい雰囲気で過ごせるといいですね」
「そだね。ルカたん、これからもよろしくね」
「はい。こちらこそ」
二人ともモヤモヤしたものを抱えて始まった女子会だったが、そんなほんわかした雰囲気になって終えることとなった。
◆◇◆◇◆
〈凛太side〉
ホテルのレストランで、平松部長と相原さんと食事をした。
平松部長は相変わらず、ダンディなのにオモロイおっさん……いや、楽しい中年男性っぷりを発揮していた。
ホントに楽しくて優しくて、いい人だ。
そして相原さんとは、初めて食事を共にした。
さすが人事という『人』を相手にする仕事のエース社員。
スラリと背が高くハーフのような整った美人だけど、物腰は柔らかく優しい雰囲気に溢れている。
「平林さん。新しい職場はいかがですか? もう慣れましたか?」
「そうですね。メンバーが全員気さくで凄くいい人達なんで、あっという間に慣れました」
「それは良かったです……」
相原さんはそう言った後、楽しそうに「うふふ」と笑った。どうしたんだろ?
俺がきょとんとしていたら、彼女は「あ……」と口を押さえた。
「笑ったりしてごめんなさい。平林さん、相変わらずだなぁと思って」
「相変わらず……ですか?」
「はい。相変わらず、他の人をいい人だって言ってるなぁと思いました」
「えっ……?」
どういうことだろう?
「平林さんは前に弊社にヒアリングに来られた時も、会う人会う人のことをすべて、いい人だって仰ってました」
「ああ、あれは……御社の方たちが、ホントにいい人ばかりだったからですよ」
「そうですね。確かにいい人達ですけど、きっと平林さんの受け止め方も大きいと思いますよ。お心が広いんでしょうね」
そ……そうかなぁ?
そんな自覚はないのだが。
「あ、いや。別に普通だと思いますが……」
「でも平林さん、こちらでも楽しそうで良かったです」
「そうですね。楽しいです。ただ……所長も含めて自分以外全員が女性なので、ちょっと戸惑ってますけどね。あはは」
「そうなのか、平林君! それは羨ましいな。モテモテだな」
突然平松部長が横から食いついてきた。
モテモテなはずはないのに、また部長の冗談が炸裂している。
「そうですね、平林さん。モテモテですね」
なんと、普段冗談をあまり言わない相原さんまで乗っかってきたよ。
ここは俺も「はい、モテモテです!」って冗談で返すべきか……
いや、そんなナルシストみたいなボケは、俺にはできない。
「いえ……以前いた営業所は女性が二人で、しかも10歳以上年上の方々でしたから。今回みたいに同世代の女性と一緒に仕事するのは初めてで、戸惑うばかりです。学生時代も男ばっかりでつるんでましたし」
「へぇ……そうなん……ですね……」
相原さんが驚いた顔をした。
口がOの形になっている。
「そっかぁ。平林君が同世代の女性に囲まれた環境だなんて、妬いちゃうよなぁ相原君」
「あっ、いえ……だから平松部長! そういうことは言わないでくださいって何度も言ってますでしょ?」
「そうだったな相原君。すまんすまん。君が普段から、平林君のことをよく褒めてるからついついな……」
平林部長はニヤリと笑っている。
普段から?
そうなのか?
もしそれが本当なら、ありがたい話だ。
俺のキャリアアドバイザーとしての仕事っぷりを、相原さんに評価して貰えてるってことだ。
相原さんほど仕事ができる人からそう思って貰えるなんて、めちゃくちゃ嬉しい。ちょっとした感動ものだ。
「あ、ありがとうございます、相原さん」
俺は感動して真顔で、ついつい相原さんを見つめてお礼を言った。すると彼女は照れたような顔をして視線を横に逸らせた。
「あ、いえ……ど、どういたしまして」
──あれっ?
いつもしっかりした態度しか見せない相原さんにしては珍しい。
もしかして、相原さんがいつも俺を褒めてるっていう平松部長情報は冗談だったとか?
だから相原さんは真面目にリアクションした俺に、いたたまれなくなって視線を逸らした?
もしもそうなら、それを真に受けた俺はとんだ勘違い野郎だ。
でも今さら『さっきのは冗談ですか?』とは訊きにくい。だから俺は、普通に真に受けたままでこう言った。
「相原さんのように優秀で素敵な人からそう言われるなんて、ますますやる気が出ます。ホントにありがとうございます」
「あ……いえ。素敵だなんて……そんな……」
──ん?
なんか相原さん、照れてるような……
相原さんほど美人で素敵な人なら、そんなことは言われ慣れてるだろうに。
きっと相原さんって相手の言葉を素直に受け止める、純真な人なんだな。
──なんて考えてたら、平松部長のダンディな声が思考を遮る。
「まあそういうことだ平林君!」
何がそういうことなのかは、よくわからないけど。
「これからもよろしく頼むよ平林君」
「あ、はい。こちらこそよろしくお願いします平松部長」
「うんうん。ひらひらコンビとしてな」
だから、そんなコンビは結成した覚えは微塵もないけど、笑って誤魔化しておいた。
***
それから以前部長や相原さんと一緒に仕事をした時の思い出話に花が咲き、あっという間に3時間近くが経ち、21時になった。
「平林君。名残惜しいけど、明日の朝は早く東京に戻らないといけないし、これでお開きにしよう」
「はい、わかりました。ありがとうございました平松部長」
「相原君も名残惜しくて、もっと平林君の顔を見ていたいだろうけどな」
「だから部長。そういうことは……」
「あはは、冗談だよ」
また部長が冗談を言ってるよ。困ってるじゃないか相原さん。
相原さんは少し顔を伏せて、上目遣いでチラチラと俺を見ている。
──大丈夫ですよ相原さん。俺もちゃんと冗談だとわかっていますから。
そういう意図を伝えるために、俺は満面の笑みを相原さんに返した。
すると相原さんは大いに照れた顔で、ニコリと笑い返してくれた。
顔が真っ赤じゃないか。酔いもだいぶ回ってるみたいだな、相原さん。
それともやっぱり、凄く純真な人なのかもしれない。
***
ウエブアドさんとの食事会が終わり、帰宅してからふと気づいた。
スマホを見ると、連絡を入れてあった高校時代の友人からラインが入っていた。
『俺は加賀谷製作所に勤めてる奴を直接は知んないけど、3年B組だった戸塚に聞いてみろよ。知ってるだろ? 野球部だった戸塚。あいつ今年の学年同窓会で幹事をやったからさ。名簿持ってるはずだからわかるかも』
そう言えば今年の春頃、高校の学年全体の同窓会をやったと聞いた。俺は東京にいたので参加はしていないが。
その幹事だった戸塚のメールアドレスまで書いてくれてる。ありがたい。俺の友達はホント、親切なヤツばっかだ。
俺って恵まれてるなぁ……と、改めて思った。
そこでメールで戸塚に連絡を取ってみた。
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