第21話:豚骨以外はラーメンじゃなぁぁいっ!とほのかは叫ぶ

 俺とほのかとルカの3人でラーメンを食いに行くことになった。

 所長はもう食べられないので、先に帰ると言って駅に向かって歩き出した。


 しかし所長は結構酔っているみたいで、足元がふらふらしている。

 俺はそれが気になって、2人に尋ねた。


「なあ、ほのか、ルカ。所長はかなり酔ってるみたいだけど、一人で帰らせて大丈夫か?」

「うん、大丈夫、大丈夫! いつもよりも飲んでるみたいだけど、あれくらいなら麗華所長は大丈夫だから! 時々記憶がなくなるみたいだけど、いつもちゃーんと家に帰ってるし」


 おいおい!

 ホントに大丈夫なのかよっ!?


 ほのかの能天気な返答に、俺は余計に不安になる。


 俺が心配そうな顔で所長の後ろ姿を見ているのに気づいたルカが、「大丈夫ですよ」と言った。


「所長は今までも、時々かなり酔うことがありましたけど。今日よりももっと酔ってる時でも、ちゃんと帰っていましたし。その辺はさすがに、所長は大人の女性です。所長の住まいはここから一駅だし、駅から近くですし、大丈夫ですよ」

「そっか。まあルカがそう言うなら、大丈夫なんだろうな」

「あーっ、ひらりん、ひっどぉーい! あたしが言ったら信じないのに、ルカたんが言ったら信じるんだぁ!」


 ほのかが腰に手を当てて、ほっぺをぷくんと膨らませた。上半身を横にゆらゆらと揺らすもんだから、胸まで揺れている。

 別にスケベな意味じゃないけど、気になって仕方ないからそんな動作はやめて欲しい。


「いや、別にそういうわけじゃないけどな」

「だって、そういうわけじゃん!」

「まあ……そういうことになるかな。あはは」

「やっぱりぃー! ぶぅぅぅっ!」

「まあ、取りあえずラーメン行こうや」

「そうですね。ほのか先輩、早く機嫌直さないと、ラーメンが逃げてっちゃいますよ」

「あ、うん。そうだね。ラーメン、ラーメンっ!」


 ラーメンのワンワードで機嫌が直りやがった。

 めちゃくちゃ食いしん坊だな、ほのかは。


「何ラーメンを食いに行く?」


 俺の質問に、ほのかは人差しを立てて「もっちろん、豚骨ラーメンっ!」と得意げに即答した。


「豚骨ラーメンかぁ。ルカは? それでいい?」

「あ、私も豚骨は好きですけど、鶏白湯とりぱいたんも捨てがたいです。凛太先輩は何がいいですか?」

「そうだなぁ。それぞれ良さがあるから、俺はなにラーメンでもいいよ」


 俺がそう言ったら、ほのかは真剣な顔で、人差し指を俺に突き刺すように向けてきた。


「豚骨以外はラーメンじゃなぁぁいっ!」

「はっ?」


 こりゃまた暴論だな。

 醤油ラーメンのファンが聞いたら、ぶち切れるぞ。


「あれっ? ほのか先輩。豚骨以外にも美味しいラーメンがあるって認めたんじゃなかったですか?」

「ん? なんの話だ?」


 彼女たちの間で、そんなラーメン談義があったのかな?


「いえね。凛太先輩が来られる前日にもほのか先輩は、豚骨以外はラーメンじゃないって言ったのですよ。でも……その後てっきり、豚骨以外にも良いラーメンがあるって認めたのかと思ってました」

「みんなでラーメン屋に行ったの?」

「いえ、その時はラーメンは食べなかったんですけどね。だから今日は美味しいラーメンを食べたいですね。ねぇほのか先輩?」

「あっ、いやっ、そのぉ……」


 ほのかは急にまごまごとし始めた。

 なんでこんな話で、まごついているんだ?


「なんの話か、わかってますよね?」

「わ、わからにゃい……」

「へぇ……そうなんですね。わかりました」


 ほのかがなんとなくとぼけてるような返答をしたから、ルカは冷たい口調をほのかに返した。

 そしてなぜか視線は横にいるほのかをチラチラと見ながら、俺に向いて話し始めた。


「凛太先輩。やっぱりほのか先輩は豚骨以外はラーメンじゃないって言い切ってますので、豚骨にしましょう。ほのか先輩は自分の好み以外のものの良さは、絶対に認めないそうです」

「そ……そうなのか?」


 なかなか強情なヤツなんだな、ほのかは。


「ちょちょちょ、ちょっと待ってよルカたん! なんか私が心の狭い女みたいじゃない!」

「そうじゃないんですか?」

「違うし!」

「だってほのか先輩は、イケメン以外は……」


 ん?

 ラーメンとイケメンってなんの関係だ?


 ──あっ、わかった!

 なるほど、駄洒落か!


 ラーメン、つけ麺、僕イケメン! ってヤツな。


 面白いヤツらだな、こいつら。

 3人ともめちゃくちゃ美女だからとっつきにくいのかと思っていたけど、それは俺の誤った先入観だった。


 うーん、反省だ。


 ──なんてことを考えている俺の横で、なぜかほのかが盛大に慌てている。


「わーっ、わーっ、わーっ!」


 髪を振り乱して、両手をルカに向けて、ぶんぶん振り回してる。

 美女っぷりが台無しだ。


 ──って言うか、ほのかって……美女っぷりが台無しな言動が多いな。


 それとは対照的なのはルカ。

 整った美少女っぷりを決して崩すことなく、至って冷静にほのかに対応している。


「なんですか?」

「もぉっ、ルカたんの意地悪っ! わかったから、今日は鶏白湯にしよっ! あーっ、なんか鶏白湯ラーメンが食べたくなってきちゃったよぉー」


 手のひらを返したような、そんなほのかの態度を見て、ルカはくすっと笑った。


 ほのかはいったいどうしたんだ?

 なんでいきなり主張を変える?


 ──あ、そっか。後輩のルカに合わせてあげようと思ったんだな。

 ほのか、やっぱ良いヤツじゃないか。


「冗談ですよ。ほのか先輩をちょっとからかっただけです。ホントは私も今日は豚骨の気分です。豚骨ラーメン行きましょう。いいですか、凛太先輩?」

「え? お、おう。俺はなんでもオーケーだ。じゃあ、豚骨食いに行くか、ほのか」

「う……うん。行こぉ……」


 ほのかは、ぜぇぜぇと肩で大きく息をしている。

 顔も疲労感が溢れ出しているし、まるでひと試合終えたスポーツ選手だ。


 でもほのかは、なんでラーメンひとつでこんなに必死になってるんだろう?

 相変わらずトリッキーな反応をするヤツだな。


 まあそんなほのかの言動にも、段々と慣れてきている自分が怖いけど……




 まあなんだかんだあったが、こうして結局俺たちは、豚骨ラーメンを食いに行くことに決まった。

 ほのかが超おススメだという店が近くにあって、そこに3人で向かう。


 ほのかが言うとおり、そこのラーメンは超絶旨かった。

 俺たちはラーメンを食べた後、解散した。


 ほのかは電車通勤だと言うので、駅に向かって歩いて行った。

 俺とルカは、ここから徒歩だ。

 聞くと、ルカは実家暮らしらしい。


 少し歩いたところで俺とルカは左右に分かれて、それぞれの自宅に向かって帰って行った。

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