第12話:ほのかのピンチ再び(コイツ、ピンチ多すぎだろ?)
◆◇◆◇◆
〈凛太side〉
翌日──
転勤二日目だ。
朝出勤すると、愛堂さんから今夜の予定を聞かれた。
独身男の一人暮らしで、予定なんかあるわけない。
そう言うと、愛堂さんは今夜みんなで俺の歓迎会をしてくれると言った。
会社で転勤があると、歓迎会があるのは常識ではある。
常識ではあるんだけど……
女子3人と飲み会だなんて、ちゃんと話題が続くだろうか……
不安しかないのだけれども、もちろん俺は「了解」と愛堂さんに笑顔で答えた。
俺のためにわざわざ歓迎会をしてくれるのだから、それが礼儀だ。
そして業務が始まって、俺は神宮寺所長から、取引きが薄い顧客企業のリストを手渡された。
俺はその企業リストを元に、転勤してきた挨拶も兼ねて、今日から継続して訪問活動をすることになった。
***
俺が企業回りをして、夕方にオフィスに戻ると、愛堂さんが一人で仕事をしていた。
「他の二人は?」
「所長もほのかさんも、企業回りに出られてます」
「そっか」
俺は自分のデスクに座り、パソコンに向かって今日の訪問企業の報告書を打ち始めた。
向かい側のデスクでは、愛堂さんが熱心にパソコンで資料作りをしている。
しばらくするとトゥルルルと電話がなって、愛堂さんが電話に出た。
「あっ、はい…… 申し訳ございません。はい……あいにく小酒井は外出しておりまして。はい……すぐに連絡を取らせていただきます。はい……本当に申し訳ございません」
愛堂さんは青い顔で、電話機に向かってペコペコと何度も頭を下げている。
どうやらクレームの電話のようだ。
「どうしたの?」
俺は愛堂さんが電話を切るのを待って、声をかけた。
話を聞くと、小酒井さんが担当している企業、志水物産からの電話だったみたいだ。
小酒井さんが昨日には届けると言っていた書類が、まだ届かないとのこと。
先方さんとしては、その書類を今日の17時までに社内で回さないといけないので困っているらしい。
愛堂さんは小酒井さんのケータイに電話をかけるが、留守電になって電話に出ない。
今日のスケジュールをホワイトボードで見ると、小酒井さんはちょうど今の時間は新規開拓企業との商談中だ。
「しばらく折り返しがないかも……」
愛堂さんは不安そうな顔をしている。
時計を見ると、16時だ。
先方企業の言う17時には、あと1時間しかない。
「あっ、その書類……ここにあります」
愛堂さんは小酒井さんのデスクの上に、先方企業が言ってた書類が置かれているのを見つけた。
愛堂さんが中を確認すると、書類は全部揃っていて、先方に届ければいいだけだとわかった。
「その会社、志水物産ってどこにあるの?」
「えっと……そこは車で30分くらいのところです」
30分かかるのか。
もしもすぐに小酒井さんに連絡が取れたとしても……
彼女が一旦戻ってきて、それから届けに行くとなると、間に合わない可能性が高い。
「愛堂さん。俺が代わりに届けに行くよ。先方の住所を教えて」
「あ……ありがとうございます、平林さん。住所はここです。相手の担当者は
「わかった、ありがとう。じゃあ行ってくる。先方さんには、代わりの者が書類を届けに行くって電話しといて」
「はい、わかりました。お気をつけて」
愛堂さんはホッとした表情を浮かべて、書類が入った会社の封筒を大事そうに両手で差し出した。
俺は愛堂さんから書類を受け取ってオフィスを飛び出した。
そして営業車で、志水物産の事務所に向かう。
***
「大変申し訳ございませんでした! リクアドの平林と申します。小酒井が外出中で連絡が取れませんので、代わりに書類をお持ちしました!」
受付のところで待っていると、氷川さんが出てきてくれた。 俺は氷川さんの顔を見るなり、90度のお辞儀をしてお詫びをした。
氷川さんは、俺よりもちょっと年上って感じかな?
長いストレートの黒髪は艶々して、しっかりとヘアケアをしているのだろう。
会社の制服もしわ一つなく、細型の赤ぶち眼鏡も相まって、かなりキッチリした性格の人に見える。
そんな氷川さんはきりっとした顔つきの美人なのだが、かなり憮然とした表情で、はっきり言ってビビる。気難しい人だって言ってたし。
「ちょっと確認します」
氷川さんは冷たい声でそう言って封筒を受け取ると、中の書類を確認した。表情は相変わらず憮然としたままで、正直言って怖い。
「書類はこれで大丈夫です」
氷川さんは少しホッとしたのか、憮然とした表情は少し和らいだ。ちゃんと書類を届けることができて、とりあえずは良かった。
だけど氷川さんはまだ無表情な感じ。
メガネ美人の無表情は、なぜにこんなに怖いのだろうか?
まだ怒っているとしたら、これはまずい。なんとかしなきゃ。
「本当に申し訳ございませんでした。小酒井も忙しくて、ついうっかりしてたのだと思います。僕は昨日から志水営業所に転勤してきました平林と申します」
「平林さん……」
「はい。今後は小酒井と一緒に、僕もしっかりと仕事をしていきます。
この会社は、小酒井さんの大の得意先と聞いている。
万が一担当者を変えてくれなんて言われたら、小酒井さんにとっては大打撃だ。
なんとしてでも、小酒井さんが氷川さんに嫌われないようにしたい。
だから俺は必死になって、氷川さんにお願いをした。
すると、氷川さんはとても意外なことを言った。
「平林さんは、小酒井さんの上司なのですか?」
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