第5話:3人の美女にビビる凛太
◆◇◆◇◆
〈凛太side〉
翌朝。
いよいよ志水営業所への初出勤だ。
自宅のワンルームマンションから、営業所が入居している駅前のビルまで歩いて出勤した。お初、というものは、いつだって緊張する。ドキドキしながらオフィスのドアを開けた。
自分を入れてもたった4人の小さな営業所だ。来客用のスペースを除けば、事務所はこじんまりとした大きさだった。
中央に事務デスクが向かい合わせで二つずつ並んで、4人分の席があるオーソドックスなもの。
俺が事務所に足を踏み入れると、三人の女性が立ち話をしていた。その6つの目が、一斉に俺を向く。
──うっわ。噂どおり三人ともめちゃくちゃ美人だ。
しかもそれぞれタイプは違うものの、揃いも揃ってスタイルもいい。
部長が言ってたのは大げさでもなんでもなかった。
ここは芸能人事務所かよ?
俺はこんなところで、ちゃんとやっていけるだろうか……?
いやいや。
赴任前に考えたように、仕事に男も女もない。
人としてしっかりと頑張れば、きっとこの人たちにも認めてもらえるに違いない。
「あ、初めまして。今日からこちらに赴任してきた
ちょっと緊張しつつ挨拶をすると、3人のうち一番すらっと背が高い紺のスーツ姿の女性が、軽く笑って返事をしてくれた。
「初めまして。私が営業所長の
少し猫目で鋭いけれども、とても美しい目の持ち主は、所長だった。
営業所長と言うとこれまでの経験から、中年男性のイメージが強い。しかしこの人は凛としていて大人っぽくて、若いけれども仕事ができる綺麗なお姉さん、という感じだ。
いや、綺麗なお姉さんどころか、すらっとしたスタイルからしても美形のモデルを見ている感じ。近寄りがたい美しさとも言える。
所長は俺より2つ年上の27歳だと聞いている。
「神宮寺所長、よろしくお願いします。若くして所長に昇進した凄い人だと聞いてます」
「あらま。誰がそんな噂を流したのかな? まあ仕事には厳しいから、平林君にはしっかりと働いてもらうわよ」
おおっ……早速来たか。
確かに厳しそうな人だな。
そして所長の隣では、くりっとした小豆色の可愛い目をなぜか半目にした女子が俺をジト目で見ている。
三人の中で一番背が低くて、ゆるふわの髪と顔も凄く可愛くて、まるでアイドルみたいな感じなのに……その表情は感じ悪りぃ……
ちなみに胸が大きくて腰はキュッと締まった、抜群のスタイルだ。
あ、いや……俺は別に胸が大きいのが好きとかは、一切ないが。
「あ、平林 凛太です。入社3年目で……」
「それはもう聞いたし。あたしは
人材紹介会社は、転職活動をしている個人と、求人をしている企業をマッチングさせるのが仕事だ。
企業から人材紹介の依頼を受ける活動をするのが営業で、転職希望者の相談に乗るのがキャリアアドバイザー。
「あたしは、残念ながらあなたの同期で3年目」
おお、俺と同期社員か。
ちょっと心強いな。
……ん?
「残念ながら……って?」
──どういう意味だ?
しかし小酒井さんは俺の問いには答えずに、ちょっと下を向いて何やらぶつぶつと呟いてる。
「あ~あ。……昨日の晩の努力が無駄になったわ……」
昨日の晩の努力ってなんだ?
──って考えていたら、場の雰囲気を変えるように小酒井さんの横に立つ、ポニーテールの愛らしいメガネ女子が話しかけてきた。
「あ、平林さん! わ、私、一年目の
愛らしい愛堂さんがペコリと頭を下げると、
ちょっと表情が固いし、コミュニケーションが苦手そうな感じの子だけど、この子も目鼻立ちが整った相当な美少女だ。知的な正統派美少女って感じ。
落ち着いて三人を改めて見ても、確かに部長が言ってたことは間違いない。全員が全員、揃いも揃って美女ばかり。
だけど俺は心に決めたとおり、そんなことに浮かれたり惑わされたりしない。
彼女達を女子というより、人としてきちんと付き合っていくと決めてるんだから。
「愛堂さん、初めまして。よろしくね」
「あ……はっ、はい! こちらこそ! 平林……凛太さんなんですね」
「うん、平林 凛太。えっと……なにかある?」
「あ、いえ…… なんでもないです。良いお名前ですね」
「ああ、ありがとう」
彼女がまだ1年目社員だから気を遣ってくれてるのだろうけど、愛堂さんは歓迎してくれてる感じがする。
小酒井さんには、あんまり歓迎されてない感じだけど、照れてるのかもしれないし、元々ああいう感じの人かもしれない。
まあ先入観を持たずにやっていこう。
「じゃあ平林君は、今日はまずはルカちゃんから事務所のことや業務の基本的なことのレクチャーを受けてくれる?」
「あ、はい。わかりました」
「午後からはほのちゃん……小酒井さんに付いて、実務の流れを見せてもらって」
「承知しました」
「じゃあ私は今から取引先回りに出るから、後は小酒井さんと愛堂さん、よろしくね」
「はい」
「ふぁーい」
なんだコイツ? 小酒井さんは明らかにやる気が無さそうだな。
でもまぁ、いっか。
愛堂さんに色々教えてもらおう。
「あ、平林さんすみません。説明を始める前に、私、ちょっとトイレに……」
「あ、ルカたん待って。あたしも行くー」
女子二人が連れ立ってドアから出て行った。
所長も外出したし、事務所にポツンと取り残された俺。
なんだか波乱万丈な船出のような気もするなぁ。まあ取り越し苦労であることを願うばかりだが。
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