第4話:気の弱い美少女をアイデアで助ける凛太

◆◇◆◇◆

〈凛太side〉


 赴任先の志水営業所は俺の実家の近くなのだが、東京での一人暮らしに慣れてしまってるから、今さら窮屈な実家に戻りたくはない。

 そう思って、俺は会社から歩いて通える所でワンルームマンションを借りた。


 とにかく最小限の荷物で引っ越しをし、荷物をほどき終わったのは赴任前日の夜遅くだった。

 夜遅くで気が引けたけど、取りあえず両隣の部屋に挨拶に行った。

 しかし両方とも不在で、仕方なく引っ越し挨拶品の洗濯洗剤を、簡単なメッセージとともに玄関ドアの前に置いておいた。


 両隣は、どんな人が住んでいるのだろうか?

 いかついおっさんとかじゃなければいいな。


 それから俺は、晩飯を食いに駅前まで行って牛丼を食べた。

 その後コンビニで、超絶旨そうなプリンを見つけたので買い込んだ。

 何を隠そう、俺はプリンが大好きなのだ。帰ってから食うのが楽しみだ。


 そしてまたマンションまで夜道を歩いて帰る。

 周りには飲み屋も多く、酔客がちらほらと歩いている。


 すると一人の女の子が、酔っぱらったスーツ姿のおっさんに絡まれているのが目に入った。


「お姉ちゃん、可愛いねぇ~ おじさんと飲みに行かないかい~」

「あ、やめてください。離してください」


 なんだよ、あのおっさん。


 おっさんに腕を掴まれた女の子は、気が弱いのか、大きな声を出せないでいる。

 通りがかる人はチラホラいるが、遠巻きに見て通り過ぎるだけだ。


 新たな赴任地でいきなり問題を起こすわけにはいかないけど、放っておくのもあの女の子が可哀想だ。


 ──どうしたものか……


 考えながら、とりあえず二人に近づく。

 俺はそのおっさんの襟元を見てから、声をかけた。


「あっ、どうも! お世話になります、ヤマトホームさんですよね!」

「えっ……?」

「飲み会帰りですか? あっ、この子、僕の知り合いなんすよ! なにか粗相でもしましたかね?」

「あっ、いや、別に…… 私、急ぐんで、失礼するよ」


 おっさんは慌てて、駅の方へと早足で立ち去った。

 女の子がきょとんと俺を見ている。


「あの……あなたは……あの人のお知り合いですか?」

「いいや、全然知らない人。君が困ってるみたいだから、声をかけた」

「でもヤマトホームさんって……」

「ああ、あれね。スーツの襟の社章見てわかったから、ああ言ったんだ。仕事の関係でたまたま知ってたからね。会社名がバレてると思ったら、あの人も滅多なことはできないでしょ?」

「はぁ……なるほど」


 女の子は感心したようにうなずいている。


 近くでよく見るとかなり美人だ。夜道の街灯のせいもあるかもしれないが、陰影がはっきりした目鼻立ちを際立たせている。


「あの人は駅に向かったようだけど……君は、もう大丈夫かな? それとも送って行った方がいい?」

「あ、いえ、大丈夫です。私はここからすぐの所に歩いて帰りますので」

「そっか。じゃあ、気をつけて帰りなよ」


 俺みたいな知らない男にあまりしつこく話し込まれたら、この子もかえって不安になるだろう。だからうだうだせずに、早く帰ってプリンを食おう。うん、それがいい。

 ──と思った。


「あ、はい。本当にありがとうございました」


 その子がぺこりと頭を下げるのを見て、俺は自宅へと向かって歩き出す。


 いよいよ明日は志水営業所への初出勤日だ。

 今夜は早く寝て、明日に備えて英気を養わなきゃな。


 俺はそう思って帰路に着いた。

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