第29話 オレンジジュースの気分

 マトラは冷静に返す。

「お疲れ、入れ違いだったみたいね」

 カグラはカツカツと歩きながら言う。

「今度からデスクに来る時、一報入れなさいよ」

「彼女かよ」とザック。

「彼女よ」とカグラ。

「彼女じゃないですよ」とマトラ。

 カグラが座るとセバスが颯爽と後ろに立つ。

「カグラ殿、今日はオレンジ、アップル、どちらでございますか?」

「オレンジジュースの気分ね」

「かしこまりました」

 颯爽と去るセバス。フゥ、とカグラが一息つくと向かいから声がかかる。

「やっぱこのメンツは呼ばれるよな。地獄の使者ってのはどうだった?カグラさん」

 ヘッドホンを首にかけ、ラッパーのいでたちをしたクラップだ。頭は寝癖なのかセットなのかわからない跳ね具合でボサボサだ。

「楽勝でした。捻り潰してやりましたよ!」

「ぐぬぬ、オイラも行けばよかったなぁ。でもなぁ、踏み込む勇気なんてなかったよなぁ」

 腕組みをして考えるクラップ。

「クロックは戦ったんだっけ?」

「渡り廊下で少々、別館には行ってないですが」

 話を聞いていたクロックが答えた。

「ふむぅ、なるほど。で、お前らよ、今回全員呼ばれた理由ってなんだと思う?」

 クラップは四人に問う。答えたのはザックだ。

「地獄の使者襲撃の件だろ」

「だったらこのメンツだけでいいだろって言いたいんだよ。全員揃うのなんてよほどの事態だろ」

「クラップさん、局内連絡の送り主、ちゃんと見ました?」

 そこに横槍を入れてきたのは、黙って聞いていたであろうフォーゼだった。

 ザックを除いた四人が目を丸くする。

「送り主?」

「そ、後で確認してみてください」

 フォーゼは紺のスーツをピシッと着こなし、今日も今日とて爽やかイケメンだ。端正な顔立ちにちゃんとセットされた短髪は準備にかけた苦労が滲み出る。フォーゼは局内はもちろん、女性転生者にも人気だ。それこそファンクラブができるほど。

 フォーゼは人差し指を立てて言う。

「今回の連絡、ホワイング局長から直にきてます」

「いつもなら、メガネを通すはずなんだけどな」とザック。

「そのとおり、ザックさんはよく見てらっしゃる」

 フォーゼはニッコリと微笑む。

「私も内容は知りませんが、おそらく重大発表があるかと…」

 そこにドアが乱暴に開き、残りの3人が雪崩れ込んできたのだった。



─────つづく







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