第26話 異世界転生 対 輪廻転生⑩

「マジか……」

 熱気と焦げ臭い匂いが充満している転生室。刀を握ったザックは口をへの字にする。

「逃げられたぁ。やっちまった……」

 へたり込むように腰を下ろすザックの後ろにいたマトラとカグラは立ったまま呆然とする。

 ザックさんが爆炎と爆風を斬ってくれなかったら、タダじゃ済まなかっただろう。その最中、奴らは逃げた。逃げられた。

 転生室、別棟の損害はどのくらいだ?本館は無事なのか?いやなによりも──。

「ホントにしてやられたわね」

 カグラがぼやく。

「転生者の被害がデカすぎる。何百人死んだ?」

「分からない」とマトラ。

 そうそれが一番の心配だ。一体どれほどの転生者が無残に…。

 そんな考えが頭の中を駆け巡っている時、声がかけられた。

「どういう状況だ。これ」

「スケロクさん!」

 見るも無惨な転生室に足元を注意しながら入ってくる。

「敵は?」

「逃げられた。もう追えない位置にある可能性が高い」

 即答したのはザックさんだ。責められても致し方なし、という表情。

 「そっか…」と頭を掻くスケロクは続ける。

「三人とも、今は休んで頭ん中を整理しな。話はあとだ」

「本館の状況は?」

「本館は特に大きな被害は無ぇよ。みんなピンピンしてらぁ」

 そうか、みんな無事なのか。

 マトラはホッと胸を撫で下ろすが、ザックの表情は晴れない。

 スケロクはスマホ型の端末を取り出して連絡しだす。

「おぅ、俺だ。とりあえず敵さんは去ったみたいだぞ。あぁ、あぁ、うん、問題無えと思うぞ。心配ならクラップでも誰でも引っ張ってくるか?……あぁ、わかった。んじゃ、よろしく」

 スケロクは端末の通話を切った後、欠伸した。

「しかし、こりゃ大変なことになったな」

「そんな大変な時に、上は何をしてたんですか?」

「そう噛みつかないでくれ、もうすぐ事後解析班が来るからよぉ」

 一瞬、ザックのセリフにピリつく空気。マトラとカグラは冷や汗を垂らす。

「すぐに駆けつけられなかったのは、すまない」

 スケロクは一呼吸おいて、ポリポリと頭を掻きながら続ける。

「ここだけの話だ。今回の襲撃に関して、閻魔が許可を出していたらしい」

「馬鹿な!ありえない!」

「声がデケェって、その確認と裏を取るのに時間がかかったんだよ」

 声を荒げたザックを諭すように宥めるスケロク。大きく息を吸って吐いて、声のトーンを下げる。

「こんなやり方に地獄のトップが許可を出す?」

「ねぇと思ったよ、俺も。三界和平を結んでるのに加え、閻魔は昔っから穏和派だ」

 沈黙、全員が考え込む。このあり得ない事態に。

「近々、会議があるはずだ。さっきも言ったがまず休め。ちょっと頭に血が昇りやすくなってっからよ」

 その時、まるで話の終わりを見計らったかのように解析班が到着する。

 解析班はスケロクの指示に従い散らばって状況を確認していく。ザック、カグラ、そして私マトラはボロボロになったスーツでその場を去った。


────数日後

 先日の管理局襲撃の件について会議が行われることとなった。

 私とカグラはすでに通常業務に復帰しており、その連絡はザックさんから伝えられた。

 会議の日時、場所、趣旨、要項などが後からちゃんとしたメールで来たのだが、最後の行に私は思わず声が出そうになる。


『備考:管理局内“十界”のメンバーは出席すること』




─────つづく

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