第11話 地獄の使者

 マトラとザックは渡り廊下を抜け別棟へ移る。

「どうしましょうか、ザックさ──」

 マトラは言葉を切って瞬時に飛び退く。二人の間を斬撃が通り、床に斬られた跡が残った。

「ここまで来るとは。ま、当然か」

 声の主は剣を持っている。装備の鎧に便利ポーチ、転生者だな。さっきの操られている奴らとは違い、眼に生気がある。

「アンタが主犯?」

 手短に訊くザックに対して、転生者は答えた。

「あぁ、まぁな」

「どうやって?」

 ザックの問いに転生者の眉がピクリと動く。マトラも見逃さなかった。

 本来、転生者が勝手に“異世界”と“管理局”を行き来できるはずがないのだ。オプションやスキルにもそのようなことを出来る機能は無い。

 新しい転生者が送り込まれ、転生陣が開く時を狙ったのか?いや、それでもフィルターがかかっている筈だ。設定された者以外は行き来できない。

「答える理由はない」

「だろうね。期待してないから大丈夫だ」

 斬りかかるザックに辛うじて転生者は反応する。刀と剣が衝突し、甲高い音を響かせるとマトラは走り出す。転生者とザックの横を抜け転生室へとダッシュ。

「んな!おい待てや!」

「君の相手は私ね」

「ちっくしょう!」

 転生者の振るう剣は空を切り斬撃が飛ぶ。ザックが危なげなく避けると、今度は空中に無数の火の玉が浮かびだす。

「“フレイム”!」

 フヨフヨと浮かぶ火の玉は一直線でザックに襲いかかる。ザックはそれらをも斬り捨てて刀を鞘に納める。

「無理だよアンタじゃ私を倒せない」

「知ってるよ、でもなぁ──」

 その瞬間、転生者の胴体が真っ二つに斬られる。勢い余った斬撃がザックに向かうが刀で弾き返す。

 斬られた転生者は消滅し、後ろに立つ者の姿が見える。

「ざぁんねん。こういう不意打ちも効かないか」

「お前は──、なんで?」

「へへへ、気になります?」

 肩まで伸ばしたセミロングは栗色で艶がある。華奢な体つきに似合わないダボついた作業着。笑顔の奥に潜む真意が見えない。

「異世界術師、No.5のバンビエッタ・ザッキーバーグ。お手合わせ願います」

「……待て待て、お前シャンテンだよな?なぜ──」

 かなり狼狽したザックが言葉を絞り出す。

「なぜ、使がここにいる?」

 訊かれたシャンテンという女性は微笑み、返す。

「異世界を、ぶっ壊しにきました!」



─────つづく






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