第9話 この世界のサイクル
「なかなか順調らしいじゃないですか」
「はい、マトラさんのアドバイスが効いてきた感じがします」
とある昼休憩、マトラとトームは昼食を終えデスクでダベっていた。
「オプションが追加されて人間以外への転生ができるようになったのはデカイと思います。今のところ結構人気なんですよ」
「聞いたところだと、スライムやエルフが多いらしいな。これからは多種多様な転生に対応していく必要があるということか」
「個性が出るのなんて、ステータスや装備ぐらいでしたからね」
マトラはブラックコーヒーを飲む。ふぅ、と息をつくとトームが訊いてくる。
「でも、私だけが順調というわけじゃなく全体的に忙しくないですか?」
「確かに、最近は全体的に人数が多い」
コーヒーに映る自分を見ながらマトラは答える。
「亡くなった人は寿命で亡くなったのかそうでないかで分けられる。寿命で亡くなった人のうち、悪人は地獄、それ以外は天国に行く。寿命が残っている人はひとまずこの管理局に来る。これは知ってるよね?」
「はい、最初に説明されました」
「ここに来ると、まず天国行きか異世界転生するかを迫られる。残った寿命で異世界を満喫するか、寿命は捨てて天国行きかの二択を選ぶわけだ。ここで本題に戻るが…」
「現世で亡くなる方が増えている」
「それで全体的に来る人が増えていると」
「あぁ、現世で起こってることに管理局は干渉出来ないし関係ないと思うがな」
「というかこの管理局と異世界って最近できたものですよね」
「天国や地獄と比べれば圧倒的に歴史は浅いな。そもそもここは──」
話の途中、いきなり館内放送で警告音が鳴り出す。
二人が動揺するのも束の間、扉を蹴破ってザックが叫ぶ。
「マトラ!緊急事態だ、一緒に来い!その他の局員は四階ホールに避難しろ!」
「なにがありました?」
「異世界転生室121が現場だ!事情はあと!取り急ぎで転生者を取り押さえろ!」
「転生者をですか?」
「なにがあったか分からんが転生者達が徒党を組んで反乱を起こしてきた!」
最近の胸騒ぎの理由はこれか?
ザックが続ける。
「このままだと管理局が危ない!行くぞマトラ!」
不安そうなトームの肩を叩く。
「トームさんはとりあえず避難を」
「マトラさんは⁉︎」
「私は前線へ行ってくる。大丈夫、無茶はしない──と思う」
「……」
「心配しないで、さぁ行きなさい」
「絶対に戻ってきてくださいね」
「当たり前です」
トームが走り出したその後ろ姿を少しだけ見つめる。その背中が大きく見えたのは私だけだろうか?
「マトラ!急げ!」
ザックの声に体が引っ張られる。これから降りかかる禍の大きさがどれほどのものか、それは誰も知らない。
各々が信じるものを胸に、走りはじめた。
─────つづく
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