第8話 異世界術師の予感
“異世界術”
異世界管理局を立ち上げた創設者達が編み出した技である。全部で7つある術は会得が難しく、全てを実戦レベルで使えるのは局内でも10人のみである。
「お疲れ様です!」
「オペレーターありがとうね、トームさん。ザックさんも付き添いありがとうございました」
「いいってことよ、これくらい」
「あのぅ、八岐ノ淫魔倒しちゃったけどいいんでしょうか?」
おそるおそる聞くトームにマトラが答える。
「ああするしかなかったから仕方ないのよ。データと戦闘のログがちゃんと残ってるから大丈夫だと思う」
「なにか言ってきたら私が言い訳しとくよ」
「重ねてありがとうございます」
マトラの礼にザックは手をヒラヒラと振る。
「結局、原因はなんでしょうかね?」
「モンスター自体のポテンシャルが私たちが思っているより高かったか、誰かがなんらかの操作をしたか……」
「そこから先は自分の仕事だからマトラたちが気にすることではない。ひとまずお疲れ様」
ここでザックとは別れ、マトラとトームは共にデスクへと戻ると先客がいた。我がもの顔で座っていたカグラがマトラに気づき声をかける。
「おかえり」とカグラ。
「ただいま」と笑うマトラ。
「いつからそんなご関係に…?」
「なんとなく言ってみただけよ!ほら!お疲れ!」
エナジードリンクを二本。ちゃんとトームの分も用意してるところに優しさを感じる。
「ザックさんはいないのね」
「あの人は忙しいからな、こんなとこで油を売ってる暇ないだろ」
「そうか。で、どうだったのよ今回の件」
鋭いな。こういうのに関しては異常なほどの嗅覚があるのがカグラの長所でもある。
「ちょっと話を聞いた感じ、かなりキナ臭いけど」
「今日はそれを聞きにきたの?」
それならば場所を変えたいところだ。
「いや、別件。これ見た?」
カグラがカバンから出した書類をマトラが受け取ろうとすると、その手からヒョイと書類が逃げる。
「マトラじゃないわよ。トームさんに見て欲しいの」
「うぇっ!私ですか?」
書類を受け取ると読み出す。マトラが覗き見しようとするともう一部渡してくる。優しさが身に染みる。
「転生オプションの拡大に関して…」
「導入するにあたって何人かにテストを行なってるらしいわよ。トームもやってみない?」
「これ、カグラさんにきた案件ですよね?」
「いーのよ。私は忙しいから誰かに譲ろうかと思ってたの」
「ありがとうございます!」
「頑張んなさいよ、私が推薦してあげてんだから」
忙しいから譲るんじゃなかったのか。まぁ、トームは仕事が出来るから心配はしちゃいないが……。
「少し席を外すわ。なにか質問があれば聞くから、戻ってくるまでに資料のほうに目を通しといてくれる?」
「分かりました!」
トームの元気な返事にカグラは微笑む。
「ちょっと付き合いなさい。マトラ」
「え、連れション⁉︎私、誘われたのは初めてだな」
「いいから来なさいよ!連れションぐらいいいでしょ!」
マトラとカグラは部屋を出る。トームはやる気の炎に燃えながら資料を読み始めていた。
部屋を出るやいなや、カグラはトイレの方向に向かう。
「ホントに連れション⁉︎」
「ンなわけないでしょ!ちょっと待ってて!」
カグラがお花を積んだ後、切り出した。
「最近モンスターの暴走や勇者同士の戦いが多発してる」
「キナ臭いってのはどういうこと?」
「なんか裏にありそう。杞憂ならいいんだけどね」
カグラはいつになく真剣な表情で言う。
「とりあえず言いたいことは一つ」
「いつ、なにが起こっても大丈夫なようにしておいたほうがいいってことよ」
それに関しては同意する。
どうもこの一件、なにかを見逃しているような気がするのだ。
重要ななにかを──。
─────つづく
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