第5話 マトラ、異世界で仕事する

 マトラはとある異世界のダンジョンに来ていた。飛びかかってくるモンスターを刀で切っていく。

「ウラァァァア!!!」

「キェェェェエ!!!」

「ピヨォォォオ!!!」

「はい、うるさいうるさい」

 全て真っ二つに斬り、斬られたモンスターは消滅していく。

 マトラは刀を鞘に納め、耳についているインカムに声を掛ける。

「今のところ、異常なし。引き続きダンジョンの攻略を行います」

『こちら、ザック。了解した。引き続き調査を頼む』

『オペレーターのトームです。なにか欲しい情報があればなんなりと』

「ありがとうございます。とりあえずは大丈夫かな」

 会話をしながら着々と進んでいく。マトラは先日のザックとのやり取りを思い出していた。


    ──*──*──*──


「勇者がやられたってどういうことですか?」

 バンブレード・ザッキーバーグ。通称、ザック。マトラの上司にして実力者だ。スラリとした長身にスーツを着こなし。長い髪はしなり揺れる。そして今日も今日とて日本刀を腰に付けている。

 そんな銃刀法違反上司が質問に答える。

「ステージ2のボス戦にてやられた。1人ならまだしも3人となればこれは異常だ。それに皆なにかしらの“MAX持ち”だ」

 “MAX持ち”、ステータスに一つでもMAXがある転生者をそう呼んでいるが、そもそもそれ以外のステータスもかなり高めに設定されているはず。そんな転生者が序盤のボスに、しかもパーティーで挑んで勝てない?

 確かにおかしい。

 ザックは髪を耳に掛ける。

「調査が必要だと、私は思う」

「モンスターの育成会社はなんと?」

「分からないの一点張りだ。すまんが見てきてくれないか?」

 ここでわたしを指名するところをみると、タダごとではなさそうだ。

「分かりました、また飲みに誘って下さい」

「ありがとう、カグラも誘っとくわ」

 わたしの返答にザックは笑った。


    ──*──*──*──


 そして、現在にいたる。

「ただいまダンジョン四階への階段手前です」

『その階段を上がればボスがいるので注意をお願いします』

「了解」

 マトラが踏み出すと、巨大な鎧が二つ落ちてきた。ガッシャァアァン、と風圧とその音は普通なら驚くだろうがマトラは動じない。

『警戒!生体反応、二体発生!』

 鎧は動き出し、目の部分が怪しく光る。

「我々は“魔鉄兵”!ここを通りたければ──」

 既にマトラは二体の間をスタスタと歩く。

「なっ⁉︎」

「無駄な口上はいらないから」

 階段を悠々と歩きながら刀を鞘に納めていく、チンと納め終わるとその動く鎧たちはバラバラと崩れていく。

 鎧から生気が失せ、ガラクタと化した。

 息も切らさず、マトラは階段を上る。その様子をオペレーターのトームはモニターで見ていた。

「あのー、ザックさん」

「どうした?トーム」

「マトラさんって強すぎません?」

「アッハッハ!見るの初めてか!」

 ザックは大きく笑うと、答えた。

「マトラは局内でも指折りの実力者だ。荒事に関しては、かなり強いよ」

「聞いてはいましたが、ここまでとは…」

「思わなかったか?じゃあ、今日はいい機会だな。アイツの力を間近で見れる、つっても画面越しだがな」

「いえ、モニターでも強さは十分伝わります」


 階段を上り終え、マトラは巨大な扉の前に立つ。

「トームさん、今から入ります。解析の方はよろしくお願いします」

「はい!マトラさんもお気をつけて」

 マトラは扉を開くと中は広い空間だった。何も遮る物のない部屋に、おそらく主であろう者が立つ。

 その黒髪は艶があり、長さは肩に乗るくらいか。背丈が高く、長くしなやかな脚と大きなヒップが際立つ。決して痩せすぎているのではなく鍛え上げられている腹部は、くびれを作りつつも腹筋のスジが存在感を出している。豊満なバストは掴んだら手ごと沈みそうで、柔らかそうに揺れる。そして何も纏わず身体の淫紋でところどころを隠しており、頭には二本の角。矢印の形をした8本の尻尾。

 間違いない。コイツか。

「女勇者は初めてね」

 彼女は舐めるようにマトラを見る。

 マトラもまた、彼女を見て刀を抜いた。

 



─────つづく

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