第4話 休憩は大事

「お疲れ様です、マトラさん」

「お疲れ様、トームさん。調子はどうかしら?」

 ひと仕事終えてデスクに戻ってきたマトラはドカッと椅子に腰を下ろす。隣のトームと呼ばれた女性社員はオボボボと涙を流す。

「2人天国行きです。異世界には興味がないと言われました」

「ありゃりゃ」

「それに比べてマトラさんはまた転生者を1人送り出しましたよね。ホントすごい」

 マトラは資料を整理し始める。

「こればかりは運ですからなんとも。でもトームさんの売りは真面目さです。その2人の天国行きも彼らと真摯に向き合った結果でしょ?1年目なんだからそんな肩肘張らずにやりなさい」

 スッキリしたデスクを見て、満足したのかこちらを見るトームと向かい合う。

「大丈夫。その頑張りは必ずあなたの力になるわ。私が保証する」

「マトラさん……」

 マトラの手を取るトームに思わずびっくりする。

 ハーフアップであげた髪は茶色がかっている。まだ綺麗なスーツ、小動物を思わせるクリッとした眼はまさに初々しさと可愛さのバランスが絶妙だ。こんな彼女の教育係が私、マトラである。

「わたし、絶対ふさわしい女になってマトラさんを養いますから!」

「ありがとう、気持ちだけ受け取っとくわ」

 デスクの上に缶コーヒーが置かれる音にマトラは振り向く。

「相変わらずの漫才ね、アンタたち」

 立っていたのはマトラの同期のカグラだ。赤髪のツインテールがトレードマークである。

「ありがとうございます。いただきますね」

「別にアンタのためじゃないんだからね。間違ってブラック押しちゃったから勿体無いと思っただけよ」

「その割にはちゃんとマトラさんの好きな“異世界バリスタシリーズ”なんですね」

「生意気なアンタにはこれで十分よ!」

「あ、私の好きなオレンジジュースだ。ありがとうございます」

「別に!新入社員が落ち込んでると思って励ましに来たとかそんなんじゃないんだから!疲れた同期に差し入れしてあげようとかそんなこと微塵も思ってないんだから!勘違いしないでよね!」

 そう言ってスタコラと去っていく。

 嵐のような先輩社員に、トームは目を丸くする。

「ツンデレとかそういう次元を超えた方ですね」

「カグラは悪い人じゃないの。ちょっと素直になれないだけで」

「いや、全部言っちゃってるじゃないですか」

 仕事に戻ろうとした時、遠くから声がかかる。

「おーい、マトラァ」

 声の主を探すと入り口に上司が立っていた。嫌な予感がする。

 マトラは開けようとプルタブにかけた指を止め、席を立つ。

「ザックさん、なにかありましたか?」

「ここじゃなんだ、小会議室に行くぞ」

 ただごとじゃないな。

 小会議室に入ると、すぐさま上司は話し出す。

「RPGタイプの異世界、エリア5869。知ってるだろ」

「共有型の異世界です」

「その通り」

 共有型の異世界は、一つの異世界に何人もの転生者がいるのが特徴だ。故に協力プレイが出来たりや先輩転生者がいるため転生初心者に優しかったりとメリットはある。その半面、転生者同士のいざこざもあるのだが。

「そこでトラブルですか?」

「あぁ、それがな──」

 ザックは誰もいない会議室にも関わらず、小声になる。

「転生した勇者が殺された、さらに3人もだ」



─────つづく

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