アルベロの警備

 野営は、S級とA級が完全に分担し作業を行った。

 雑用はS級ばかり。まさか夜間の警備もS級に全て押し付けられるとは思っていなかったが、アルベロは特に文句を言わなかった。

 なぜなら、この程度予想できたから。さらに、エステリーゼたちが何を言おうが、欠片も興味がなかったからだ。

 アルベロの中で、エステリーゼたちとは決着がついている。実害が出ない限り徹底的に無視することに決めた。この程度なら問題なかった。

 夕食も終わり、A級召喚士のたちは馬車やテントの中へ戻った。

 アルベロたちは集まり、夜間警備の話をする。


「じゃ、俺、キッドは一人で。ヨルハとリデル、ラピスとアーシェのペアで。出発は十二時間後だから、三時間交代でな」


 アルベロがそう言うと、全員疑問を持たなかった。

 せめて女子は夜に寝かせてあげたいという理由で、最初の夜間警備はラピスとアーシェ、次がヨルハとリデル、その次がキッド、最後がアルベロとなった。

 

「じゃ、俺は寝る。時間になったら起こしてくれよー」


 そう言って、アルベロは一人用テントへ入った。

 一人用テントは馬車の脇に二つあり、それぞれキッドとアルベロ用だ。

 キッドも、軽く手を振ってテントへ入った。

 

「リデル。あちらの空き家でお湯を沸かしておきましたので、着替えと身体を洗いましょうか」

「え、いつの間に」

「ふふ。王女のたしなみですわ」

「へぇ~、王女ってすごい!」

「アーシェ、ラピス。交代前に再度お湯を沸かしておきますので、あなたたちもどうぞ」

「わぁ、ありがとうヨルハ」

「ありがとうございます。ヨルハ」


 最近、ラピスも『王女殿下』から『ヨルハ』になり、敬語が取れてきた。

 ヨルハたちは着替えを持って空き家へ。


「じゃ、あたしたちも警備頑張ろ!」

「はい! では……おいで、マルコシアス」

「きて、グリフォン!」


 青白の体毛をなびかせたマルコシアスと、エメラルドグリーンの風を纏うグリフォンが現れる。

 二人は己の召喚獣を撫で、ついでに互いの召喚獣を精いっぱいモフモフした。


「ん~、マルコシアスってなんかひんやりして気持ちいい~」

「アーシェのグリフォン、すっごく綺麗です……それに、サラサラしていい手触り。まるで高級な毛皮みたい……ふわぁ」


 一通りモフり、離れた。


「じゃ、警備開始! グリフォン、空からいくよ」

「マルコシアス、村を回りましょう」


 二人はそれぞれの召喚獣に乗り、村の警備を始めた。


 ◇◇◇◇◇◇


 数時間後……。


「おい」

「ん……」

「起きろ、脳天ブチ抜くぞ」

「ん~……ああ、キッド」

「お前の番だ。朝までしっかり見張れよ」

「おぉ……ふぁぁぁ」


 見張りは、アルベロの番となった。

 たっぷり九時間の睡眠を取ったアルベロは、テントから出て軽く体をほぐす。

 夕食の時間も早かったので、九時間経ってもまだ薄暗い。だが、あと三時間もすれば日は登り、朝になるだろう。

 

「───よし!!」


 アルベロは屈伸、膝の曲げ伸ばし、腕をぐるぐる回し、首をコキっと鳴らす。

 桶に入っていた水で顔を洗い、完全に目を覚ました。


「軽く村の外走るかな」


 運動がてら、村の周りを走ることにした。

 ボロボロになっている村の外壁をジャンプで飛び超え、けっこうな速度で走り出す。

 せっかくなので、全身を使った運動をすることにした。


「奪え、『ジャバウォック』!!」


 右腕を顕現させ、思い切り伸ばす。

 狙いは、数十メートル先にある木の枝。


「『召喚獣掴みバンダースナッチ』!!」


 枝を掴み、腕を縮める。するとアルベロの身体が引っ張られ高速で移動する。

 伸び縮みする腕を使った移動法だ。腕を伸ばし、巨大化させて行う全ての動作を『召喚獣技バンダースナッチ』と名付け、使用の際に叫ぶのがアルベロの癖だった。

 少し道を逸れ、村近くの森へ。

 木々を縫うように走り、たまたまあった大岩を殴り破壊した。

 破片が散らばる。


「『停止世界アリス・ワールド』!!」


 空間を『硬化』させると、飛び散った破片がピタッと止まった。

 停止の力───この力だけでも強力だが、倒せない敵がいる。

 魔人と戦うために必要なのは、『破壊』の力だ。


「───ん」


 ふと、右目が疼いた。

 アルベロの右目『冥眼バロール』だ。アルベロは、疼きを感じた方を見る。

 すると、身長二メートルほどの全身毛むくじゃらの魔獣、『コボルト』が五匹いた。

 二足歩行の犬と言えばいいのか。だが、可愛らしさなどない。ヒトの肉を食うこともある雑食の魔獣だ。恐ろしいことに、人間の女を攫い子種を植え付けることもある。

 見つけたら即討伐の魔獣だ。


『ぐる? グルルろぉぉ!!』

『ぎゃっぎゃ!!』

『ぎゃあるるる!!』

「知性の欠片もなさそうだな……まぁいい」


 アルベロは右腕を巨大化させ跳躍。

 そのまま思い切り地面を削るように右腕を薙いだ。


「『召喚獣王の怒りインパルス・ディザイア』!!」


 抉られた地面が巨大な破片となりコボルトへ向かう。

 地面は全て『硬化』され、コボルトに直撃した瞬間にコボルトは肉片となる。

 アルベロが名前を付けた技で、破壊の力だった。


「よし終わり!! 警備再開!!」


 アルベロは再び走り出し、村の外周を回る。

 

 ◇◇◇◇◇◇


 外周を回り終え、村に戻ろうとした時だった。


「ん?……あれは」


 気配を断ち、誰かが村の近くにある森へ入っていった……それは、オズワルドだった。

 ああいう奴はロクなことをしない。アルベロはそう考え、後を付ける。

 すると、オズワルドはすぐに見つかった。


「…………これを頼むぞ」


 手紙だろうか。

 召喚獣らしき小さな鳥の脚に手紙を括り付けていた。

 恐らく、報告書だろうか。


「……つまんねーの」


 ぼそりと呟き、戻ろうとした時だった。


「───おお、まさか、ここで!?」

「……ん?」


 オズワルドの手に、高級そうな便箋が握られていた。

 さっきまで持っていなかったはず。いつの間に?……と、アルベロは思う。

 オズワルドは手紙を開くと、ゆっくり口の端を吊り上げた。


「ククク……ククハハハッ、くははははっ!! そうかそうか……フフフ、運が向いてきたということか。そうか……これは使える」

「……?」


 オズワルドは、不気味な笑みを浮かべたまま、しばらく笑っていた。

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