ようやくの終わり
「出しなさい……出して!!」
ラピスは、アースガルズ王国地下特別室に『監禁』されていた。
オウガの襲来まではわかった。気が付くとなぜかここにいたのだ。
そして、地下特別室には、父でありフラグメント公爵家当主である、オニキスがいた。
「落ち着きなさい。ラピス……外は危険だ。ここに『避難』していれば大丈夫だよ」
「避難……? お父様、私はS級召喚士として戦わねばなりません。王国民を見捨て、こんな地下に『逃げる』のが避難というおつもりですか!?」
「ラピス。あまり父を困らせるな」
この地下特別室は広い。
公爵家に与えられた部屋は、アースガルズ召喚学園の生徒会室よりも広く、豪華な装飾品で部屋は彩られ、必要な物は何でもそろう。
だが、ラピスはこんな部屋にいたくなかった。外では友人たちが魔人と戦っているかもしれないのだ。
ラピスは、ガーネットの言葉を思い出す。
「……お父様、私が公爵家の娘だから、こんな場所に避難しているのですか?」
「……そうだ。王国貴族はアースガルズ王城地下にある特別室に避難してる」
「では、国民はどうなるのですか!!」
「大丈夫だ。外には英雄が二十一人もいる。知っているだろう? お前のおばあ様はとても強く優秀な召喚士だ。きっと魔人をなんとかしてくれる」
「…………」
ラピスは、部屋の片隅で優雅に座り、茶を啜る女性を見た。
母……フラグメント公爵夫人。名はルビー。母は、何も言わずに落ち着いていた。
「お母様」
「ラピス。慌てないで、お茶でもどう?」
「…………」
もう、この両親はまるで駄目だった。
すると、部屋のドアがノックされた。
ラピスが出ようとしたが、脱走を警戒されたのか護衛兵士に止められる。
対応したのはメイドで、ドアを開けて驚いていた。
「ラピスはいる?」
「これはこれは、王女殿下」
王女ヨルハだった。
ヨルハはオニキスに一礼し、オニキスに言う。
「魔人の脅威は去りました。ここから出ても大丈夫です」
「そ、それは誠ですか!? 『憤怒』の魔人を倒したのですかな!?」
「ええ。S級召喚士がやりました。『戦車』、『女教皇』、『女帝』、『法王』の四人が証言しました……にわかに信じられませんが、S級召喚士アルベロ・ラッシュアウトが『
「なんと……S級、あのお飾り階級が」
「目撃証言もあります。S級は間違いなく、『傲慢』の魔人を討伐したそうです」
そこまで言い、ヨルハはラピスに言う。
「ラピス。外に出ましょう、S級召喚士たちが待ってるわ」
「……はい」
「あら、浮かない顔ね」
「私……肝心なときに、何も」
「それは私もよ。さぁ、みんなに会いに行きましょう」
「はい……ヨルハ王女殿下」
ラピスは、とぼとぼと歩きだし、ヨルハに付いて行った。
◇◇◇◇◇◇
王城前の警備は、エステリーゼ率いる学園所属A級召喚士と、生徒会役員、生徒会所属B級召喚士が務めていた。
敵はオウガ一体だが、魔人は魔獣を自在に操る魔法を使う。王国内が戦場になる可能性も十分にあったので、王国周辺には王国所属のA級召喚士とB級召喚士が戦闘態勢を整えていた……が、オウガは魔獣を率いるどころか、単独での戦いを続けているとの報告が入る。
エステリーゼは、戦闘服である騎士風の服に、愛刀の『銀牙』という名の『刀』を腰に差し、目を閉じていた。
すると、隣に誰かが来た。
「エステリーゼ」
「で……殿下!? ここは危険です、王族の方は地下特別室へ!!」
「きみの隣にいたい。きみと一緒に戦うのが王族の務めだ」
当然、そんな務めはない。
だが、エステリーゼは悪い気がしない。王子サンバルトはエステリーゼに惚れている。王族に気に入られれば、エステリーゼの出世の道も近い。
それに、サンバルトは馬鹿だが、A級召喚士としての実力は高いとエステリーゼは踏んでいた。
「わかりました。その代わり、私の傍から離れぬようお願い申し上げます」
「わかった。はは、嬉しいことを言うじゃないか」
「殿下……」
エステリーゼは苦笑する。
そして、エステリーゼの声がギリギリ届くところにいたレイヴンに命令する。
「レイヴン、カラスを飛ばして偵察をしろ」
「了解でっす」
召喚獣ブラックレイブンを飛ばしたレイヴン。
そして、ラシルドにも命令。
「ラシルド、B級第一部隊を率いて城下町を見回れ。なにか異常があれば伝えろ」
「わかりました」
「じゃ、オレのカラスを付けるよ」
「ああ、頼む。フギル、行くぞ!!」
「は、はい!!」
ラシルドの肩にブラックレイブンが止まり、緊張気味のフギルを叱咤しラシルドは去った。
その後も、エステリーゼは的確な指示を出し警戒を続ける。
「さすがだな。エステリーゼ」
「殿下?」
「いや、立派な指揮官だ。学園卒業後はどうするつもりだい? きみが望むなら、召喚士軍を一つ預けてもいい」
「殿下……あ、ありがとうございます」
召喚学園は六年制。三年通うと卒業資格が得られる。
エステリーゼは四年目。もう卒業資格は得ている。進路については、軍に入隊し実績を上げ、ラッシュアウト家の当主になって領地を繁栄させるつもりだった。
だが、アルベロの功績のおかげで、ラッシュアウト家は男爵から伯爵へと昇格したが。
「それと、もう一つ……」
「え?」
「その、こんな場で言うことではないが、魔人という脅威がこの地に来た今だからこそ伝えたい」
「……殿下?」
サンバルトは、エステリーゼをまっすぐ見つめた。
女としての予感が、エステリーゼの胸を高鳴らせる。これは、もしや。
サンバルトは目を閉じ、息を吸い……エステリーゼに言った。
「エステリーゼ、私と結こ「報告、報告!! 魔人が討伐、討伐されました!! S級召喚士アルベロ・ラッシュアウトが魔人を討伐!! 『憤怒』の魔人は討伐されました!!」
と───あまりにも空気を読まない伝令の叫び。
だが、それ以上に報告内容が、エステリーゼの胸を貫いた。
「な───だ、誰が、誰が討伐したと!?」
「え? ああ、S級召喚士アルベロ・ラッシュアウトです!! いやぁ、新たな英雄の誕生です!! S級召喚士アルベロ・ラッシュアウト、S級召喚士アルベロ・ラッシュアウトが『憤怒』の魔人を討伐!! 二十一人の英雄ですら成し遂げなかった快挙です!!」
伝令の叫びが広がり、召喚士や騎士たちは『アルベロ・ラッシュアウト』の名を叫ぶ。
新たな英雄の誕生。
アースガルズ王国の救世主。
そんな叫びと称賛が、エステリーゼの胸に響いていた。
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