終焉
ジャバウォックに完全変化したアルベロは、あまりにも普通に歩きだした。
オウガは歓喜して斧を振り回す。
そして、アルベロはダモクレスとガーネットの元へ。
「ここは俺に任せてください」
「あ、あんた……大丈夫、なのかい?」
「はい。不思議と、すごく清らかな力があふれてきます。モグの……ジャバウォックの真の力が」
「後ろじゃあ!!」
アルベロの背後に、オウガが迫っていた。
ダモクレスが叫ぶが遅かった。斧が振り下ろされ、アルベロの背中が真っ二つに───。
「───あぁ!? んだこれ!?」
真っ二つに───どころか、傷一つ付かなかった。
オウガは狂ったように斧を振り下ろしアルベロの背中に叩きつけるが、鉄を討つような音が響くだけ。
そして、何度目か振り下ろされた斧を、アルベロが掴んだ。
「さて───気が済んだか、オイ?」
「て、テメェ離せ!! 離せゴラァァァァァァッ!!」
「ああ、いいよ……オラァァッ!!」
アルベロは地面を『硬化』させ、オウガを思い切り叩きつけた。
腕から顔面に持つ部分を変え、何度も何度も地面に叩きつける。一撃の威力がタイタンの数倍の威力となり、オウガの全身に衝撃が走った。
「ガッ……!?」
「効かないか」
頭から血が噴き出すが、オウガはすぐに回復する。
アルベロは右手の爪でオウガの腹を掴み、思い切り引き裂いた。
「さっきの借り返すぞ!!」
「ギャァァっ!? っぐ……いっでぇなあチクショぉぉぉぉぉっっ!!」
オウガの拳がアルベロの顔面に突き刺さるが、全くダメージがなかった。
全身を覆う外殻。巨大化した左右の手。強靭な脚部。顔は魔獣のように凶悪で、赤と黄金の眼がギラギラと輝いていた。
アルベロの手から離れたオウガは斧を握る。
「ムカつく眼だ!! その眼……強いくせに、弱そうな眼ぇしやがって!! ジャバウォック、なんでテメーは裏切った!! 魔帝の夢を踏みにじりやがった!! この世界で永遠を誓ったクイーンを、魔帝を裏切ったんだよぉぉぉぉぉ!!」
「…………」
アルベロにはわからない。
でも、わかることが一つだけ。
「モグは……ジャバウォックは、ヒトの生きるこの世界を守ろうと戦っただけだ。俺には魔帝なんて歴史上の文献でしか知らないし、クイーンとかいうのも知らない。でも……人が生きるこの世界を壊すのは、間違ってる!!」
「うるっせぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
オウガは怒りに顔を歪ませる。
そして、全身の血管が膨張し浮き上がる。
それだけじゃない。ツノが伸び、身長が伸び、浮き上がった血管が模様のように広がる。
髪も腰まで伸び、持っている斧がオウガの腕と一体化し巨大化した。
召喚獣としてのオウガの姿は、『鬼』だった。
「ブッコロォォォォォォォォォォォォォンンンンンンッ!!」
「いいよ。終わらせてやる……!!」
アルベロは右腕を巨大化させる。
今までと違い、ただ大きくするだけじゃなく形状も変化した。
巨大な手甲となった右手の爪で、オウガを横薙ぎに引き裂く。
「『
「キクカァァァァァッ!! ジャバウォックゥゥゥゥゥっ!!」
裂かれても一瞬で回復。
能力『回帰』は健在。これがある限り、オウガは無敵だ。
だが───アルベロは勝利を確信していた。
「見せてやる。ジャバウォックのもう一つの能力。召喚獣の王たる真の能力!!」
右手の五指を開き、迫りくるオウガに向けて伸ばす。
「ガァァァァァァーーーーーーッ!!」
「喰らいやがれ!!」
伸びた五指がオウガに触れた瞬間、オウガの身体が黒いモヤに包まれた。
それと同時に、オウガの身体が崩れ落ちる。
「が、ァァァァァッ!? な、なん……」
「オラァァッ!!」
「ガッファァァッ!?」
殴られたオウガが地面を転がった。
オウガは血を吐き、ヨロヨロと立ち───気が付いた。
「な───なんだ!? 傷が、傷が治らねぇ!?」
オウガは、治らない傷に困惑する。
アルベロは右手を構えたまま言った。
「『
「な、お、オレの───」
アルベロは、巨大化させた両手でオウガを包み込んだ。
「『
「や、め、ロォォォォォォォォォォーーーーーーっ!?」
アルベロの手の中で『硬化』され『圧縮』されたオウガは、一瞬の断末魔の後にこの世界から完全消滅した。
◇◇◇◇◇◇
オウガが消滅し、アルベロの姿も元に戻った。
「……ありがとう、モグ」
モグに感謝していると、アーシェ、が飛びついてきた。
「アルベロ、生きてるの!? 大丈夫!?」
「あ、ああ。怪我も治ったし大丈夫、は、離れろって」
「うぅ……よかったぁ」
アーシェを引きはがすと、キッドとリデルも来た。
「お前、なんなんだ今の……『
「似てるけど違う。『
「……それ、オレも使えるのか?」
「さ、さぁ?」
「怪我も治ってるよね……アタシも使えるのかな」
「わからん。モグが……召喚獣が力を貸してくれれば、なれるんじゃね?」
アルベロにもよくわからないので、曖昧に答えた。
すると、ガーネットたちが近づいてくる。
「やりやがったねアンタ……もう、英雄以上の英雄だよ」
ガーネットはボロボロだったが、顔は笑っていた。
そして、ダモクレスも。
「がーっはっはっはぁぁ!! あぁぁ~~~……見事、見事であった!!」
「ダモクレス先生……」
「生徒に助けられるとはなぁ……まだまだ修行が足りん!!」
そして、ヴィーナスとアルジャン。
「ダモクレス、ガーネット。いい男を育ててるねぇ……」
「ほっほっほ。将来が楽しみじゃわい」
「ど、どうも……あはは」
英雄。最強の二十一人の二人がアルベロを褒める。
さすがに声が出ないアルベロ。
「さて……後片付けかね。ダモクレス、ヴィーナス、アルジャン。報告に行くよ……S級の生徒が、『憤怒』を完全に消滅させた、ってね」
ガーネットは、誇らしげに言った。
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