第四章

功績

 S級召喚士、魔帝の七災厄の一つ『傲慢』の魔人ヒュブリスを討伐。

 このニュースは、あっという間に召喚学園だけでなく、アースガルズ王国中に広がった。

 さらに、『暴食』の魔人アベルを討伐したのもアルベロ、つまりS級召喚士だということもわかり、S級召喚士の評判はうなぎ登り。


 魔人の存在は、国民の全てが知っている。

 魔帝が残した七つの災厄。

 最強最悪の召喚獣。この世界を毒す存在。などと言われている。

 魔人の討伐は、アースガルズ王国の……いや、この世界の願いそのものだ。

 そして、復活しどこかで力を蓄えている魔帝の力を削ぐために、魔人は倒さなければならない。

 その悲願を、たった四人……いや、五人のS級召喚士が成し遂げた。

 残りの魔人は五体。その居場所を、アースガルズ王国は全力で探していた。


 アルベロたちがヒュブリスを討伐して十日。アースガルズ召喚学園には、S級召喚士に対する取材が毎日殺到していた。

 学園側は取材を許可しなかった。この件に関して召喚学園は沈黙を貫いている。

 なぜなら、召喚学園の教師の七割は等級至上主義。ぽっと出のS級召喚士がこれほどまで注目されることが、どうしても許せなかったのである。


 そして、アルベロたちS級召喚士の停学は、魔人討伐の功績によって解かれた。

 現在。アルベロたちはS級校舎で授業を受けている。

 リデルが加わり、五人となったS級召喚士たちは、ガーネットの授業を受けていた。

 鐘が鳴り、授業は終わる。


「じゃ、今日はここまで。各人、課題をちゃんとやるよーに。リデル、あんたは書き取りの課題を明日まで提出だからね」

「は、はーい!」


 チョークを置き、ガーネットは課題のファイルをアルベロたちに渡す。

 そして、教卓に肘を乗せ、にんまり笑った。


「授業も終わったし話しておこうか。あんたらが魔人討伐をしたおかげで、S級召喚士の地位は盤石になった。B級やA級の連中がどれだけ騒ごうと、もうS級の存在は無視できない……ふふ、よくやったね」

「フン。あのクソ生徒会長はどうしてる? 悔しさでハンカチでも噛み千切ってんじゃねぇか?」


 キッドは「ざまぁみろ」と言わんばかりの笑顔だ。

 アルベロは、課題をカバンに入れながら言う。


「ま、あんな口だけの雑魚なんてどうでもいいよ。それよりガーネット先生……まだ外出できないんですか?」

「駄目だね。記者連中がそこら中にいる。取材なんて面倒なことやってる暇ないだろ? 今は大人しく学園内でのんびりしてな」

「うーっ……でも、リデルの生活用品、買わないとぉ」


 アーシェがそう言うと、リデルは苦笑した。


「アタシは別にいいよ。学園からの支給品で十分生活できるからさ」

「駄目です!」


 なぜかラピスが怒る。


「私服もないし、必要最小限モノしかないんですよ? 学園支給の下着は白無地で可愛くないし……リデル、ブラのサイズだって合ってませんよね? 着替える時、すっごくキツそう「ままま、待った待った!! ラピス、そんなこと言わないで!!」……あ、失礼しました」


 アルベロはそっぽ向き、キッドは興味ないのか大あくびだ。

 ラピスは顔を赤くして俯き、リデルは「あ、あはは……」と笑った。

 ガーネットはため息を吐き提案する。


「それなら、購買に行けばいいだろう? あそこなら、城下町で買い物するのとそう変わらんさね」

「「「購買……?」」」

「あ、そっか。購買があったっけ」


 アルベロ、ラピス、リデルは首を傾げ、アーシェはポンと手を叩く。

 

「アーシェ、購買ってなんだ?」

「そのままの意味よ。学園内にあるお店。購買は二か所あって、B級以上の生徒が利用できる『高級購買部』と、E級からC級までが利用できる『一般購買部』があるの。高級購買部の品ぞろえは、城下町の高級品店とそう変わらないわ。実際に、町の高級商会が出店してるしね」

「へぇ……でも、俺らは利用できんのか?」

「んー……」


 アーシェは、ガーネットを見る。

 ガーネットは頷いた。


「あんたらはS級さね。今や飛ぶ鳥を落とす勢いのS級が購買を利用できないはずないだろう? 一般でも高級でも好きな方に行きな。金はあるだろう?」


 お金は、たんまりある。

 魔人討伐の報奨金として、アースガルズ王国から大金が支払われたのだ。

 アルベロの場合、ラッシュアウト家が支払う二十年分の税金だ。個人で使うとなると、五十年が遊んで暮らせる金額だ。はっきり言って多すぎたが、もらえる物はもらっておいた。

 ちなみに、魔人ヒュブリスが吐きだした金貨や財宝は、ヒュブリス消滅と同時にドロドロに溶けてなくなった。


「よし、じゃあ高級購買行く? あたし、何度か行ったことあるから案内できるよ!」

「い、一般でいいよ。アタシ、高級品とかいらないし……」

「いいからいいから、女の子なんだしオシャレしないと! ラピスも行くよね?」

「はい! ふふ。女の子友達とお買い物……ああ、ユメが叶いました!」

「じゃあさ、おいしいクレープのお店も行こっ! 購買って飲食店もいっぱい入ってるのよ」

「わぁ! ふふ、楽しみですね、リデル」

「う、うん。いやぁ、平民のアタシのメンタルで耐えられるかな?」


 リデルは、赤いロングポニーテールを指でいじる。

 会話に入れないアルベロは欠伸し、キッドに言う。


「お前はどうする?」

「城下町で飲む。晩飯、適当に済ませとけ」

「またかよ……アルノーさんと飲むのか?」

「ああ。あいつ、ああ見えて酒豪でな。行きつけの店が山ほどあるんだわ。それに、今日は『奴隷オークション摘発記念』とか言ってたしな」

「奴隷オークション……ああ、摘発できたんだ」

「証拠は山ほどあったしな」


 キッドはどこか嬉しそうに見えた。

 アルノーとの付き合いも続いているようだ。


「待ちな。酒と聞いたら黙っちゃいられないね」

「ババァ、まだいたのかよ……」

「ふん。お前、また学園を脱走する気だね? あたしの前でいい度胸じゃないか」

「…………一緒に行けばいいのか?」

「おや? ババァを口説いているのかい?」

「ち、違うっつーの。馬鹿じゃねぇのか……?」

「冗談だ。じゃあ、今夜は飲みに付き合ってもらう。もちろんアルノーもね」

「……ったく」


 やはり、どこかキッドも嬉しそうに見えた。


 ◇◇◇◇◇◇


 その日の夕方。

 キッドは城下町に飲みに出かけ、アーシェたちは高級購買へ。

 アルベロは着替え、学園の中央広場にやってきた。

 F級だったころ、よく座っていた花壇の端にあるベンチへ座る。


「……ここ、モグが花壇のミミズ食べるのにちょうどいい場所だったな」


 なんとなく、センチメンタルな気分に浸る。

 右手をそっと見る。


「モグ、俺……頑張ってるよ」


 夕焼け空が、とても眩しい。

 残る魔人は五体───。


「アルベロ……」


 ふと、声をかけられた。

 ゆっくりとそちらを向くと───そこにいたのは。


「フギル兄さん。お疲れ様です」

「…………ああ」


 アルベロの兄フギルが立っていた。

 そして、その隣にも。


「……話がある」

「ついてこい」


 姉のエステリーゼ、兄のラシルドが立っていた。

 アルベロは何の興味も持たず、フギルだけを見て言う。


「兄さん。何か用事でしょうか? もしよかったら、これから夕食でもどうですか? 小金が入ったので・・・・・・・・、ご馳走しますよ」

「い、いや、いい。それよりも……オレたちの話を聞いてくれ」

「……わかりました」


 エステリーゼとラシルドを完全に無視したアルベロは、フギルだけを見て頭を下げた。

 この態度に、エステリーゼとラシルドの表情が酷くゆがむ。


「ば、場所を変えよう……行こう」

「はい」


 アルベロは、エステリーゼとラシルドを無視し、フギルの背中を追いかけた。

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