後始末

 魔人ヒュブリスは討伐された。

 アルベロたちはアルノーの元へ向かい、そのまま楽園跡地へ。

 豚……ではなく、ヒュブリスの『寵愛者』たちと奴隷が茫然としていた。それもそうだ。黄金カエルが全てを破壊し、ただの更地になってしまったのだから。

 アルノーは怪我を押して『跳躍』を繰り返し近くの町へ向かい、アースガルズ王国軍に連絡。数時間後には派遣された軍人が寵愛者と奴隷を連れて行った。

 アルベロたちは、アルノーと一緒に町へ戻った。

 宿を取り、医者に手当てをしてもらい……ようやく落ち着いたころには、すっかり夜になっていた。

 さすがに何もする気になれず、軽い報告をする。


「えーと、魔人ヒュブリスは討伐した。俺たちの目の前で崩れたから間違いなく死んだよ」

「そうか……ふぅ」


 アルベロはアルノーに報告。

 アルノーもだが、アルベロもキッドもラピスもアーシェも、全員がぐったりしていた。

 そして、もう一人。


「あの……アタシ、ホントにみんなと一緒にいていいの?」


 リデルだ。

 リデルは王国軍と行かず、アルベロたちと一緒に町の宿まで来たのだ。

 休む前に、アルベロは聞くことがあった。


「リデル。これからどうする?」

「……ん」


 答えを出せないリデルに、アルノーが言う。


「魔人ヒュブリスの被害にあった人間ということで、アースガルズ王国は奴隷たちの保護をする。その場合、アースガルズ王国にある施設に入居することになるが……」

「…………アタシは」

「は、復讐は終わったしな。自由にして構わないぜ?」

「…………」

「おいキッド、余計なこと言うな」


 アーシェとラピスは何も言わない。少し不安そうだが、リデルが話すのを待っているようだ。

 アルベロは、もう一つの提案……本題を話した。


「リデル。お前さえよければ……アースガルズ召喚学園に入らないか?」

「え?」

「俺たちはアースガルズ召喚学園のS級クラス。まだ四人しか生徒はいないけど、お前が五人目になってほしい」

「……それは、アタシがこんな脚だから?」

「そうじゃない。確かに、同じ寄生型としての親近感は感じるけど……お前も、俺やキッドと同じ『失った』人だから。一人でいるより、互いに支え合える」

「は、傷の舐め合いはごっふぇ!?」


 キッドが何か言おうとした瞬間、アーシェの肘が腹に、ラピスのショートアッパーが顎に入った。

 

「同じ、か……うん、それもいいかな。でもアタシ、学校なんて行ったことないし、字も上手く書けないよ? それに、アースガルズ召喚学園って、貴族の通う学校でしょ?」

「大丈夫。S級は特殊だし、キッドもアーシェも貴族じゃない。あ、俺もか……」

「そうなんだ……うん、なんか楽しそう」

「ああ。じゃあ、入ってくれるか?」

「いいよ。ふふ、アタシが学園生活を送るなんてね……」

「やった!! 女の子二人目!!」

「リデルリデル、学生寮もありますよ!! 私とアーシェの部屋の隣が空いてますから!!」

「わわっ!? あ、あはは……うん、よろしくね」


 こうして、リデルがS級クラスに入った。

 アルベロは、アルノーに言う。


「アルノーさん。そういうわけで……」

「ああ。ガーネット様には私から伝えておこう。それと、今日明日はゆっくり休んで、明後日には王国へ帰還だ。それから、帰りは別の騎士が護衛に付く」

「え、アルノーさんは一緒じゃ……」

「私はまだやることがある。ふ……例の奴隷オークションを摘発せねばな」

「そんな、怪我もしてるのに……」

「問題ない。仲間も大勢いるし、ガサ入れの準備は進んでいる。きみたちはきみたちのやるべきことを、しっかりやりなさい」

「アルノーさん……」

「よし。今日は解散だ。みな、しっかり休むように」


 そう言って、今日の反省会は終わった。

 その翌日。アルベロたちは殆ど寝て過ごし、翌日には帰る馬車に乗り込む寸前だった。

 アルノーは、アルベロたちに言う。


「こんな言い方は不適切かもしれないが……楽しかった」

「俺もです。アルノーさん、ありがとうございました!!」

「あたしも、楽しかったです!」

「お世話になりました、アルノー様」

「その、ありがとうございます」


 アルベロは思いきり頭を下げ、アーシェも下げる。

 ラピスはスカートを摘まんで一礼し、リデルはオロオロしながら頭を下げた。

 そしてキッドは。


「おい、帰ったら酒奢れよ」

「ふ……いいだろう。私の行きつけを紹介してやる」

「フン……まぁ、いろいろありがとよ、アルノー」


 キッドはそっぽ向き、帽子で顔を隠しながらお礼を言った。

 アルベロはニヤニヤしながらキッドを肘で突くと、なぜか殴られた。


「いってぇ!? な、なにすんだ!?」

「ムカつくからだよ、ガキ」

「んだと!?」

「はいはい。素直じゃないキッドもアルベロもやめなって」

「ふふ。みんな仲良しです」

「…………」


 リデルは、ギャーギャー騒ぐアルベロたちを見て微笑む。

 家族は失った。住んでいるところも、召喚獣も失った。

 でも、それで終わりじゃない。新しい場所を手に入れ、新しい脚も手に入れた。

 失うだけじゃない。失って強くなることもある。


「……アタシ、頑張るね」


 リデルはそう呟き、亡き家族を心で想った。

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