第195話 響、敢えて繰り返し言おう。まだまだ狡猾さが足りない
紅葉がオーディンと一緒に素振りをしていた頃、響はアランに騎乗し、ロキの創り出した
そんな響に対し、ロキはニヤニヤしながら声をかけた。
「響、逃げてばかりじゃこいつは倒せないぞ」
「そう思うなら、もうちょっとハードル下げて」
「それじゃ修行にならない」
「くっ、正論を言うなんて」
「おかしい。なんで俺が正論を言ったはずなのに、悪者扱いされてるんだ?」
ロキの疑問に、響は答えなかった。
正確には、答える余裕がなかったというのが正しいだろう。
ロキが響の修業のために用意したのは、ゲリュオンと呼ばれる
元々は魔界のモンスターだったが、ロキが魔界からサンプルとして連れ帰り、その後いくつもの実験を重ねて
その見た目は、巨人だが普通の巨人ではない。
下半身は1つだが、3つの顔と6本の腕を持つからだ。
しかも、それぞれの腕に剣が握られており、先程から響達はゲリュオンの放つ斬撃を避けるのに必死になっている。
「【
ゴポポッ、ヒュッ、ジュワァァァァァッ!
自分達に襲い掛かる刃に対し、響は橙赤色の液体を飛ばした。
すると、それに当たった剣が融けた。
「ほう、まず1本。やるじゃないか」
ゲリュオンが持つ6本の内、1本の剣を使えなくしたことで、ロキは感心した様子を見せた。
「【
ゴポポッ、ヒュッ、ヒュッ、ジュジュワァァァァァッ!
今度は、2本の剣を融かした。
「残り半分か」
「「「ウォォォォォッ!」」」
スパパパァァァン!
ゲリュオンが咆哮と共に、残った3本の剣で響達に対して斬撃を放った。
「アラン、防げる?」
「問題ないでござる。【
キキキィィィン!
アランがスキル名を唱えると、アランの翼が鋼でコーティングされ、その翼でゲリュオンが放った斬撃を弾いてみせた。
「【
ズズズズズッ、グサグサグサグサグサッ!
「「「ウォォォォォッ!?」」」
突然、足元から地面がなくなり、落下したと思ったら足に刃物が突き刺さる感覚が生じたので、ゲリュオンは困惑して叫んだ。
その隙を、響が見過ごすはずはなかった。
「首置いてけ。【
スパァァァァァン!
ゲリュオンの肩の上に、影を経由して移動すると、響は月読を振り抜いてゲリュオンの首を1つ落とした。
しかし、残った2つの首が自分を睨んだので、響は続けて攻撃するのを断念した。
「【
上空で待機するアランの背中に、響は急いで戻って来た。
「アラン、距離を取って」
「了解でござる」
その指示のすぐ後、残ったゲリュオンの2つの頭の口が光を帯びた。
「あれって、どう見てもビームを発射前だよね。【
ズズズズズッ、ボキボキボキボキボキィッ!
「「ウォォォォォッ!?」」
穴に落ちて動けないゲリュオンが、口からビームを放つと予測した響は、ゲリュオンの影を操って関節技を決めた。
ボボン!
関節技によって、ビームが軽く誤爆したが、ゲリュオンは関節技の痛みの方が辛いらしく、ビームを誤爆したことで声を漏らすことはなかった。
再びできた隙に、響は攻撃を仕掛けた。
「【
グサッ!
「「ヴォォォォォッ!?」」
「【
ゲリュオンの首元に月読を突き刺すと、響はすぐに上空で待機するアランの背中に戻った。
響が刺した部位が、毒々しい色に変色し、ゲリュオンを苦しめ始めた。
それに加え、【
「「ヴォォォォォッ!」」
「アラン、あいつを閉じ込めて」
「任せるでござる。【
バリバリバリィィィィィン!
「「ヴォォォォォッ!」」
混乱する頭と体を蝕む猛毒だけでも、ゲリュオンは十分苦しい状況だったのに、そこに更に騒音まで加われば、ゲリュオンへの嫌がらせもここに極まれりというものだろう。
ドッシィィィィィン!
ゲリュオンは混乱した2つの頭同士で頭突きし合い、それによって平衡感覚を失ってその上半身前が倒れた。
「アラン、解除」
「完了でござる」
「よろしい。【
スパァァァァァン! スパァァァァァン!
響の連続攻撃により、ゲリュオンの首2つは斬り落とされ、そのまま動かなくなった。
《おめでとうございます。個体名:新田響が、クエスト1-6をクリアしました。報酬として、月読の復活率が60%になり、月読は【
《おめでとうございます。個体名:新田響が、クエスト1-7をクリアしました。報酬として、月読の復活率が70%になりました》
《月読の【
神の声が聞こえなくなると、響はアランを着陸させた。
「アラン、お疲れ」
「拙者、大して疲れてないでござるよ」
「そう? それなら、次はもっとアランに頑張ってもらおうかな」
「おっと、失言でござった」
パチ、パチ、パチ。
そこに、今までの戦闘をじっくりと見ていたロキが、わざとらしい拍手で割って入って来た。
「ふむ。辛うじて及第点だ」
「上から目線なうえに、辛口だね」
「神なんだから、上からなのは当然だ。では、何故その評価になったか俺が解説してやろう」
「わかった」
「まず、ゲリュオン相手にダメージを負うことなく勝った。+10点」
「勝っただけじゃ10点しかくれないの? というか、満点はいくつ?」
「100点満点で、50点が及第点だ。次、状態異常を利用してゲリュオンを苦しめた。+10点」
ノーダメージでゲリュオンに勝ったことと、ゲリュオンを状態異常にしたことが同じ配点だったので、響は思う所があったが今は黙っておいた。
「ゲリュオンを穴に落とし、穴の底の罠に嵌めた。+10点。ゲリュオンの首を落として倒した。+10点アランの力を借りて戦った。+10点。以上だ」
「ちょっと待って。足りない部分も教えて」
「良いだろう。足りなかったのは、アランを十全に活かした戦いができていなかったことと、狡猾さが足りなかったことだ。これらがなかったから、響とアランには50点をつけた」
「アランを活かせてない?」
「先程、アランも自分で言ってたじゃないか。大して疲れてないと。それは、響がアランを有効活用しきれてないからだ」
「・・・確かに、補助と空中の離脱先でしかなかったね」
ロキに指摘され、響はロキの言い分が正しかったことを認めた。
ゲリュオンに対し、紅葉はヒット&アウェイを繰り返して慎重に戦ったからだ。
アランの出番が、【
そう思えば、ロキの言っていることが正しいと考えるのも自然である。
「狡猾さが足りてなかったことについては、色々言いたいことがある」
「何?」
「例えば、なんでゲリュオンに目潰しをしなかったのか?」
「目潰し?」
「その通りだ。炎で焼く、眼球に突き刺す、【
「確かに・・・」
ロキの指摘により、それをすれば先程の戦闘がもっと早く片付いただろうことに気づき、響は下唇を噛んだ。
「脚の腱を切断しても良かったし、口の中に【
「次から次へと、良く思いつくね」
「響、それが俺を狡知神たる所以だ。この先、余裕でモンスターを殺戮し、楽して勝ちたいのなら、やれることはなんだってやれ。卑怯だと言われようが、勝てば官軍なのさ」
「なるほど」
「響、敢えて繰り返し言おう。まだまだ狡猾さが足りない」
もし、この場に紅葉がいたら、なんで余計なことを言ったとロキに猛抗議したであろうことをロキは響に言った。
そして、響はロキの指導を受ければ、もっと楽に確実に勝利を手にできることを確信した。
それと同時に、この修業が終わった時、紅葉に何をしてからかうかという余計なことも考えていた。
まだ、ロキの修行は始まったばかりにもかかわらず、響は強くなるヒントを手にしたのだった。
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